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シリア攻撃、日本の支持が回りくどい理由 「決意を支持」って何?
米国が巡航ミサイル59発を打ち込んだシリア攻撃。アサド政権が化学兵器を民間人に使ったためだというトランプ大統領の主張に対し、安倍晋三首相は「化学兵器の拡散と使用を許さない米国の決意を支持する」と語りました。日本の立場の説明は、なぜこんなに回りくどいのでしょうか。背景を探ると、14年前の「トラウマ」がありました。(朝日新聞政治部専門記者・藤田直央)
来日した米国のペンス副大統領が18日午後、首相官邸で安倍首相と昼食会に臨みました。席上、シリア攻撃をめぐる日本の「支持」について、トランプ政権の謝意を改めて表明しました。
突然のシリア攻撃が行われたのが日本時間の7日午前。首相はその午後、記者団を前に「支持表明」を行いました。ですが、ネットでは「『決意を支持』って何なんだろう?」といった反応もありました。
まず、この攻撃の国際法上の根拠がよくわからず、攻撃自体を支持すると言い切れない事情があります。
国際法で国家に許される武力行使として明白なのは、自衛権の行使か、国連安全保障理事会が「平和への脅威」を認定した決議に基づく場合です。トランプ氏は化学兵器の非人道性を強調しましたが、米国民に使われたわけでも、安保理決議があるわけでもありません。
ある国でひどい人権侵害があれば他国が介入できる、という考え方もあります。ただ、そうなると内政干渉や侵略と紙一重で、賛否が割れるところです。1999年、ユーゴスラビアで「民族浄化」による虐殺があるとして米国などが空爆をした際も、日本政府は「人道上やむを得ない措置と理解する」とするにとどめました。
さらにやっかいなのは、アサド政権が化学兵器の使用を否定している点です。アサド政権の後ろ盾になっているロシアも同調し、米国と言い分が食い違います。客観的な事実関係が確認しきれていないのです。
日本には、こうしたケースでトラウマがあります。米国のブッシュ大統領が踏み切った2003年のイラク攻撃。明確な安保理決議がなく国際社会が割れる中、当時の小泉純一郎首相は早々に支持を表明しました。だが、攻撃の「大義」だった大量破壊兵器は結局見つかりませんでした。
それなら今回の攻撃に急いでコメントしないという手もありました。しかし、日本はあえて立場を示した。攻撃を支持するとは言えないが、米国の決意を支持し、行動を理解する。国際法に照らしてどうこうというより、米国への連帯を示す政治的なコメントをひねり出したわけです。
その理由は、日米同盟にあります。シリア攻撃から10日たった17日の国会。安倍首相は、トランプ大統領をただすべきではと共産党の議員に問われると、こう反論しました。
「東アジアでも安全保障環境は厳しさを増している。北朝鮮がミサイル発射と核実験を繰り返している。化学兵器も相当量を保有しているのではないか」
「国民を守るために何をなすべきかを真剣に考えなければならない。その中において、世界の平和を守るトランプ大統領のコミットメント(関与)を高く評価した」
シリアで起きたような化学兵器による被害は、北朝鮮のミサイルによって日本でも起こりうる。それを防ぐには、化学兵器を使う国には軍事行動を辞さないというトランプ氏の姿勢を評価すべきだ――。そういうロジック(論理)です。
実は03年のイラク攻撃の際も、日本政府内にこうした主張がありました。北朝鮮の核・ミサイル開発に対して日米同盟が揺らいではならず、大量破壊兵器への対応という点で通じる米国のイラク攻撃を支持すべきだというものです。
ただ、そのロジックを突き詰めると米国に北朝鮮への攻撃も促すおそれがありました。小泉首相は米国を支持しましたが、北朝鮮に備えるためという側面は強調しませんでした。その様子を、当時官房副長官だった安倍首相は間近に見ています。
米国のイラク攻撃から14年。当時よりも、北朝鮮の核・ミサイル開発は格段に進みました。一方で、トランプ政権の武力行使の基準「レッドライン」は見えないまま、米朝間で緊張が高まっています。今回の日本の腐心の態度表明は「吉」と出るのか。手探り、綱渡りの外交は当面続きそうです。
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