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監獄ホテルに無印も参入 「美しすぎる刑務所」が生まれた本当の理由

赤れんがの外観が美しい旧奈良少年刑務所=2017年7月、溝脇正撮影
赤れんがの外観が美しい旧奈良少年刑務所=2017年7月、溝脇正撮影 出典: 朝日新聞社

目次

 老朽化などのため、2017年3月末に閉鎖された奈良市の旧奈良少年刑務所。国の重要文化財にも指定された歴史的な建物ですが、このたび、全国初の「監獄ホテル」に生まれ変わることになりました。刑務所とは思えない立派な建物。そこには、明治時代、西欧列強と渡り合う日本が「美しすぎる刑務所」を作らなければならかった「本当の理由」がありました。

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赤れんがの外観が美しい旧奈良少年刑務所

 大勢の観光客が訪れる奈良公園や東大寺から北に歩くこと約20分。閑静な住宅街の中に突如、赤れんが造りの壁や大きな表門が現れます。上部がタマネギのような形をした門柱やアーチ状のデザインが目を引く、この建物が旧奈良少年刑務所です。

旧奈良少年刑務所の表門=2017年7月、矢木隆晴撮影
旧奈良少年刑務所の表門=2017年7月、矢木隆晴撮影 出典:朝日新聞

 表門をくぐるとと、広々とした中庭と、その奥には刑務所の庁舎が見えます。

旧奈良少年刑務所の中庭と庁舎=2017年7月、矢木隆晴撮影
旧奈良少年刑務所の中庭と庁舎=2017年7月、矢木隆晴撮影 出典:朝日新聞社

 刑務所が建てられたのは1908(明治41)年。設計したのはジャズピアニスト山下洋輔さんの祖父で、監獄建築家として司法省(当時)に勤めていた山下啓次郎さんです。

 啓次郎さんは「明治の五大監獄」(千葉、金沢、奈良、長崎、鹿児島)の全てを設計。このうち奈良少年刑務所は現存する刑務所として最後まで運用され、国の重要文化財にも指定されました。

 建物を真上から見ると、刑務所ならではの特徴的な設計がよくわかります。刑務官がいる中央看守所から放射状に5つの収容棟が延びる様子は、まるで手のひらを広げたような形をしています。

真上から見た刑務所。中央の看守所から5つの収容棟が放射状に配置されている=2017年7月、溝脇正撮影
真上から見た刑務所。中央の看守所から5つの収容棟が放射状に配置されている=2017年7月、溝脇正撮影 出典:朝日新聞社

 中央看守所からは、収容棟の廊下が全て見渡せるような設計になっています。外の優雅さとは打って変わって、中は実用的な刑務所そのもの。刑務官が立つ看守台や鉄格子があり、収容棟に通じる廊下の入り口には各棟の名称「第1寮」から「第5寮」までのプレートが掲げられています。

中央看守所の2階。看守台からは5つの収容棟の廊下が全て見渡せる=2017年7月、内田光撮影
中央看守所の2階。看守台からは5つの収容棟の廊下が全て見渡せる=2017年7月、内田光撮影 出典:朝日新聞社

受刑者が使っていた独房が「客室」に?!

 「監獄ホテル」と言うからには、客が寝泊まりする部屋があるはずですよね。聞いてみると、やはり、実際に受刑者が使っていた独房や雑居房を「客室」に改装して提供するそうです。一体どんな部屋なのでしょうか?!

 まずは独房を見せてもらいました。石造りの室内は、暑い夏でも少しひんやりとした空気。広さ約5平方メートルの独房の中は小さな窓とトイレ、洗面台があるのみのシンプルな内装です。今のところ冷房は付いていません。

旧奈良少年刑務所の独房(広さ約5平方メートル)=2017年7月、内田光撮影
旧奈良少年刑務所の独房(広さ約5平方メートル)=2017年7月、内田光撮影 出典:朝日新聞社

 部屋の扉は刑務所ならでは重厚感があります。厚さは約10センチで、内側には鉄の板。廊下側にはいかにも頑丈そうな鍵がついています。

頑丈そうな鍵がついた部屋の扉=2017年7月、内田光撮影
頑丈そうな鍵がついた部屋の扉=2017年7月、内田光撮影 出典:朝日新聞社

 部屋の扉には、刑務官が室内にいる受刑者の様子をのぞくための監視窓や、食事を差し入れる小窓などが備えられていました。

刑務官が室内にいる受刑者の様子をのぞくための監視窓=2017年7月、内田光撮影
刑務官が室内にいる受刑者の様子をのぞくための監視窓=2017年7月、内田光撮影 出典:朝日新聞社
監視窓から見える雑居房(定員3人、広さ約9㎡)内の様子。左端の仕切りの中がトイレ=2017年7月、矢木隆晴撮影
監視窓から見える雑居房(定員3人、広さ約9㎡)内の様子。左端の仕切りの中がトイレ=2017年7月、矢木隆晴撮影
出典:朝日新聞社

 刑務所全体の収容定員は697人。ところが、2003~2004年のピーク時には定員超えの800人近くを収容し、独房(定員1)に2人、雑居房(定員3)に4~5人が暮らしていたこともあったそうです。

 部屋から廊下に出ると、ここにも刑務所ならではの設計がありました。2階の廊下は、床の中央部分に穴が開いていて、鉄格子がはめられています。フロアをまたいで監視がしやすいようになっているんですね。昼間でも薄暗い廊下には、ところどころ、天窓から太陽の光が入ってきます。

旧奈良少年刑務所の2階の廊下。床の中央部分には穴が開いていて、フロアをまたいで監視が出来る仕組みだ=2017年7月、内田光撮影
旧奈良少年刑務所の2階の廊下。床の中央部分には穴が開いていて、フロアをまたいで監視が出来る仕組みだ=2017年7月、内田光撮影 出典:朝日新聞社

 さらに、こんな仕掛けも! 「報知機」と呼ばれる黄色いプレートは、受刑者が刑務官を呼びたいときに使ったそうです。室内のボタンを押すと、扉の脇の壁からプレートが飛び出す仕組みです。

「報知機」と呼ばれる黄色いプレートは、受刑者が室内から刑務官を呼ぶために使った=2017年7月、内田光撮影
「報知機」と呼ばれる黄色いプレートは、受刑者が室内から刑務官を呼ぶために使った=2017年7月、内田光撮影 出典:朝日新聞社
【動画】「監獄ホテル」に生まれ変わる旧奈良少年刑務所で、改装工事前の最後の見学会 出典: 朝日新聞デジタル:日本初「監獄ホテル」誕生へ

美し過ぎる刑務所の秘密

 刑務所らしい実用的・機能的な中身とは対照的に、外観は赤れんがの西洋風建築で、優雅な装飾や中庭などはとても刑務所とは思えないような美しさです。一体どんなホテルに生まれ変わるのか、気になりますよね!

 でも、その前に少しだけ、美しすぎる刑務所に隠された「秘密」をご紹介します。

旧奈良少年刑務所の庁舎=2017年7月、矢木隆晴撮影
旧奈良少年刑務所の庁舎=2017年7月、矢木隆晴撮影 出典:朝日新聞社

 旧奈良少年刑務所(旧奈良監獄)が建てられた背景には、明治時代、外国人を日本の法律で裁くことができない不平等な条約があったと言います。

 その改正のためには、日本が近代的な法治国家として諸外国と対等に渡り合える国になったことを、内外に示す必要があったのです。その方法として、諸外国に劣らない近代的な監獄や法制度の整備が進められたそうです。

5つの収容棟の中央に配置された看守所=2016年9月、内田光撮影
5つの収容棟の中央に配置された看守所=2016年9月、内田光撮影 出典:朝日新聞社

 ちなみに、刑務所の敷地内には、江戸時代の奉行所で使われていたという通称「ギス監獄」が展示されています。「まるでキリギリスを入れる虫かごのような監獄」ということで「ギス監獄」という呼び名になったとか。近代的な刑務所との違いを比較できるように、あえて奈良奉行所跡地から移設されたそうですが、確かに隔世の感があります……。

江戸時代の奉行所で使われていたという通称「ギス監獄」=2017年7月、矢木隆晴撮影
江戸時代の奉行所で使われていたという通称「ギス監獄」=2017年7月、矢木隆晴撮影 出典: 朝日新聞社

 私たちが生活する現代も、こうした歴史の上に成り立っているんですね!

「監獄ホテル」へどう変わる?

 刑務所は2017年8月から民間の企業グループに運営委託され、ホテル開業に向けて改装工事などが始まります。刑務所を所管する法務省矯正局の発表資料によると、3つのホテルが計画されています。

(1)重要文化財の収容棟を改装した「文化財リノベーションホテル」(約150室)。このホテルでは、独居房や雑居房が「客室」になります。

(2)運動場の辺りに新しく建てられる「新設ホテル」(3階建て程度、約80室)。敷地西側のこのホテルからは、収容棟などを一望できるそう。

(3)無印良品が運営する「簡易宿泊型ドミトリー(MUJI HOSTEL)」(約60床)。表門のそばにある医務所の辺りにオープンします。

ほかにも、カフェバーや商業テナントエリア、刑務所の歴史を伝える史料館など、盛りだくさんです。

「監獄ホテル」の全体イメージ図=ホテル運営会社「ソラーレホテルズアンドリゾーツ」提供
「監獄ホテル」の全体イメージ図=ホテル運営会社「ソラーレホテルズアンドリゾーツ」提供 出典:法務省矯正局HP(旧奈良監獄の保存及び活用に係る公共施設等運営事業について/優先交渉権者の選定/資料2)
奈良少年刑務所=2016年9月、内田光撮影
奈良少年刑務所=2016年9月、内田光撮影 出典:朝日新聞社

 収容棟を改装した文化財ホテルは、独房ではさすがに狭すぎるので、壁を抜いて、複数の部屋をひとつの客室に改装する案も出ているとか。中央看守所は、フロントになります。いかにも元刑務所といった雰囲気です!
 

中央看守所の1階=2017年7月、内田光撮影
中央看守所の1階=2017年7月、内田光撮影 出典:朝日新聞社

 さらに、収容棟の南側にある、受刑者が刑務作業に励んでいた「第1・第2実習室」は食堂に改装される計画です。

金属加工作業が行われていた第2実習室=2017年7月、内田光撮影
金属加工作業が行われていた第2実習室=2017年7月、内田光撮影 出典:朝日新聞社

 第1実習室の窓からは、格子と壁の向こうに東大寺や若草山が見えました。

第1実習室(第2実習室の2階)の窓から見える景色。右端の大きな屋根は東大寺。左端は若草山=2017年7月、内田光撮影
第1実習室(第2実習室の2階)の窓から見える景色。右端の大きな屋根は東大寺。左端は若草山=2017年7月、内田光撮影 出典:朝日新聞社

 刑務所の名残は天井にもありました。第1実習室の屋根の骨組み部分には、「母屋」「棰木(たるき)」など、それぞれの部位が書かれたプレートが貼ってありました。これは建築科の職業訓練の際に、受刑者の学習指導に用いたものだそうです。

第1実習室(第2実習室の2階)の天井骨格部分に貼られた部位の名称プレート。建築科の職業訓練の際、学習指導で使っていた=2017年7月、内田光撮影
第1実習室(第2実習室の2階)の天井骨格部分に貼られた部位の名称プレート。建築科の職業訓練の際、学習指導で使っていた=2017年7月、内田光撮影
出典:朝日新聞社

 ホテルの開業は2020年の予定です。歴史を引き継ぎながら「ホテル」という新しい姿に生まれ変わっていくのが、今から楽しみですね!

旧奈良少年刑務所=2017年7月、溝脇正撮影
旧奈良少年刑務所=2017年7月、溝脇正撮影 出典:朝日新聞社

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