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バガボンドに海老蔵の大河…宮本武蔵が400年経っても愛される理由
今から400年以上前の1612(慶長17)年5月13日(旧暦では4月13日)は、あの有名な「巌流島の決闘」が行われた日です。宮本武蔵の生涯は、何度も映画化され、大河ドラマにもなりました。漫画『バガボンド』も人気です。なぜ、こんなにも武蔵は、愛されているのか? 決闘の日に振り返ってみます。
1582年、または84年、美作国宮本村(現在の岡山県)で生まれた武蔵は21歳で武者修行を始めました。
京都・一条寺下り松の決闘で将軍家師範を務めた、吉岡一門を倒し、天下に名をとどろかせます。武蔵は二刀流の達人で、諸国武者修行で60あまりの戦いに勝利し、「剣聖」と呼ばれるようになりました。
宮本武蔵を題材にした作品は数多くあります。
■吉川英治『宮本武蔵』
現在の「宮本武蔵」像を作ったと言っても過言ではないのが、この小説です。マンガ『バガボンド』、大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』も、吉川英治の『宮本武蔵』が原作になっています。
■井上雄彦『バガボンド』
『スラムダンク』を世に送り出した井上雄彦さんが、1998年から週刊モーニング(講談社)に連載。現在も続く人気マンガです。原作を吉川英治の『宮本武蔵』としつつも、独自の設定を加え、読者を魅了しています。
■NHK大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』
2003年、市川海老蔵さん主演の大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』では、ライバルの佐々木小次郎をTOKIOの松岡昌宏さん、恋人・お通を米倉涼子さんが演じました。
宮本武蔵は、なぜこんなにもファンの心に刺さるのでしょう?
武蔵には努力して、成長していく「苦労物語」があります。
文芸評論家・末國善己さんは、2014年2月19日の朝日新聞で次のように指摘しています。
「日本人は、スポーツを武士道になぞらえるのが好きです。選手に努力と忍耐を求める。そういうヒーロー・ヒロイン像の原型は、1935年に連載が始まった吉川英治の『宮本武蔵』でしょうね。吉川は、剣は強いが愚かな青年として武蔵を描いた。不完全な人間が努力して成長していく姿が、日本人の精神性に非常に合った」
吉川英治の「宮本武蔵」は、実は戦時下のベストセラー本でした。文芸評論家の縄田一男さんは、2012年11月26日の朝日新聞で、武蔵のストイックさ、忍耐強さは、我慢を強いられた当時の人の心の拠り所になったと指摘しています。
戦後の読者の手紙は「野武士の心があれば、敗戦後の苦しみなんてなんでもない」というものに変わりました。ここには戦後らしい読まれ方があります。
どんなときも大衆の心に寄り添っている。読者が時代によって作品を読み替えてゆくところが魅力になっています。
武蔵は若者にも人気です。縄田一男さんは、その理由について、2001年8月17日の朝日新聞記事で「既成の価値観が崩壊し、暗中模索で歩を進めねばならぬ時代に、剣一筋で己の人生を切り拓(ひら)いていく武蔵の生き方が一つの希望として復活して来るのは決して不思議なことではあるまい」と述べています。
記事では、『バガボンド』の井上雄彦さんの言葉として「これは若い人に多いんですけど、本当にやりたい目標に突き進める武蔵がうらやましいという意見が多い」という発言も紹介しています。
日本国内で根強い人気を誇る武蔵ですが、海外でも評価されています。
1954年に公開された三船敏郎主演の『宮本武蔵』は第28回アカデミー賞の名誉賞を受賞し、80年代には宮本武蔵の「五輪書」がウォール街でベストセラーになりました。
『バガボンド』は11ケ国語以上に翻訳され、世界中の人々に読まれています。
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