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「まえがき」読み返したら涙が… 理科本の言葉、人生にも当てはまる

今から20年近く前に発売された本の「まえがき」がネット上で話題になっています。

新潮文庫の「女子中学生の小さな大発見」
新潮文庫の「女子中学生の小さな大発見」

目次

【ネットの話題、ファクトチェック】

 今から20年近く前に発売された本の「まえがき」がネット上で話題になっています。「予想どおりにならなかったのは、失敗ではなく成功です」。中学生の理科の研究レポートをまとめた本ですが、今を生きる大人たちが自分の仕事や人生に重ね合わせて共感しているのです。筆者である元理科教諭に話を聞きました。

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新潮文庫「女子中学生の小さな大発見」
新潮文庫「女子中学生の小さな大発見」

ツイッターで話題に


 先月下旬、「久々に読み返したら前書きに号泣。こんな先生に出会いたかったです」という文言とともに、ツイッター投稿された画像。そこに写っているのは、新潮文庫の「女子中学生の小さな大発見」のまえがきの一部です。

 予想どおりにならなかったのは、失敗ではなく成功です。

 何も変わらなかったのは、「変わらない」ことを発見したのです。

 本と同じ結果にならなくても、それは気づかないところで条件が違っていたからであって、自分のやったことも正しい結果です。たまに本が間違っていることだってあります。

 考え方がおかしいと言われても、「自分はそう考えた」というのは正しい事実です。

 この投稿に対して「とても心に沁みました」「この前書き読んでるだけで涙出てきました」といったコメントが寄せられ、リツイートは1万5千、いいねは2万6千を超えています。

話題になった「まえがき」の一部
話題になった「まえがき」の一部 出典: 新潮文庫「女子中学生の小さな大発見」より

著者は理科の先生です


 この本の著者は、静岡雙葉高等学校・中学校で45年にわたって中学生に理科を教え続け、今年3月に退職した清邦彦さん(70)です。

 きっかけは20数年前、理科に興味を持ってもらおうと始めた宿題の「プチ自由研究」でした。

 それを要約して、生徒向けに発行していた「理科だより」(通称・リカちゃん新聞)に載せたところ、「そんな研究なら私にもできそう」と次々と面白いレポートが集まったそうです。

 Kさんは家族が昼寝している時「寝ている人の足の裏をくすぐると親指が反る」は本当か実験してみましたが、足を引っ込めたり、けってきたりしただけでした。
 Nさんは、まばたきの回数は人によって、体の調子によって違うことを発見しました。笑っているときは少なく、眠いときは多くなるのだそうです。
 Hさんは、あくびは人にうつるというので、電車の中でためしてみたらどんどんうつっていきました。

 「大人が気がつかないような着眼、発想、推論もあって感心し、純粋な気持ちがうれしいものあり、科学の原点を見たような気がしました」と清さんは振り返ります。

「Nさんはお茶わん一杯のご飯粒を数えました。2964粒ありました」。生徒たちのレポートの一部。
「Nさんはお茶わん一杯のご飯粒を数えました。2964粒ありました」。生徒たちのレポートの一部。 出典: 新潮文庫「女子中学生の小さな大発見」より

まずは自費で小冊子を作成


 中には間違っているものや、目的のわからないものもありましたが、あえてコメントを加えず、生徒がやったまま、考えたままのものを数年分集めて、自費で小冊子を作成。

 それが地元の新聞社に取り上げられ、1999年にメタモル出版から単行本として発売され、2002年に新潮文庫から文庫本として出ました。

 新潮文庫で当時担当編集者だった飯島薫さんは、こう振り返ります。

 「結論を出す必要はない、失敗してもいい。そんな先生の考えのもと、中学生の声が聞こえるような気がして、ぜひ全国の読者に届けたいと思ったんです」

 2011年には「新潮文庫の100冊」にも選ばれ、過去15年間安定した売り上げを保ち続けているそうです。

著者の清邦彦さん
著者の清邦彦さん 出典: 新潮社のホームページより

仕事や生き方に置き換えて


 単行本の発売から20年近くたって、ツイッターで話題になったこの本。清さんに感想を聞くと、こんな答えが返ってきました。

 「『今どきの中学生は』なんていわれるけど、『今の子どもたちの発想も捨てたもんじゃない』ということをこの本で紹介したかったんです。それがこんな風に話題になるなんて、驚いています」

 多くの大人がまえがきに共感していることについては、こう分析します。

 「理科の実験ではなく、『仕事』や『生き方』に置き換えて読んだ方が多かったのではないでしょうか。もちろん書いたときにそのことを意識しなかったわけではありませんが、自分のことを肯定できない人が多いのかもしれません」

 そんな清さんから、「自分を肯定できない」という人に向けて、こんなメッセージをもらいました。

 「よく授業で話していたマラソンの話です。マラソンは一番速かった人が褒められて表彰されます。では、一番長い時間走っていた人はどうなのか? 頑張っていることに変わりはないんです」

 自身が退職する際、かつて指導した生徒があいさつに立ってこの例え話を引用してくれて「ちゃんと生徒たちに届いていたんだ」とこみ上げてくるものがあったそうです。

 「でも、速い人だけが偉いわけじゃないけど、速いと得することも多いので、できるだけ努力しましょうね」。清さんは忘れず、この言葉も付け加えていたそうです。

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