エンタメ
作品飛び出しリアルな世界へ マンガ「夜廻り猫」のつながり
ツイッターで2年前からぽつりぽつりと発表されていたマンガ「夜廻り猫」。「ハガネの女」や「カンナさーん」の作品でも知られる漫画家・深谷かほるさんの作品です。ネット上でじわじわと人気が広がっていきましたが、その反響は、単行本の出版や、手塚治虫文化賞短編賞受賞にとどまらず、読者たちのリアルな出会いやファンアートにまで広がっています。
漫画「夜廻り猫」は、猫の遠藤平蔵が、心で泣く人の涙の匂いをかぎつけ、その悩みや悲しみにそっと寄り添うお話です。
遠藤平蔵の名前の由来は、埼玉県川越市にある「Gallery&Cafe 平蔵」。オーナー・遠藤綾子さんが、自宅で飼っているのが「平蔵」といいます。きれいなロシアンブルーです。綾子さんの夫・泰志さんが、深谷さんと同じ福島出身で、知り合いだったこともあり、名前をもらったそうです。
その縁もあって、昨年3月には、深谷さんの個展が開かれ、大盛況。それからというもの、カフェには、自分が手作りした夜廻り猫のグッズを持って、訪れる人が増えたそうです。
綾子さんは、せっかくなら、ファンの作品を持ち寄って個展ができないか、と企画。今年3月に「ファンによる夜廻り猫作品展」が実現し、18人から力作が集まりました。
作品出展者の住まいは、秋田から兵庫までさまざま。展覧会が始まると、作者たちはもちろん、その告知を見た人たちがカフェに集い、初めて会って、ハグしたり握手したり。綾子さんは「みなさん『わたしたちは深谷学級の生徒たちだよね~』と言って笑っていました」と話します。
たくさんのキャラクターが登場するフェルト作品を出展した、山形に住むれんさん。
最初はたんに「かわいいな」と思って漫画を読んでいたそうですが、だんだんとキャラクターに愛着がわき、ハッとさせられるストーリーを読み返すようになって、はまっていったと言います。
お金とか、地位とか、結婚相手とか、子どもとか……。人は、理想の自分と比べて、何かしら足らないものがあるものですが、れんさんは「夜廻り猫を見ていると、そんな足らない自分でも、それでいいって言われてるような、『届かない理想に傷つかないで おまいさんは頑張ってる』って言われているような気がします」。
フェルトで猫の人形を作るのは初めてでしたが、深谷さんに渡せたらいいなと考え、練習を重ねて、遠藤平蔵のブローチを作りました。
深谷さんにプレゼントすると、別の催事でつけてくれたと知って「ありがたかったです」。
こつこつとキャラクターの人形を増やして、花や紅葉を背景に、写真を撮ってツイッターにアップするようにもなりました。
「フォロワーの人に、『キャラクターが、リアルに、その辺にいるような感じがします』と言ってもらえるのがうれしい」と話します。
遠藤平蔵と、ともに夜廻りする子猫・重郎の絵を出展した男性のホセさん。
夜廻りする理由について「あなたと話がしたいのだ」と、表現したシーンをモチーフにしました。
「片親の子どもや野良猫の生活や、普段スポットライトが当たらないところがクローズアップされている作品。どんどん好きになっていきました」と話します。
夜廻り猫に出会ったことで、学生時代に描いていた絵を再び描いたり、作品展を通して、これまで出会うことのなかった人とつながりができたり。「世界は確実に広がりました。中学生や高校生にも読んでほしいなと思っています」
ホセ
— ホセ (@sasadebris) 2017年3月20日
「あなたと話がしたいのだ」
はい。稚作であります。第1巻のあとがきマンガの最終コマをモチーフにシャドーボックスにしてみました。
水彩ガッシュ(ポスターカラー)という人気のない画材をあえて選んでみました。透明水彩は違うと思ったのです。
#夜廻り猫作品展 pic.twitter.com/01K0f6q5Mv
読者の思いや応援の言葉に、ウィズニュースや朝日新聞夕刊で編集を担当している記者自身が励まされることもたくさんあります。
SNS上のいじめを描いた「心が凍える『死ねばいいのに』」の回では、「こんな風に、心をあたためてくれる誰かに出会えたら救われるね」といった反響がたくさん寄せられ、わたし自身の心もほぐれました。
ネットで発信された作品が、SNSでのやりとりを生んで、リアルな世界での出会いも生まれる。「夜廻り猫」という作品が、誰かに寄り添うあたたかさを持っているからこそだなぁ、と感じています。
1/21枚