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アメリカ人も悩む…「SNSの濃い闇」 人気ミュージカルが描くリアル

大ヒット中のミュージカル「ディア・エヴァン・ハンセン」。舞台上にSNSの「投稿」が投影される=ロイター
大ヒット中のミュージカル「ディア・エヴァン・ハンセン」。舞台上にSNSの「投稿」が投影される=ロイター

目次

 新学期が始まりました。誰もが元気に登校するわけではないこの時期。学校に行かなくてもいいと呼びかけるメッセージが話題になるのは、人間関係に悩む人の多さの裏返しなのかもしれません。アメリカで今、大ヒット中のミュージカルが、まさに、そんな「息苦しさ」を描いています。高いチケット(119ドル~)にも関わらず10代の若者も足を運び、立ち見が出るほどの人気に。作品が描くのは「SNS」がもたらす光と「濃い闇」でした。(朝日新聞さいたま総局記者・増田愛子)

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トニー賞で作品賞を含む6部門

 高校時代から演劇好きで、新聞記者になったのも、演劇担当を目指してのこと。そんな私ですが、ここ15年ほど、夏休みなどを利用してほぼ毎年、ニューヨークやロンドンでミュージカルや演劇を見続けています。

 出来るだけ多くの作品を……と欲張るため、気分はもう「観劇マラソン」。この8月はニューヨークに7日間滞在、11作品を観劇しました。

 そんな中で、一番、印象に残った作品があります。

 今季のブロードウェーで最も人気を集めるミュージカル「ディア・エヴァン・ハンセン(Dear Evan Hansen)」。

 ソーシャルメディア時代の孤独な若者の心を描いた作品は、アメリカの演劇界最高の栄誉とされるトニー賞で、作品賞を含む6部門に輝きました。

ミュージカルの聖地、ブロードウェー
ミュージカルの聖地、ブロードウェー 出典:https://pixta.jp/

「投稿」がひっきりなしに投影

 開演前、客席に入ると、舞台につり下がる何枚ものスクリーンが目に飛び込んできます。小刻みな電子音と共に投影されているのは、ツイッターなどのタイムラインのイメージ。

 ここで演じられる物語が、劇場の外の「現実」でリアルタイムに語られている――そんな印象です。実際、舞台では、劇中で主人公の行動がネット上で注目を集めると、ひっきりなしに「投稿」が増えていく様が投影されます。

 主人公の高校生エヴァンは母親と2人暮らし。他人と関わるのが極端に苦手で、宅配ピザの配達員と話すにもおじけ付くほどです。

 ある日、「問題児」の同級生が自殺し、その両親はエヴァンを息子の唯一の親友だったと誤解します。真実を伝えられないまま、「ウソの友情」は彼をネット上のスターに押し上げていきます。


共感と濃い闇

 孤独、自分の居場所を渇望する心、喪失の痛み……。ネット上の「コミュニティー」が、多くの人を瞬時に「共感」で結びつける力の光と共に、時に「凶器」ともなりうる濃い闇も描いていきます。

 繊細、かつ巧みな脚本(スティーブン・レベンソン)もさることながら、圧巻はエヴァンを演じるベン・プラットの存在です。

 人と話す時も、きょろきょろと動く落ち着きのない瞳、ずっと手でシャツを触り続ける神経質なしぐさは、とても「演技」とは思えないほど、リアルで細密です。

 そしてひとたび歌い出すと、伸びやかな高音を響かせ、エヴァンのうっ屈した思いを爆発させます。

「タップして ウィンドー越しに手を振り続けて」

人付き合いの苦手な主人公、エヴァンを演じるベン・プラット=ロイター
人付き合いの苦手な主人公、エヴァンを演じるベン・プラット=ロイター

「タップして ウィンドー越しに手を振り続けて」

 セリフには、スマホ世代ならではの表現がちりばめられています。

“On the outside always lookin'in Will I ever be more than I've always been?”
(いつも僕は締め出されてばかり 今まで以上の自分になれるだろうか)

“’Cause I'm tap-tap-tappin' on the glass Waving through a window”
(だから画面をタップ、タップまたタップして ウィンドー越しに手を振り続けて)

 私は、エヴァンの叫びに、ふとしたことでクラスでのけ者になったり、誰も気持ちを分かってくれないと感じたりした10代を思い出し、少し胸がキュッとしました。

トニー賞のトロフィーを掲げるベン・プラット=ロイター
トニー賞のトロフィーを掲げるベン・プラット=ロイター

チケット高いのに…10代の若者も

 作詞・作曲は、映画「ラ・ラ・ランド」でアカデミー賞主題歌賞を受賞した、ベンジ・パセックとジャスティン・ポールのコンビ。

“No one deserves to disappear”
(消えてしまって良い人間なんていない)

“You will be found”
(君はきっと見いだされる)

 登場人物たちの痛みを描く一方で、「誰かに認められたい」「人とつながりたい」と求める心に、優しく語りかけるような歌詞がしみてきます。

 人気沸騰で、高額かつ入手しにくいチケット事情にも関わらず、立ち見も含め、熱っぽい瞳を舞台に向けるティーンエージャーが数多く客席にいたのも印象的でした。

 もちろん、かつて子どもだった、そして今、社会のどこかに「居場所」を探している大人にもきっと響く作品です。

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