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就活生にヒール、何で勧めるの?就活コンサル・紳士服店に聞いてみた
大学生の就職活動がまっただ中の4月です。女子学生の就活の「必須アイテム」とされるヒール。元々はフランス社交界発祥の正装用で、移動や立ちっぱなしの時間も長い就活で履くのは、大きな負担です。学生たちに聞いてみると、大学でのセミナーで勧められ、売り場でも他に選択肢がないという声がありました。なぜここまでヒールを勧めるのでしょうか? 大手紳士服店や就活コンサルタントに聞いてみました。(朝日新聞編集センター・軽部理人)
「足と靴と健康協議会」の木村克敏事務局長によると、フランス社交界の正装用だったヒールは高度成長期、日本で女性のビジネスシューズとして定着しました。欧米では日本ほど、ビジネスの場では履かれていないそうです。
就活アイテムの売り場でも、ヒールがある靴が定番になっています。
紳士服大手のAOKIでは、「就活用パンプス」として3センチと5.5センチの2種類を販売。ヒールの無いフラットシューズは、就活用としては売っていません。
その理由を、広報担当の女性は「スカートでもパンツでも、ヒールが少しでもあるとよりきれいに見せることができる。パンツスーツにフラットシューズを履くと裾が地面に当たる可能性があり、スーツが傷んでしまうこともあるかもしれません」
どうしてもフラットシューズがいいという就活生がいれば、ヒールだと足がきれいに見えること、ヒールが主流になっているなど、メリット・デメリットを説明するそうです。
一方で、履き心地のいいパンプス開発にも乗り出しています。今年は初めて、就職情報会社マイナビと共同で開発した「究極の就活パンプス」を発売。靴の中にクッション素材の中敷と屈曲性の高いソールで足の負担を減らしたソフトな履き心地。売れ行きは好調だそうです。
では、AOKIに入社したい人は、ヒールでないといけないのでしょうか? 聞いてみると、「必須条件ではなく、合否には関わらない」。TPOに合った服装を着て、着こなしているかどうかに注目しているといいます。
「洋服の青山」や「ザ・スーツカンパニー」を展開する青山商事でも、就活生用のぺたんこ靴は売っておらず、3.5~5.5センチのヒールを勧めているそうです。広報担当の男性は「足への負担もハイヒールと比べれば少なく、女性のシルエットが美しく見える。人生をかけた就活の場面では、スーツにパンプスという間違いのない装いで臨むのがいいのでは」。とはいえ同社でも、ヒールかどうかは採用の合否には影響していないとのこと。
就活コンサルタントにも聞いてみました。就活フェアなどで講師を務めるストラッセ東京の古澤有可さんは、「販売や接客、営業など、いわゆる女性らしさが求められる職業に応募する場合、ある程度の高さのヒールを勧めます。スーツとのバランスが取れて見栄えも良く、洗練されて見えます」
面接用は見栄えの良いヒールのパンプス、外履き用は歩きやすいウォーキング用のパンプスと、履き替えを勧めているといいます。
古澤さんはヒールの重要性を説きつつも、こう言います。「就活では自分を客観視する力も問われる。スーツやシャツにアイロンをかけたり、ちゃんとした化粧をしたりと、全体の身だしなみを整えることが大切です」
取材をしてみると、結局ヒールを勧めるのは「きれいに見えるから」ということのようです。きれいごとかもしれませんが、個人的には女性だけが仕事の能力だけでなく、美しさまで問われる風潮があることに、違和感を禁じ得ません。「別に何だっていいじゃん!」と思ってしまうのです。
男の私には、ヒールで足が痛むという感覚はなかなか分かりません。強いていうなら、男性が真夏の炎天下に黒いスーツの上着とネクタイ着用を必須とされているようなものでしょうか。クールビズが一気に広まり、定着したのも、多くの人々が苦しんでいたからかもしれません。同じように、ヒールが履かれなくなる時代は……いつか来るのでしょうか?
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