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名古屋に多い…謎の「高速猫」 どこから侵入? 夏に増える「悲劇」

名古屋高速の入り口の情報板に表示された「猫に注意」の表示
名古屋高速の入り口の情報板に表示された「猫に注意」の表示

目次

 「猫に注意」「猫捕獲中」――。名古屋市と周辺を通る高速道路では、情報板や巡回車の電光板でこんな表示がよく出されます。物珍しさから、ツイッターなどでもたびたび話題になっています。ただ、侵入経路はわかっておらず、なぜか夏に多いのだとか。名古屋高速に聞くと、猫の死骸の数も多いそう。猫たちの「悲劇」の理由を探ってみました。(朝日新聞名古屋報道センター・田中恭太)

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巡回車に「猫捕獲中」の文字

 6月末のある平日朝の名古屋高速。タクシーで取材先に向かっていると、市内を通る環状線で巡回車2台が1車線を塞ぎ、巡回車の電光板には「猫捕獲中」の文字が光っていました。

 珍しいな、と思って眺めていると、「よくあるんですよ」と乗っていたタクシーのベテラン運転手がぽつり。ネットを調べると、確かにツイッターやブログででは情報板の写真や、「初めて見た」「無事降りただろうか」とのつぶやきがいくつも見つかりました。

 本当に猫の侵入は多いのでしょうか。

「猫捕獲中」と表示した巡回車と、パトロールなどにあたる交通管理隊員=名古屋市北区清水4丁目
「猫捕獲中」と表示した巡回車と、パトロールなどにあたる交通管理隊員=名古屋市北区清水4丁目

8年前から表示

 「週に1度はあるかな。ただ、カウントはしていないんです」。名古屋高速道路公社(本社・名古屋市)の交通管理課・稲垣了史(さとし)課長が教えてくれました。

 幸い、猫が原因で引き起こされた大きな事故はこれまでなく、詳しい記録もとっていないそうですが、感覚では多いようです。

 そのため公社では8年前の夏からこの表示を導入しました。広報課によると、具体的に「猫」と表示しているのは、「動いて飛び出す場合があり、運転手にできるだけ正確に伝えるため」という理由からだそうです。

名古屋高速道路公社の交通管制室。猫発見の通報を受けると、道路の9割以上をカバーするカメラで位置を確認する
名古屋高速道路公社の交通管制室。猫発見の通報を受けると、道路の9割以上をカバーするカメラで位置を確認する

侵入路「猫に聞きたいぐらい」

 侵入数のデータはありませんでしたが、道路上で回収した動物の死骸については記録がありました。昨年度は107体。そのうち「半分以上が猫」だそうです。

 今年1~7月は30匹の死骸を回収。うち18匹は6~7月でした。記者が表示に気付いた日には東片端入り口(東区)、尾頭橋出口(中川区)でも猫が見つかりましたが、残念ながら3匹とも死んでしまっていました。

 でも、名古屋高速はほとんどが高架のはず。道路に餌になるようなものもありません。稲垣課長の印象では市中心部の環状線とその周辺で見つかり、「7~9月ぐらいが多い」そうです。どこから、なぜ入ってくるのでしょうか?

 「僕らもわからんのです。逆に猫に聞きたいぐらい」

名古屋高速で出されていた「猫に注意」の表示
名古屋高速で出されていた「猫に注意」の表示

「誤進入」説、目撃証言はなし

 公社内で有力な説の一つが、高速の出入り口からの「誤進入」。特に、名古屋高速の出口の多くは料金所がなく、ひとけがありません。猫が獲物を追ったり、迷ったりして、そのまま入り込んでいる可能性があるとみられています。

 巡回係の一人に取材すると、「車に乗りこんでやってくるのでは」との仮説も出てきました。停車中の車のエンジンルームや荷台に入り込んだ猫が、車とともに高速に入り、走行中に飛び降りるという見方です。

 ただ、いずれも「目撃証言」はなく、社内でも謎のままだそうです。

使用頻度は少ないが、「犬捕獲中」の表示も用意してある
使用頻度は少ないが、「犬捕獲中」の表示も用意してある

繁殖時期に関係?

 もう一つ、「夏に多い」という謎も残っています。

 名古屋市動物愛護センターに電話をすると、獣医師鳴海大助さん(46)が取材に応じてくれました。取材の前の週に「最近、名古屋高速で『猫注意』とよく見る。心配だ」と市民からメールが届いていたそうです。やはり気になる人は多いのか……。

 一つの推論を教えてくれました。

 猫の繁殖期は冬で、春に生まれてくることが多く、センターも4~6月が野良猫の回収で一番忙しいそうです。

 「生まれたすぐは目も見えませんが、2カ月経つと走れるようになるんです。走れるようになった猫が、高速道路にも上がってしまうのかもしれません」。

 なるほど、ありえそうです。

名古屋高速の道路上に表示された「猫に注意」
名古屋高速の道路上に表示された「猫に注意」

放し飼いが多い猫

 そして、名古屋市は野良猫が多いことも影響してそうです。

 環境省のまとめによると、名古屋市で2015年度に収容された所有者不明の子猫の数は922匹で、同市を除く県内自治体の計998匹とほぼ同じ。名古屋市の収容数は政令指定都市では大阪、京都、仙台に次ぐ多さでした。

 鳴海さんによると、野犬は戦後、狂犬病対策で少なくなりましたが、猫は今も放し飼いにする飼い主が多いため、野良猫がなかなか減らないそうです。高速道路の「悲劇」の根本的な原因は、こんなところにあるのかも知れません。

 鳴海さんは「猫は動物愛護法で愛護動物と位置づけられ、保護していかなければいけない動物です。事故に遭ってしまうし、避妊・去勢をしていないと子猫も生まれてしまう。大事な猫は室内で飼って欲しいです」。

名古屋高速の入り口の情報板に表示された「猫に注意」
名古屋高速の入り口の情報板に表示された「猫に注意」

他の都市高速は?

 ついでに他の都市高速にも聞いてみました。

 阪神高速道路(本社・大阪市)は、詳しい内訳の記録はないものの、年間に300~400件ある動物の死骸回収数のうち、最も多いのが猫。ただ、犬もよく侵入し、山あいを通る北神戸線ではタヌキやアライグマも出るそうです。

 一方、首都高速道路(本社・東京都千代田区)は「なくはない」という程度で、6月に10匹以上あった名古屋高速に比べれば「桁が違うのでは」(担当者)と言うほど少ないのだとか。

 東日本、中日本、西日本の各高速道路は、猫の侵入自体はあるそうですが、詳しい記録はなし。福岡北九州高速道路公社(福岡市)でも猫の侵入はあり、名古屋高速同様、「猫注意」や「猫処理中」と注意を呼びかけるそうです。

 ちなみに、もし高速道路を運転中に猫などを見つけたらどうしたら良いのでしょうか。名古屋高速の稲垣課長は「安全なところで道路緊急ダイヤル(#9910)に連絡を」。急にハンドルを切ると事故になる可能性もあり、「情報板をよく見ておいて欲しい」とも話しています。

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