経団連が定める選考解禁からおよそ1カ月が経ち、内定を獲得する学生が増えてきました。私が就活をしていた当時を思い出すと、周囲の友だちが話す「最終面接」、「就活終わった」、という言葉に敏感に反応し、焦りを感じていました。これと同じように、外国人留学生も焦り、悩み、工夫して就活に挑んでいます。就活を乗り越えた外国人と、採用した企業に話を聞きました。
採用選考が開始された6月以降、ASEAN(東南アジア諸国連合)を中心とした外国人就活生や就活を終えた学生・社会人にインタビューをしてきました。
就活をするにあたって一番不安だったことを聞くと、口をそろえて「日本語」と答えます。エントリーシートや面接、グループディスカッションなど、日本人と対等に日本語を使用しなければならず、不安を感じたといいます。
ベトナム出身のグエン チライさん(27)は、三和シヤッター工業株式会社に勤める社会人1年目です。もともと日本のアニメやマンガが好きで、桜や雪も見てみたかったそう。ベトナムの大学を卒業後、来日し日本語学校に2年、専門学校に2年在籍しました。
グエンさんは就活を始めるにあたって、まずエントリーシートから書き始めました。当初加減がわからず、自己PRに15パターンの内容を考えたというとても真面目な性格の持ち主です。
専門学校の先生にエントリーシートのチェックをしてもらったそうですが、「さすがに日本人もそこまではしないよ」とあきれられたと笑います。
ただ「エントリーシートに取り組み始めてから1ヶ月しても完成せず、周囲の人が選考に進んでいるのを見てとても焦った」と振り返ります。
グエンさんが初めてグループ面接を受けたのは、別の会社の選考でした。自分以外の4人が日本人で、とても緊張したと話します。それまで3年間日本語の勉強をしていたといっても、難しい単語や質問が聞き取れないことがありました。
ベトナムで研究していた分野の専門的な内容を聞かれ、日本語でどう答えたらいいかわからず、「ベトナム語だったら話せるのに」と悔しい思いをしました。
日本人がスラスラ質問に答えるのを聞いて「この人にとって自分はライバルじゃない」と思い、落ち込んで帰ったことを明かしました。「自分が答えるのが怖くて、さっさと帰りたかった」と話します。
無事内定を獲得したグエンさんですが、「あきらめたくなることもあった」と話します。
一方で、「外国人の自分がこれから日本で働くには、大変なことがたくさんあると思う。就活はその中の最初の1つなだけ。これが乗り越えられなければその後も乗り越えられない」と自分を奮い立たせたといいます。
最初の面接で落ちた後は、連日鏡の前で面接の練習をし、質問の対策を練ったそうです。
グエンさんが働く三和シヤッター工業株式会社には、現在19人の外国人が在籍しています。
採用枠や採用方針を決めている三和ホールディングス株式会社の経営企画部門グローバル人事企画課課長の元木崇延さんによると、2012年から外国人留学生の採用を開始したそうです。
現在24の国と地域に展開し、海外売上比率が全体の5割弱まで大きくなったことで、現地とのブリッジを担う人材の強化が必要になってきたと話します。近年特に力を入れて採用しているのは、ASEAN地域です。
留学生の採用枠を日本人と別で用意し、面接も別日程で行っています。別々で採用する理由として、「日本の学生と留学生は、求めている人材像が異なる」と話します。
「日本人は国内で働くことがほとんど。留学生の場合、ゆくゆくは海外の拠点で活躍するためのキャリアパスを前提としているため、そのような意欲があるかどうかを意識している」と話します。
また「日本人と一緒にして緊張させてしまうのも…そこではハードルを上げる必要はないと思っている」といいます。
これまで留学生を採用してきて、「志が高い、優秀な人が多い」と感じたそうです。「日本人でも留学生でも仕事を頑張るのは当然だけど、自国の発展に寄与したいと思う人が多いので感心する」といいます。
グエンさんについても「日本とベトナムとの架け橋になれる仕事がしたい」という志望理由が評価されました。「コミュニケーション能力が高く、積極的で向上心も強い」ことが、活躍が期待できると判断したそうです。
「面接で受け答えに時間がかかっても問題ないです。こちらから『こういうこと?』と助け舟を出すこともあります。日本語でうまく表現ができなくても、態度でわかることがあります。日本語の流暢さよりも、意欲や論理的な考え方を見ています」と就活生にエールを送ります。
2008年、日本政府は「留学生30万人計画」を打ち出しました。それは2020年を目処に留学生の受け入れ数を30万人にするというものです。独立行政法人日本学生支援機構の調査では2016年、留学生の数は23万人を超えています。
一方で法務省の発表によると、在留資格「留学」から就労資格へ変更した外国人の数は2015年度、15,657人でした。日本学生支援機構の調査から概算すると、実際に就職できた留学生は希望者の約64%です。
NODE株式会社では、ASEAN地域の留学生の就職を支援・あっせんしています。現在、日本の大学を2018年に卒業する予定の400名近くの留学生を支援していますが、同社が把握しているうち、今年内定を獲得した学生は数人です。
同社の水口 芽依さんは「厳しい現実はある」と話します。「有名な大学に在籍した優秀な方でも、日本の就活システムを知らずに、就職するタイミングを失ってしまったケースもある」といいます。
また面談をする中で課題だと感じるのは、留学生の日本語能力だそうです。
「日本人の友だちを作ったり、アルバイトに取り組んだり、積極的に日本語を話す習慣をつくってがんばってほしい」と話します。
ただ、実際に内定を出した企業からのフィードバックによると、留学生の日本語能力よりも人柄や考え方などが評価されているそうです。
「例えばエンジニアであれば、モノを作ることだけではなく、その製品を持つお客様のことまで考えていることが評価されたケースもある」といいます。留学生は「真面目で、当事者意識が高く、やりたいことが明確な人も多い」という水口さん。
「日本人の就活スタイルの型にはまりすぎず、自分の強みを企業により伝えられるようにサポートしていきたい」と話しています。