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大相撲の実況に手放せない「力士カード」 独自データ、地道に蓄積
大相撲名古屋場所が始まりました。相撲人気の高まりでチケットが入手困難といわれるなか、身近なのが「実況中継」です。瞬時に結果や展開を伝えるアナウンサーは、どのような準備で本番に臨んでいるのでしょう。大相撲実況歴17年の船岡久嗣(ひさつぐ)アナウンサー(41)=NHK名古屋放送局=に舞台裏を聞きました。
中継では、幕下、十両、幕内で実況アナが代わります。若手は先輩のサポートや花道でのリポートなどを経験後、幕下実況でデビュー。花形の幕内実況を担えるようになるまでには、10年以上かかるそうです。
その一人である船岡アナは、入局2年目で初めて大相撲中継の現場を経験しました。もともと相撲に詳しかったわけではなく、「寄り切り」などの決まり手(現在は82種)をすべて覚え、瞬時に言えるようになるまで、「ビデオをとにかく繰り返し見ました」と振り返ります。
取組は数秒で終わることもあるだけに、充実した放送をするには事前準備やデータの蓄積、研究が欠かせません。
名古屋場所の場合、初日の約2週間前からアナらで手分けをして各部屋の朝稽古を取材。力士のコンディション、稽古の内容や狙いなどを分析してまとめ、全員で情報を共有します。
さらに、全員が力士のプロフィルや取組結果などを一覧表にまとめた独自の「カード」を作成しているそうです。
形式は人それぞれですが、船岡アナは、十両以上の力士全員分のデータを管理。実況担当でない日も記録を書き足し、研究に励んでいます。このほか、放送席には珍しい決まり手に関する記録類をまとめた共有資料もあり、どんな展開も即座に解説できるよう備えられています。
NHKのスポーツ実況アナは、野球やサッカー、大相撲など、「メイン」となる分野があります。大相撲実況の道に進んだ理由を尋ねると、「向いているかわからないなりにやってみて、面白かった」と船岡アナ。ルールが単純ながらも、結果に至るまでの背景や駆け引きが奥深く、「(力士が次にどう動くか)イメージしているだけで楽しい」と言います。
2014年夏場所、初土俵から8場所目の遠藤が新横綱の鶴竜を寄り倒して初金星を挙げた一番は、忘れられない取り組みの一つです。
「『さすがに勝てないだろう』というのが大方の予想で、自分もどこかそんな気持ちをもって実況に臨んでしまった。そうしたら、遠藤がすごい踏み込みをみせ、押して前に出た。『前提で放送をしてはダメだ』。遠藤に教わりました」
60回目の節目となる名古屋場所は、横綱・白鵬の通算勝利数歴代記録更新の行方や新大関・高安の戦いぶりなど、「これだけそろっている場所はなかなかない」と言います。盛り上がりを伝えるべく、走り回る日々が続きます。
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