連載
#4 現場から考える安保
最新鋭戦闘機F35A、割高でも「国内生産」 日本政府がこだわる理由
航空自衛隊が新たな主力戦闘機として導入を進めるF35A。その「国内生産」がいよいよ始まりました。米国が誇る世界最新鋭機は一体どんなものなのか。名古屋郊外の工場で初号機のお披露目式があると聞き、取材に行ってきました。
F35Aは、戦闘機界では「第5世代」と言われる最新鋭機。安倍晋三首相は「我が国の防衛に絶対的に必要」「日米同盟を強固にする」と語っています。
お披露目式は6月5日、愛知県営名古屋空港の隣にある三菱重工業小牧南工場で開かれました。この工場ではこれまで、国産初の旅客機YS11や日米共同開発の戦闘機F2を組み立ててきました。戦後の日本航空史を語るには欠かすことのできない場所です。
ただ、今回のF35Aは事情が違います。三菱重工は、米ロッキード・マーチン社の下請けとして最終組み立てを担当。空自が今年度以降、青森県の三沢基地中心に配備する42機のうち、完成品輸入を除く38機をこうした「国内生産」で造ります。
F35Aは軍事機密の塊です。それだけに、初号機のお披露目式では、情報管理に神経をとがらせる米政府の雰囲気が伝わってきました。取材する報道陣はカーテンを閉め切ったバスに乗せられて会場へ移動し、「場所を特定されないように」と通信も禁じられました。
格納庫のような会場に着くと、政府や企業、米軍、自衛隊などの関係者がずらりと並んでいました。日米で半数ずつ、約300人の出席者です。両国の国歌が流れ、テープカットが終わると、F35Aの動画を映していた正面の壁が左右に開きました。日差しに輝く初号機が現れ、出席者は総立ちで拍手しました。
航空安全を祈る神事の後、両政府代表があいさつ。米国のハイランド臨時代理大使は「素晴らしい戦闘機だ。日米の深い通商と安全保障関係の証しだ」とたたえ、若宮健嗣防衛副大臣も「かつて戦火を交えた両国による最新鋭戦闘機の共同生産は、同盟を強固にすると」と強調しました。
F35Aの「国内生産」への道筋は、曲折を経ました。かつての武器輸出三原則による制約から、日本は米国中心の国際共同開発に乗り遅れました。でも輸入するだけでは防衛産業が衰えるばかりなので、米国と粘り強く交渉を継続。国内で組み立てたり、部品の一部を作ったりできるようにしたのです。
実は、国内生産はかなり割高です。F35Aの大半は米国で作られているので、日本で作った部品を米国に送ってさらに大きな部品を作り、それを日本に運んで組み立てます。太平洋を往復する部品の輸送費がかさむわけです。
今年度までの32機分の取得費を見ると、完成品として輸入する4機については1機96億円ですが、それ以降の国内生産分は平均163億円。今年度予算では6機で880億円と、陸海空3自衛隊の航空機購入費の25%を占めています。
それでも日本が国内生産にこだわるのは、今の空自戦闘機にみられないF35Aの性能の高さです。その高い技術力を、日本の防衛産業の発展につなげたいと考えているのです。
レーダーなどに映りにくいステルス性に加え、敵機の位置が陸海空の味方とデータリンクして操縦席で示されます。パイロットの正面には細かな計器類でなく、各種のデータを統合して表す画面があります。ヘルメットにもウエアラブル機能が内蔵され、自機の下の死角にいる敵機が床越しに確認できます。
日本領空への接近を繰り返す中国やロシアもステルス機開発を進める中、「First Look,First Kill」(先に敵を見つけ、たたく)の能力勝負には、F35が欠かせない――。空自パイロット経験者はそう語ります。
F35AはF4後継機として領空接近に対する緊急発進(スクランブル)にあたります。さらに、F2のような対地攻撃能力もあります。今年3月、首相に敵基地攻撃能力を持つよう提言した自民党内には「F35Aにミサイルを積み、北朝鮮のミサイル基地をたたくべきだ」との声もあります。
日本周辺の安全保障環境の悪化を強調する安倍内閣は、この「マルチロール機」(若宮氏)の生産に国内企業が関わり、戦闘機を造る技術の維持、向上につなげるよう望んでいます。
ただ、企業の側は簡単ではありません。三菱重工は、当初担うとみられた胴体製造については「調整中」。国内向け38機分だけでは設備投資が割に合わないのです。米企業の下請けとして、海外で売れる価格に抑えて利益を上げるメドは立っていません。
F35Aには、共同開発9カ国と日韓イスラエルなど購入国が部品を修理用に融通する仕組みがあります。安倍内閣は国内製造部品を回せるよう武器輸出の制約を大幅に緩めましたが、空回り気味です。
F2やF15といった他の空自戦闘機の後継機にもF35Aを採用し、「国内生産」向けの部品製造のパイを増やす手もあります。しかし、そもそも日本はF35Aの共同開発国でないため、国内企業が部品製造に関われる範囲が狭く、波及効果は限られます。
ある空自OBはF35A導入について、「日本の防空能力を格段に高めるが、航空防衛産業の足腰を弱体化させる可能性が高い」と指摘します。このOBは、F4後継機としての42機にとどめ、他機種の後継機は武器輸出の緩和を生かして新たに米国と共同開発すべきだと主張しています。
F35Aの国内生産機を組み立てる小牧南工場は愛知県豊山町にあります。実はこの町は、大リーグで活躍するイチロー選手の出身地。工場そばの町営グラウンドで、その名を冠した少年野球大会が毎年開かれています。
イチロー選手のようにF35Aが日米の絆になれるか――と締めたいところですが、戦闘機の開発競争に巨額を費やす必要がないよう周辺国と信頼関係を深める方がいいことは、もちろんです。
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F35Aについては、12日発売の週刊誌「AERA」でも詳しくリポートします。
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