話題
「イスラム国」驚きの「シノギ」 買うと損する金貨、略奪、密売も
またたく間に勢力を広げ、中東のイラクとシリアの広い地域で制圧した過激派組織「イスラム国」(IS)は、「国家」を自称していました。自ら貨幣もつくっていたといいます。その財源を支えたのは略奪、密売、上納金など、ヤクザ顔負けの「シノギ」でした。知られざるISの錬金術を解説します。(朝日新聞国際報道部)
ISは2014年6月、イラク北部の都市モスルを制圧すると、自分たちは「国家」になったと宣言。モスルはイラクで2番目に大きい都市で、約200万人が住んでいました。
それまでに支配していた都市も含め、ISはシリアとイラクにまたがる広大な地域を「領土」としました。
形だけの宣言にとどまらず、ISは国家としての体裁を整え始めます。
法務、宗教、戦争、鉱物資源など14の「省庁」をつくって専門家や「官僚」を置き、支配地域には「知事」を任命しました。
さらに、独自の金・銀・銅貨も発行。道路の補修といった住民サービスも提供し、ガソリンの販売価格は半値に下げたといいます。
戦闘員には給料を支払い、ネット上を中心に宣伝活動にも力を入れていました。
こうしたことをするためには、まとまったカネが必要です。
収入源の一つとされるのが、略奪。ISはモスル占領時に銀行を襲い、5億ドル(約550億円)ともいわれる大量の現金を手にしました。
身代金目的の誘拐も多発しました。
インターネットで公開された動画では、アラビア語で「イスラム国」と刻印された金貨を手に喜ぶ住民の様子が映し出され、米ドルのことを「無価値の紙切れだ」と批判しました。
しかし実際には、住民たちは「買うと損をする」と嫌がっていたといいます。
というのも、金貨の価値は19万イラクディナール(日本円で約1万7千円)ほどしかないのに、21万イラクディナール(約1万9千円)で売りつけていたからです。
金貨1枚あたり約2000円のピンハネ。石油業者らがしぶしぶ買っていたそうです。
ISの通貨は、もともとあったイラクディナールに取ってかわることはありませんでした。ただ、ISが支配する油田でとれた石油の取引には、この独自通貨を使うことが強制されたといいます。
ISは石油の生産や流通を地元住民に任せていました。その代わり、金貨を使って手数料を納めさせていたのです。
フランスのテロリズム分析センターの推計では、2015年の1年間でISの収入は約24億ドル(約2600億円)。その25%が石油の密売によるものだったそうです。
ところが、最大の金づるは別にありました。支配地域の住民、約800万人から巻き上げた「税」や「罰金」です。収入全体の33%を占めたといいます。
ISは「聖戦士へのカンパ」を名目に、住民に対して金銭の支払いを強制。イスラム教徒の義務とされている「喜捨」だと言い張って正当化しました。本来の「喜捨」は、貧しい人たちへの寄付が目的です。しかし、ISの支配下では戦闘員や関係者ばかりが肥え太りました。
毎月の売上高の20~25%を支払え、さもなければ店は没収だ。そうISに迫られたと、モスルの商店主らは朝日新聞の取材に証言しています。「ショバ代」を迫るヤクザのようなやり口です。
イラク政府軍は2017年7月、モスルを奪還。人口密集地を失ったことで、ISの収入は8割減少するとイギリスの調査会社は分析します。
ただ、イラク人研究者のヒシャム・ハシミ氏は、ISが現在もシリア東部の油田の6割を支配し、月5000万ドル(約55億円)以上を得ているとみています。
戦闘を続ける余力は、なお残っていると言えそうです。
1/46枚