MENU CLOSE

お金と仕事

空き地や林に税金6400億円! 土地開発公社の「わかりにくい失敗」

私たちの血税6千億円超が、まともに使われてこなかった土地にローンでつぎ込まれることを調べました。今回あばいた大損も氷山の一角でしかありませんが、悲劇の一端をお伝えします。

まともに使われないまま、税金を飲み込んだ「塩漬け土地」=大阪府高石市、赤井陽介撮影
まともに使われないまま、税金を飲み込んだ「塩漬け土地」=大阪府高石市、赤井陽介撮影 出典: 朝日新聞

目次

 日々を暮らすのが精いっぱいだったり、学費が払えず進学をあきらめたり……。そんな人たちからも集める血税。それがまともに使われていない「空き地」や林のローン返済に、6千億円超使われることが、朝日新聞の調査でわかりました。なんでそんなことが? 原因は、ぱっと見、わかりにくい土地取引の制度です。正直、小難しい用語や、難解な仕組みが盛りだくさんです。でも、皆さんへのダメージは甚大。調べた結果を、できるだけ、わかりやすく報告します。

【PR】「あの時、学校でR-1飲んでたね」
【関連記事】土地開発公社の闇
全国にひそむ「塩漬け土地」爆弾 借金6400億円!ぜーんぶ税金
「責任者をつるしあげろ」では解決しない 空き地や林に6400億円の闇

 

自治体の「別動隊」

 舞台となったのは「土地開発公社」。自治体が原則100%出資で立ち上げる「別動隊」ともいえる組織です。

 公共事業などに使う用地を自治体に代わって買い集めるのが仕事で、お金の出どころは借金です。

 「土地開発公社」は、金融機関から借金をして土地を買います。

 その土地を、自治体が後で「土地開発公社」から買い取ります。

 買い取った土地を、自治体は公共事業などに使います。

 「土地開発公社」は自治体から受け取ったお金で、買った土地の借金を返済します。

自治体の「別動隊」土地開発公社が土地を買う仕組み
自治体の「別動隊」土地開発公社が土地を買う仕組み 出典: 朝日新聞

借金の保証は自治体

 うまくいけば問題ありません。でも、自治体が事業する必要が予想より減ったら?お財布が厳しくなって買い取るお金が捻出できなくなったら?

 自治体は土地を買いとることができず、「土地開発公社」は土地代金をもらえないので、借金を返せません。

 「土地開発公社」の借金には利子がつきます。土地が売れない間、余計に支払う利子が膨らみ続けます。

 ここでミソなのは借金の保証は自治体がしているということです。「土地開発公社」の借金返済が進まない場合、最後は自治体が借金の肩代わりをしなければなりません。

 結局どちらにしろ税金が使われるのですが、ほうっておくと、普通に買うよりも利子の分だけ余計に払うというはめになるわけです。

土地が売れないと利子の分だけ多くの税金が使われる ※画像はイメージです
土地が売れないと利子の分だけ多くの税金が使われる ※画像はイメージです 出典:https://pixta.jp/

かかった費用分の価値がある?

 普通の企業だとこんな状態を放置すればつぶれます。でも、「土地開発公社」はつぶれません。借金をすればするほど、土地の値段が、なぜか値上がりするのです。

 使いあぐねる土地がなぜ? そのからくりは「簿価」と呼ばれる仕組みにあります。

 「土地開発公社」が公共事業用に買った土地は「かかった費用分の価値がある」と見なせるのです。

土地開発公社で損失が膨らむ構図
土地開発公社で損失が膨らむ構図

値段下がっても「帳簿上」変わらず

 たとえば「土地開発公社」が銀行から借金して5億円の土地を買います。でも、20年つかえないままの間に、地価が下落して3億円の値段になったとします。でも「帳簿上」は5億円のままです。

購入時の価格=5億円
今の土地価格=3億円
帳簿上の価格=5億円
(あれ?損した2億円は?)

不思議な計算「簿価」では帳簿上の価格が5億円のまま
不思議な計算「簿価」では帳簿上の価格が5億円のまま

 一方、土地は売れません。売れないので「土地開発公社」は借金を返せなくて、利子だけ膨らみます。20年間放置する間に増えた利子が1億円とすると……。

購入時の価格=5億円
利子の合計額=1億円
使った合計額=6億円

利子が加わって借金が6億円に増えると、帳簿上の価格も6億円の価値に
利子が加わって借金が6億円に増えると、帳簿上の価格も6億円の価値に

今の土地価格は、3億円ですから……。

6億円(使った合計額)
3億円(今の土地価格)
=3億円の損!

帳簿上は6億円の価値でも、実際は3億円の損
帳簿上は6億円の価値でも、実際は3億円の損

 「土地開発公社」が使ったお金は、土地代5億円と利子1億円の計6億円です。この時点で土地の価値は3億円しかないので、差し引き3億円の損をしているのが実態です。

使った分も価格に上乗せ

 ところが、この「簿価」。支払った利子1億円も土地の価値に入れられちゃいます。だから「帳簿上」は6億円の価値があると見なされるのです。つまり表面上、6億円の借金があるが6億円の土地を持っている=損はしていない、ことになります。

使った合計額=6億円
今の土地価格=3億円
損をしたお金=3億円
帳簿上の価格=6億円!

放っておきたくなる仕組み

 それにしても今以上に土地の値段が下がり、利子がつけば、損失はさらに増えます。早めに白状した方がよさそうに思えますが、なぜスルーできるんでしょう。

 それにはもう一つ、カラクリがあります。

 「土地開発公社」の土地を、自治体は「簿価」の値段で買うという原則です。

 このルールのもとだと、公社は土地を買ってもらうのがいつになろうが損をしません。

 自治体側も「6億円の(価値があることになっている)土地を、6億円で買う」わけで、いつ買っても表面上は損したことになりません。こうして40年以上もほったらかしというケースすらでてきます。

高石市内に残る「塩漬け」の土地。市が土地開発公社から引き取ったが、活用のめどはたっていない=大阪府高石市、赤井陽介撮影
高石市内に残る「塩漬け」の土地。市が土地開発公社から引き取ったが、活用のめどはたっていない=大阪府高石市、赤井陽介撮影 出典: 朝日新聞

正直者が「戦犯」に?

 一方、自治体側が「こんなことでは実際の損失が膨らんでしまう!」と決意し、事業に使うのをあきらめて民間への売却といった対処をしようとします。

 でもそうすると、実際の価値との差額3億円が損失として表に出ます。決意した市長や職員たちは下手すれば「戦犯」扱いです。

 そうなると対処を先送りしたくなりますよね。先送りするからさらに利子が増えて対処がしにくくなる。だから余計先送りしたくなる。

 この悪循環の結果、何が起きるのか。「帳簿上」は、とても高値の空き地が全国に出現します。なんたって、元の値段が下がらない上に、利子分もその土地の値段として上乗せされるのだから。

 埼玉県某所にあるうっそうとした竹藪を見てきましたが、3億円以上の価値がついています。

埼玉県にあるうっそうとした竹やぶに3億円以上の価値がついている
埼玉県にあるうっそうとした竹やぶに3億円以上の価値がついている 出典: 朝日新聞

財布はいたまず、チェックもされない

 「簿価」の問題は、「土地開発公社」が全国各地で作られはじめた40年以上前からありました。でも使う側の自治体にとって、魅力的な手法でした。

 ここでも自治体の気持ちになってみましょう。

 手元のお金を使ったり借金したりするのは厳しい。だけど事業は色々してみたい。そのためには土地が必要だ。目星をつけた土地が、値上がりしたら買いにくくなる。誰かに買われるかもしれない。

 そこで「分身」とも言える「土地開発公社」に借金をさせて土地を買わせます。

 そうすれば、土地を買った時だけ見れば、自分の財布はいたまない。チェックもされにくい。「土地開発公社」の借金は自治体が保証するので、銀行は喜んで貸してくれる。

 実際の価値がよく分からないので、時には、有力者などの土地を高く買い取ったのではという疑義がもたれるケースすらあります。

うまく土地取引が終わっても、「簿価」のまま完結するので現在の市場価値がよく分からないままのことも……
うまく土地取引が終わっても、「簿価」のまま完結するので現在の市場価値がよく分からないままのことも……

三セク太郎もつっこむ!

 しかし、土地の値段が上がるバブル期はとっくに過ぎました。利子も容赦なく増えます。

 つまり買った時との値段の差はますます膨らみ、自治体側は対処しようにも対処できなくなってくる。どうしよう……。

 そこで国が特別に用意したのが、自治体がローン(地方債)を組んで「土地開発公社」の借金を肩代わりしていく方式です。

 一度に肩代わりができなくても、分割払いにすれば払えるだろうというわけです。

 その名は「第三セクター等改革推進債」(三セク債)。2009年~2016年度までの期間限定で認められました。

三セク債を説明する「三セク太郎」
三セク債を説明する「三セク太郎」 出典:総務省のサイトから

6400億円以上の公金がふっとぶ

 今回、国の資料でローンを組んだ自治体を割り出したところ133ありました。さらにこちらで作ったアンケートで自治体に取材すると、ローン総額は約6100億円。

 それに加えて、自治体が「土地開発公社」に直接貸していたお金の回収をあきらめたり、補助金を公社にわたしたりといった負担も300億円以上あることが判明。

 つまり、6400億円以上の公金がふっとぶ計算です。

 でも本来、支払いを将来の世代にもさせる自治体のローンは、学校や水道といった若い世代たちにとってもメリットがあるものに組むのが原則です。

 総務省もこの「三セク債」について、自治体向けに作った説明コーナー「三セク太郎」のサイトで「本来であれば地方債を充てることが出来ない債務の整理にあてる」と認めています。

 いわば「禁じ手」のような特例ですね。

将来世代が払う自治体のローン、本来なら子どもたちにもメリットのあることに使われるはずですが… ※画像はイメージです
将来世代が払う自治体のローン、本来なら子どもたちにもメリットのあることに使われるはずですが… ※画像はイメージです 出典:https://pixta.jp/

実際の価値が10%未満の例も

 悲劇的な数字ですが、この三セク債はあるブラックボックスの一部に光を当ててくれました。それは「結局、『簿価』だった土地の価値はいくらだったの?」というものです。

 先ほど、通常の取引では、自治体側は「簿価で6億円の(価値があることになっている)土地を、6億円で買う」わけで、いつ買っても表面上は損したことにならないと説明しました。

 ですが今回、三セク債を使う場合は、土地を実際の価値で評価して引き取ることを、国から実質的に求められていました。

 つまり、「簿価」方式をやめて、土地の実際の価値と向き合うことになるわけです。

 そこでこちらで調べたところ、肩代わりした約6400億円のうち、「少なくとも」2700億円以上が損失でした。中には実際の価値が簿価の10%未満だったという土地も判明しました。

こういうところに、細切れに公社の土地が混じっているケースもあります=赤井陽介撮影
こういうところに、細切れに公社の土地が混じっているケースもあります=赤井陽介撮影

今も各地に潜む損失爆弾

 でも、その2700億円という損失すら、一端に過ぎません。

 三セク債を使っているのにも関わらず、「簿価」を維持したままの自治体がかなりあったからです。こうして帳簿上の損失が出ないまま引き取ったケースがあることを考えると、2700億円よりも実際の損は大きい可能性が高いです。

 この自治体の住民たちからすると、いくら損したかすらよくわからないまま税金で埋め合わせさせられることになります。

 まあ、そもそも三セク債を使った「外科手術」に至らず、今も現存する土地開発公社もたくさんあるわけですが……。

三セク債を使わぬ選択をした自治体も。この急斜面の先に「塩漬け土地」が広がる=香川県多度津町、赤井陽介撮影
三セク債を使わぬ選択をした自治体も。この急斜面の先に「塩漬け土地」が広がる=香川県多度津町、赤井陽介撮影

借金を将来世代にまわす

 そもそも三セク債を使った時点で、当初の予定通り土地を活用できなかったことを証明しています。

 とっくに土地代を「土地開発公社」に渡して、公社の借金はなくなり、その土地では何かの事業が進んでいるはずだからです。

 でも、事業は行われず、土地だけが残り、こしらえた借金を将来世代にローンでまわしながらようやく返そうとしているのです。

関連記事

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます