話題
「責任者をつるしあげろ」では解決しない 空き地や林に6400億円の闇
土地開発公社の記事は5月5日1面・社会面に掲載され、多くの怒りの声が寄せられました。でも憎むべきは自治体職員個人なのでしょうか?公社に限らず、血税が消える「構造」に目を向けたい。それがさらなる負担を減らす抑止力になります。
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土地開発公社の記事は5月5日1面・社会面に掲載され、多くの怒りの声が寄せられました。でも憎むべきは自治体職員個人なのでしょうか?公社に限らず、血税が消える「構造」に目を向けたい。それがさらなる負担を減らす抑止力になります。
「土地開発公社」の土地取引を巡って、6000億円以上の税金が塩漬け土地に投入されることを報じました。今までバレなかったのは、ややこしい制度に隠れて、損失が見えにくかったからです。でも、それだけのお金があったら、皆さんの役に立つ色んなことができたはずです。専門用語と格闘しながら、地味すぎる調査を続けたきっかけの一つが東日本大震災でした。
私は10年前にとあるきっかけで、税金が消えていく構造に疑問を持つようになってから、取材を続けています。
しかし思うように取材は進みません。自治体という公権力側からすれば、煙たい取材ですし、ちょっとでも取材に弱点があれば下手したら訴えられかねません。
なんとか資料を入手したら、今度はその数字とにらめっこ。リスクが大きく、地味で苦痛な作業が続きます。
マニアックな作業なので、周囲から「何してんの?」と見られることも多く、挫折の繰り返しでした。
半ば諦めかかったところで、東日本大震災の復興予算流用の取材をすることとなりました。その一つ、路線バスに英語表記のシールをはると「復興」するという現場を歩きました。
石垣島で1日数本が止まるバス停。英語表記のシールが風雨で消えているケースが多く、残っているバス停を探しまわりました。
やっと見つけた「Ozato」のシール。この英語表記のシールを作るお金が、復興予算で賄われていました。
南国の島のバス停を英語表記にすることが、復興?
震災直後に東北の被災地に入ったこともあり、南国の空の下このバス停を見たとき。「マニアックな話でも伝えないといけない」という気持ちが再び強くなりました。
むしろマニアックな方が、関心を持たれない中で税金が費消されている可能性が高いのですから。
税金が有効に使われないということは、結局、私たちの生活や日本の国力にもダメージを与えるということではないでしょうか。
今回、「土地開発公社」の取材で見えてくるのは「構造」の問題です。
チェックされやすい自治体本体の財布ではなく、「分身」に借金させる。
利子で負担が膨らむサイクルに入っても、損失の表面化を恐れて先送りを続ける。
最後はみんなによく分からないまま血税が投入される。
注目されないから厳しい検証・再発防止策にもつながらない。
でもこういう構造は「土地開発公社」だけの話ではありません。「公」のあらゆるところにあります。そしてその負担は、意志決定に関われなかった若者・子どもたちの世代にまわされていきます。
よく分からないまま、公共施策の減や負担増という形で、じわじわダメージを負わされていきます。なんかよくわからないけれど生活くるしいんだけど……って。
この10年間迷走し続けて、なかなか記事にならなかったのですが、資料だけはたっぷり手元にあります。
ですから、6千億円という数字が、ごくごくごくごく一端に過ぎないことは断言できます。
5月5日の朝日新聞1面・社会面でこの問題の一部を報じてから、多くの反響がありました。目立ったのは「責任者をつるしあげろ」「自治体職員は○○せよ」といったものです。
反響を頂くことはとても嬉しく、感謝いたします。
でも、自治体職員個人個人を悪と見なすのは間違いだと私は考えます。
それよりも、一人一人はまじめだけれども、「組織の都合」で私たちの利益と反する方向に動くケースがあるという構造を見つめるべきではないでしょうか。
その都合は「土地開発公社」のように頑張って対処しようとすると自分が戦犯になりかねない仕組みだったり、「有力政治家」だったり「天下り先の諸先輩」だったり……。
結局、誰かが得をするわけですが、現役の職員個人が私利私欲のために、というケースはそんなにないと思います。
その状況の中で自分一人、「この事業はおかしい」と立ち向かえるでしょうか。立ち向かって事業が止まるならまだしも、左遷されて別の人間が結局その事業を継続することになるとしても戦えるでしょうか。
少なくとも私には無理です。
つまり、公権力の自浄作用はどうしたって限定的なものになります。だからそれをチェックする人たちが必要になります。
オーソドックスに言えば、選挙でこうした課題に対応・チェックできる政治家を選ぶということが私たち1人1人にできる対策です。
ただ、そこまで大仰でなくても、「報道でチェックされる」「この手の記事は、専門用語混じりであっても皆に読まれる」という環境ができてくれば、「公」側に対応を促す力になります。
実際にこれまでも、報道後、国や自治体が制度を改めたケースは何度もあります。
この手の話は、早く対応すれば、それだけ負担・リスクが減るので、メリットは大きいです。
少なくとも、数十年も問題が潜んでいて、文句を言おうにもその人たちはもういない、苦情に対応する職員は関係ない若手たち……みたいな悲しい状況は、ないにこしたことはありません。
この問題のわかりにくさは、記事を書く側にとっても同じです。それでも、一部が記事にできたのは、理解のある仲間たちに恵まれた偶然が大きかったです。
でも、そんなマニアックなジャンルの扱いでいいとは私には思えないのです。
ぽんぽんと効率よく記事が量産できる分野ではありません。でも、今後も取材は続けていきたいと思います。
ご意見・リクエストなどあれば、ツイート(https://twitter.com/akai_y)でお寄せ下さい。
この問題に対する関心だけが、改善や抑止につながる力なので、拡散していただけたら嬉しいです。
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