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サウジ、アメリカにポーンと12兆円! でも実は金欠なんです
アメリカのトランプ大統領は、大統領としてはじめて訪問する国にサウジアラビアを選びました。アメリカの歴史でも最大規模とされる、約12兆円分の兵器を売ることが決まったからです。サウジの大盤振る舞いぶりが目立ちますが、実はいま、おカネ不足に悩んでいるんです。
サウジがアメリカに支払う12兆円という金額は、4300万人の人口を抱える南米アルゼンチンの国家予算に匹敵します。
サウジと言えば、2017年3月、46年ぶりに国王が日本を訪問したこと記憶に新しいですね。「王族ら1000人の訪問団が高級ホテル1200室を貸し切った」「ハイヤーが東京だけでは確保できず東海地方からも集めた」など、やはりリッチさが注目されました。
その富のみなもとは、ごぞんじ石油です。
サウジアラビアには、地球上で存在が確認されている石油のうち、15%以上が埋まっているとされています。1国に。
生産量は1日あたり約1000万バレルで、これは25メートルプールに換算すると、6359個分ということになります。1日で。
(※プールは長さ25メートル、幅10メートル、深さ1メートルで計算)
乱暴な言い方をすれば、地面を掘ればカネが出てくる状態というわけで、なんともうらやましい話です。
「アラブの石油王」と言えば、「とんでもない金持ち」のたとえとして日本でも広く使われていますね。
そんなサウジアラビアですが、実は財政赤字が続いています。
2017年の国の予算は、歳出(使う額)が8900億リヤル、歳入(収入)が6920億リヤルで、使う予定の方が1980億リヤルも多くなってしまいました。日本円にすると約6兆円の赤字です。
今年に限ったことではありません。2015年は1450億リヤル(4兆3千億円)の赤字、16年に至っては3262億リヤル(9兆8000億円)の大赤字でした。
その原因は、大きく言って二つ。石油の価格が下がったことと、人口が増えたことです。
サウジの収入の7割は、石油がらみです。
その石油の価格は、2014年までは1バレル(およそ160リットル)あたり100ドル(およそ1万円)くらいでした。
ところが、その後は下がり続け、今では半額の1バレル50ドル程度になっています。
これは、アメリカでシェールオイルという新たなエネルギーが開発されたうえ、中国やヨーロッパなどで景気が悪くなり、石油があまってしまったからです。
また、サウジの人口は3150万人。この30年ほどで3倍以上に増えました。オイルマネーで裕福になり、医療が進歩。もともと子だくさんなお国柄のうえ、さらに移民も増えたからです。
どんな国でも、収入の多くは社会保障に使われます。
病気やけがになったときにかかる費用の補助、働くのが難しくなったときにもらう年金、などなどです。
サウジの場合、これに加えて、ガソリン代、電気や水道などの公共料金にも大きな補助をしています。
というのも、サウジは絶対王政の国。日本の5.7倍という巨大な国土を治める国王は、親族だけが後を継げる仕組み(世襲制)で、主権は王様にあります。
その代わり、王様は国民を養う。それが暗黙の了解となってきました。
しかし、赤字に耐えられなくなったサウジ政府は2015年12月、国内向けのガソリンや水道、電気代などの値上げを発表。
1リットルおよそ14円だったガソリンは23円になりました。電気代も「2倍以上に跳ね上がった!」と嘆きの声がツイッターなどに上がり、電力会社が「冷蔵庫の設定温度を上げて節約しましょう」などと火消しに回る騒ぎに。
2016年10月、サウジはカレンダーをイスラム暦から西暦に変えました。
実はこれ、公務員の給料を減らすため。給料は月給制で、どちらの暦も1年は12カ月ですが、イスラム暦は1年が354日しかありません。西暦は365日だから11日、多い。その分、タダで働かせることができるというわけです。
「国王が養う国」サウジでは、働くサウジ人の3分の2が公務員だと言われています。
国民の間には、ガツガツ働かず、キツい仕事は避け、割の良い仕事を待つという気風がありました。
ただ、西暦とは別名グレゴリオ暦ともいい、16世紀にローマ教皇グレゴリウス13世が定めたカレンダー。
ローマ教皇というのはキリスト教(カトリック)のトップです。
一方、イスラム暦はイスラム教の開祖ムハンマドが、生まれた町であるメッカから、迫害を逃れるためにメディナへと移住した日を基準とするカレンダー。
メッカ、メディナともにサウジ国内にあり、ゆえにサウジは「聖地の守護者」として、他のイスラム諸国から一目置かれてきました。
そんな誇り高い国が、11日分の給料を浮かすために、プライドをかなぐり捨てたのです。
さらにさらに、サウジへ入るのに必要な、ビザの値段も変更されました。
イスラム教徒がサウジにある聖地を訪問する大巡礼(ハッジ)のビザ代は、これまで無料だったものが、2回目以降は2000リヤル(約5万4千円)に。(初訪問は無料のまま)
原則500リヤルだったビジネス用などのビザも、期間によって2000~8000リアルと大幅に値上げされました。
また、これまでサウジと言えば、原則として巡礼かビジネスで用事がある人しか国の中に入れてきませんでした。この制限をやめ、観光用のビザを出す検討も始まっています。
「この国は石油の中毒になっている」
サウジの改革を進めるムハンマド・ビン・サルマン副皇太子は2016年4月、そう話し、決意を新たにしました。
いまサウジアラビアは、掘れば出てくる石油への甘えから抜け出そうと、必死になっているのです。
3月にサウジ国王が46年ぶりに日本を訪れたのも、投資を呼び込むため。日本ではサウジの「爆買い」に注目が集まるなど、オイルマネーが日本に入ることに期待が高まりました。
しかし、サウジの本音はその逆で、日本のおカネをサウジに持ってくることに期待をしているのです。
今回アメリカから12兆円で武器を買うのも、カネが余っているのではなく、それだけの見返りを期待しているということです。
その見返りとは、中東でライバル関係にあるイランをやりこめることだ、と言われています。さて、安い買い物となるんでしょうか。
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