話題
「石打ちの刑、見に行かない?」イスラム国が作った「恐怖の教科書」
自らを「国家」と言い張る過激派組織「イスラム国」(IS)は、教育も独自のやり方で行いました。教科書を新たにつくり、算数で「小銃」「弾倉」「戦闘員」といったことばを例題に、英語では「不倫をしたカップルの石打ちの処刑があるんだけど、見に行かない?」という例文を載せていたといいます。解放された住民の証言をもとに、その手法を探りました。(朝日新聞国際報道部)
ISの教育について調べている「イラク開発機構」が入手した教科書によると、小学校5年の算数はこんな内容でした。
別の住民の証言によると、「IS戦士が10人の敵のうち4人を殺しました。敵は何人残っていますか」という問題もあったそうです。
一部の教科書は自動小銃などのイラストを掲載。理科の時間では畑に地雷を設置する方法が教えられたといいます。
英語の教科書に載っていた例文は以下の通り。
ISが2014年6月に占領したイラク北部の大都市、モスルで高校教師をしていた男性(32)の話によると、占領後も教師たちは同じ学校で仕事を続けました。ただし、給料はゼロに。
当初は同じカリキュラムでしたが、1年ほど経つと、ISは教科書を取り上げて焼き、独自の教科書を導入したといいます。
ISは学校を定期的に見回り。共感する生徒や戦闘員の子どもが密告するのを恐れ、IS批判は避けました。
また、当時中学生だったアフマドさん(19)とムサブさん(17)によると、地理や歴史はイスラム世界だけが学習の対象となったそうです。
ISの解釈に基づいたイスラム法の授業が採り入れられ、「不信心者」に対して「聖戦」をすることの重要性が強調されたといいます。銃の使い方や爆弾の仕かけ方、信管(火薬の起爆装置)の外し方も学ばされました。
アフマドさんは当初、ISはイスラム教を普及させる集団だと思い、共感していました。ですが、無実の市民が殺されたり、人々が飢え始めたりするのを見て、実はテロ組織だということを理解したといいます。
ISは子どもたちに活動への参加をいつも呼びかけ、アフマドさんとムサブさんの友人も大勢が戦闘員になったそうです。
2人によると、最もISの影響を受けたのは、小学生くらいの、学校でも年齢の低い子どもたちでした。ISからの解放後も、避難民のキャンプで土の人形を作って首を切り落とし、「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んでいる子どもの姿が目撃されています。
友達をむちで打つ遊びや、友達の首にナイフを模した棒きれをあてる「斬首刑ごっこ」も日常化しているそうです。
当時女子中学生だったサファラさん(17)の話では、ISの教育に影響され、戦闘員と結婚した友人もいました。
また、ISは住民の情報を完全にコントロールしようとし、携帯電話を使うことや、衛星放送を見ることを禁止。子どもたちにも「お金を払うから(決まりを破った人間を)密告しなさい」と吹き込んだそうです。
5年生以上の健康な男児からは、軍事訓練所に送られた子どももいたといいます。過激思想を教え込み、爆発装置のしかけ方や、銃やナイフを使った殺人術を教えました。オランダの情報機関によると、「仲間が人の首を切るのを強制された」という証言もあるそうです。
「イラク開発機構」の調査によると、住民の多くは子どもがISの思想に染まるのを恐れ、通学を禁じました。モスルではIS独自のカリキュラムが強制されると、子どもの約9割が学校に通わなくなったといいます。
ですが、ISの「聖戦教育」は学校にとどまりませんでした。町々で広場にテントを設け、中に大型のスクリーンを置いて子どもたちを集め、ISの戦闘や「処刑」の記録映像を見せたといいます。
さらに、「公開処刑」に住民を参加させ、子どもたちを最前列に並ばせたそうです。
国連機関の「国際移住機関」でイラク市民の心理サポートを担当するレナト・リバノラさんによると、IS支配下で育ったモスルの子どもには、攻撃的な振る舞いや、極端に他人との関わりを避ける傾向が見られるといいます。
「こうした子どもたちを放置すれば、将来、人の命を顧みないテロリストになる恐れがある。彼らが日常生活の中で幸せを感じ、将来への希望が持てる安定したコミュニティーをつくらなければならない」
リバノラさんはそう強調しています。日本人にも協力できることがたくさんありそうです。
1/46枚