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感動

「こじらせ料理女子」の共感続々 人生が前向きになる奇跡の料理教室

「ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室」の著者キャスリーン・フリンさん
「ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室」の著者キャスリーン・フリンさん

目次

 料理が苦手な女性のために開いた料理教室のノンフィクションが話題になっています。2月に出版され現在4刷に達している「ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室」(きこ書房刊)。単なる料理技術ではなく、少しずつ料理に慣れていくにつれ、参加者の気持ちが伸びやかになり人生にも前向きになっていく様子を描いたユニークな内容です。日本の「こじらせ料理女子」にも共感が広がるなか、来日した著者のキャスリーン・フリンさん(50)に、話を聞きました。(朝日新聞be編集部記者、大村美香)

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来日記念のトークショーでは、フリンさんが包丁の使い方を実演して説明
来日記念のトークショーでは、フリンさんが包丁の使い方を実演して説明

コルドンブルー卒のフードジャーナリストが主宰

 フリンさんは、37歳でパリの有名な料理学校ル・コルドン・ブルーを卒業、その体験を記した「36歳、名門料理学校に飛び込む!」が米国でベストセラーになったフードジャーナリスト。ある日スーパーで、カートいっぱいに加工食品や冷凍食品を積み上げた子ども連れの女性を見かけます。思わずフリンさんが話しかけると、彼女は「箱入りの食品は失敗しないから。料理をきちんと習ったことがないんです」と語ります。

 これをきっかけに、フリンさんは地元ラジオを通じ、料理が苦手な人10人(当初は女性9人、男性1人だったのだけれど、男性が辞退し全員女性に)を集め、料理を教えるプロジェクトを始めます。

自分で作った料理を誇らしげにみせる料理教室の参加者=フリンさん提供
自分で作った料理を誇らしげにみせる料理教室の参加者=フリンさん提供

参加者の家を訪ね、気持ちを聞き取る

 興味深いのは、料理教室を始める前に、参加者のそれぞれの家を訪ね、台所に入って料理を作ってもらい、気持ちを聞き取っていること。

 料理をする夫に引け目を感じ、関係に悩む人、両親との思い出の味がマクドナルドの人、野菜嫌いな息子に何を食べさせたらいいか途方にくれている人、家を出るまで料理をほとんど習わなかった人、急なリストラで家計が困窮し、お金をかけずにきちんと食べる方法がわからない人。

 「なぜ、料理をすることをやめたのか、障害になっているのは何なのかを知りたくて、とにかく始めてみたんです」とフリンさん。最初は包丁の握り方から始め、野菜を切り、鶏をさばき、ソースを作り、パンを焼く。メンバーはおっかなびっくり、けれどやってみれば思った以上に簡単にできて、「ねえ、これ私が作ったって信じられる?」と驚きの言葉を幾度も口にしながら、自信をつけていきます。

レッスンではパンも焼きました=フリンさん提供
レッスンではパンも焼きました=フリンさん提供

日本でも共感広がる

 そんな内容が日本でも共感をよんでいて、7月9日、東京都内で開かれた来日記念トークイベントには、約130人が集まり、会場は満員。9割は女性でした。何人かに声をかけました。

 一人暮らしの公務員の女性は、「料理は義務的でめんどくさい、でも外食やコンビニで買うと自分はだめだなと思ってしまって。料理をこじらせていたんです。本を読み、料理は料理、シンプルに考えればいいと気持ちが軽くなりました。料理本はいっぱいあるけれど、こんな風に気持ちから入る本はなかった」。

 「主婦で毎日料理を作っているけど、2歳の息子は食べてくれないし、何がおいしいのかワケ分からなくて迷って砂をつかむような思いでした。この本が、自分の感覚を信じていい、って気付かせてくれました。楽しいと私が思えたら、家族も楽しく食べるようになってきたんです」と話す30歳の女性。

 会場には翻訳した村井理子さんのファンという人も多くいました。村井さんは肉や野菜を天板にぎっしり敷き詰めるオーブン料理「ぎゅうぎゅう焼き」でネットにブームを起こし、料理連載もしている方。でもトークショーでは「仕事をしていると、料理は負担で重荷で。本当にシンプルなものしか作っていません」と話していました。

フリンさんと訳者の村井理子さん、フリーライターの鈴木智彦さんがトークショーを繰り広げました
フリンさんと訳者の村井理子さん、フリーライターの鈴木智彦さんがトークショーを繰り広げました

高い期待値、「こじらせ」に

 本が日米両国で多くの人を引きつけていることについてフリンさんは、「セレブシェフのように料理ができないからと言って自分を責めないで。料理はもっとシンプルで人生をよりよく、より健康にしてくれるもの、という明快なメッセージの本だったから、文化の違いを超えて伝わったのだと思います」と言います。米国では、読者が自分で作ったローストチキンをプレゼントされたこともあるそう。

 どうして、家事の中でもとりわけ料理に対して複雑な感情を抱き、「こじらせて」しまう人が多いのでしょう?

 「食は喜びにあふれたことです。料理を作ることは、自分、そして食べさせる相手に、喜んでほしいと思って行うこと。他の家事より期待値が高いのだと思います。だからこそ、うまくやりたい、がっかりさせたくない。それがプレッシャーになってしまう」

 米国では、有名料理人が技巧を凝らした料理で競ったり、贅沢な食材をふんだんに使ったきらびやかなメニューを披露したりするテレビの料理ショーや雑誌記事があふれているそう。「そんな料理はリアルでなく、虚構にすぎません。なのに、そのようにしなくてはならない、できない自分はダメだと、いつの間にか思い込んでしまっている人が数多くいます」。

鶏を丸ごとオーブンで焼いてローストチキンに=フリンさん提供
鶏を丸ごとオーブンで焼いてローストチキンに=フリンさん提供

「料理は本来、とてもシンプルなもの」

 たぶんこれは日本にも共通するのでは。フリンさんは「料理は本来、とてもシンプルなもの。コルドン・ブルー式は時間がかかるし、プロも家では複雑豪華な料理はしていません」と強調します。

 レッスンでは、塩、オリーブオイル、チキンスープなど、多種類そろえてテイスティングし、同じ名前の商品でも原材料や加工方法で一つひとつ味が全然違うことを体験します。ある参加者は「テイスティングすればするほど、いままで私が当然だと思っていた物事について、もっとしっかり考えたいという気持ちになるわ」と話します。

魚の紙焼きは素早くできて皿を洗う必要もなし=フリンさん提供
魚の紙焼きは素早くできて皿を洗う必要もなし=フリンさん提供

 参加者の質問に答えるため、牛の飼育方法、肉の等級のつけ方、加工食品の表示など、フリンさんもリサーチを重ねました。現在の食をめぐる状況を深く知る機会になったと言います。

 米国は生産された食物の40%を無駄にしているそう。「加工食品はきれいにパッケージされ、それが生き物から作られていることが隠れてしまっています。捨てても罪悪感が薄く、加工食品への頼り過ぎが無駄につながっているのではないでしょうか。生の肉や魚、野菜は、命そのものを感じさせ、無駄なく使おうという気持ちになりますよね」

 知人のシェフをゲスト講師に招き、残り物の使い方をレッスンした後、フリンさん自身も自宅の冷蔵庫を改めてのぞき込み、残っていた食材を使い切る努力を始めます。「私たちはもっと少ない食品で、もっとたくさん作ることができるのだと学びました」

ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室
 本の延長として開いたフリンさんのサイトは「料理を恐れない」という名前。「台所で勇敢に、そして人生でも」という彼女の思いが詰まっています。

 私自身がとても印象的だった本の一節を。「インスタントのツナキャセロールと、『トップ・シェフ』の間に、あなたにとって心地よい場所を見つければいいじゃない。焦がしても、落としても、煮過ぎても、生焼けでも、味気なくても、食事のしたくに失敗したって、それでもいいじゃない。たかが1回の食事なんだもの。明日になったらまた作ればいい。100年経てば誰も違いなんてわからないのだから」

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