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コード・ブルーが描く「臓器移植」 絶対、伝えたかった「6行」の紙
ヘリコプターで患者の元へ飛ぶ救急医療。最前線にいる医師たちをリアルに描くフジテレビの人気ドラマ「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」の第3シーズン。今回は、脳死と判定された人からの臓器提供の様子が克明に描かれたり、救命救急部長の息子が心臓移植を待っていたりと、「臓器移植」が大きなテーマとなり、反響を呼んでいます。「臓器移植をめぐる『かけがえのない6行』を描こうと思いました」。プロデューサーの増本淳さんに、話を聴きました。
毎週月曜午後9時に放送されている「コード・ブルー ドクター・ヘリ緊急救命 THE THIRD SEASON」。
第1・2シーズンではフライトドクターやナースを目指していた若い医療者が、「教える立場」になり、その成長や迷いが描かれています。
8月21日に放送された第6話では、17歳の高校生が脳死と判定されて、家族が臓器提供を決断し、臓器が摘出されるシーンが描かれました。
事故に遭った高校生を救えなかった救命医の緋山(戸田恵梨香)は、摘出手術を見守ります。その後、エンゼルケアと呼ばれますが、ドナーになった高校生の髪を洗う場面も描かれます。
一方で、救命救急部長の橘(椎名桔平)は、重い心臓病を患う息子・優輔(歸山竜成)がおり、移植を待つ立場です。今回の臓器提供では、順位が2番目となり、選ばれなかった現実を突きつけられます。
増本さんは、シーズン3のテーマを何にするか考えていた今年初めごろ、臓器移植の関係者たちを取材しました。
「日本では臓器提供の数が少ないことを、初めて知りました。あまり知られていないから、広がっていない面もあるんじゃないかと感じました」
海外に比べて、日本の脳死ドナー数は少ないのが現状です。昨年は64例でした。
人口100万人あたりで比べた2015年の数字では、米国の28.5人、韓国の10人に比べ、日本は0.7人でした。
今年は、臓器移植法が施行されてから20年にあたるということも知り、「この番組をきっかけに、興味を持ってもらえれば」と考えたそうです。
臓器提供は、「提供したい」という本人や家族の思いにもとづくものです。
でも、増本さんは「きれいごとにはしたくないと思いました。提供する方も、臓器提供を受ける側も、迷いながらしているんじゃないかと思ったんですよね」。
取材を続ける中で、増本さんが何より驚いたのは、臓器提供に至るまでの手順やシステムだったといいます。
臓器提供が決まると、日本臓器移植ネットワークのリストと選択基準にもとづき、移植される人が選ばれます。提供施設には移植医のチームが集まって、黙禱し、手順にのっとって心臓や肺を摘出していきます。
それぞれの臓器が、どの施設の患者に移植されるのか。それは1枚の紙にまとめられ、移植ネットが、個人を特定できない範囲で発表します。
ドラマでは、高校生の救命にあたった医師の緋山が、移植を受ける6人が入院している施設と年代を読み上げ、こう続けます。
「この『6行』は、匠くんが17年間生きた証し。この一行一行に、これから生きる6人の未来が書かれている」
取材でこの紙を見た増本さんは、大きな衝撃を受けたそうです。
「すべてが詰まっている紙だと思いました。亡くなったひとりの人の臓器が、6カ所に散っていく。提供する側、提供される側にとって、かけがえのない6行だと思い、絶対に描こうと思いました」
緋山を演じる戸田さんは、このシーンをきっかけに、家族で臓器提供について話したといいます。
「このシーンに参加できたことに意義を感じている、と言われたときは、うれしかったですね」
9月11日の第9話では、心臓移植を待っている橘の息子・優輔の葛藤が描かれます。
実際に移植を受けた男性を取材したとき、「人の臓器をもらってまで、自分に生きる価値があるのか。受けるか受けないか、とても悩んだ」という声を参考にしたそうです。
「提供する、しない、移植を受けたい、受けたくない。すべて正解はないと思います。このドラマは、答えのないドラマなので、これをきっかけに、少しでも興味を持ってもらえれば、やってよかったな、と思いますね」
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