「推しごと」って知ってますか? 「お仕事」ではありません「推しごと」。アイドルオタク(通称ドルヲタ)たちは、大好きなアイドルを推すために、ライブに行く以外にも様々な活動をしています。それが「推しごと」。思わず「そこまでやるか!」と言いたくなるあれやこれやに汗を流すヲタたちの、おかしくもいとおしい活躍ぶりをご紹介します。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)
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AKB48選抜総選挙でメンバーのポスターを見るファン(2012年) 出典: 朝日新聞
お話を聞くべく、ドルヲタ歴35年というベテランに来ていただきました。
桝井政則さん(48)。
中学生の時に河合奈保子(知らない人は検索してね)にはまって以来、様々なアイドルたちに愛(と金)を捧げてきました。
ジャニーズも守備範囲だそうです。
ちなみに、朝日新聞大阪生活文化部のデスクです。記者たちの原稿をチェックする管理職です。ぶっちゃけ記者の会社の先輩です。そのかわり、本当に本当にガチなヲタですので、聴いてやってください。
桝井デスク。サイリウム(私物)を手にオタクの歴史から分類まで解説してくれた 出典: 朝日新聞
――さっそく、桝井氏の「授業」です。
えー、まずはドルヲタの分類から。
アイドルに直接会うことを我々は「接触」と言います。
接触するかどうか、どう接触するのかで、我々ドルヲタは分類されます。
大きくふたつに分けて、
1.在宅派
2.現場派
在宅派は、接触しない人たち。アイドルの容姿より「純粋に曲が好き」っていう人が多いですね。楽曲派とも呼ばれます。 一方現場派は、アイドルに会いに行く人たちです。
――桝井さんは?
当然、現場派です。
アイドルのライブで盛り上がるファンたち 出典: 朝日新聞
現場派は、以下のような属性で分類されます。
1.DD(でぃーでぃー)
「誰でも大好き」の略。どんなアイドルの現場にも行って、たいてい「君が一番好きだよ」と言う。一番信用されない人々ですね。
2.TO(てぃーおー)
トップオタ。ヲタたちのリーダー格です。アイドルをまだ売れていないごく初期に見いだし、後押しをし、ファンを続けてきた人々。アイドルが売れてきてコミュニティが大きくなると、ヲタのまとめ役もします。初期のAKB48もそうですが、アイドルの事務所(運営)も、最初はどうアイドルを売り出せばいいか、よく分かっていないことがある。そういう時は、TOに相談しながらやります。
桝井デスクが推していた「Doll☆Elements(ドールエレメンツ)」(2017年1月解散)のグッズ 出典: 朝日新聞
3.古参(こさん)
TOに近いですが、古くから応援する人たちのことです。
4.箱推し(はこおし)
個々のメンバーを推すのではなくて、グループで推すことです。「ももクロ」に多いですね。
5.認知厨(にんちちゅう)/レス厨(れすちゅう)
推しているアイドルに自分のことを知ってほしいというヲタ。ライブ中に自分にレスポンスをしてほしい。「こっち向いて」っていうボードを作るとかね。
6.説教厨(せっきょうちゅう)
アイドルに説教するヲタ。握手会の時に「最近君のダンスはなまってないか」とか。ちょっとうっとおしい。
山口県の地方アイドルのサイン会の様子 出典: 朝日新聞
7.無銭厨(むせんちゅう)
無料イベントばかり行く人。あまり尊敬されません。アイドルは経済ですから、基本お金を落とさないと、彼女たちは食えない。バイトをしながらアイドルをやってる人もいるわけですから。ファンも人によっていろんな経済状況がありますから、一概にお金を払わないのが悪いとは言いませんが、好きならばお金を落とさないと。事務所にもうけを入れないと、彼女たちが活動を継続できない。
8.ガチ恋(がちこい)
ガチでアイドルに恋してしまう人。この派生形で「彼氏ヅラ」というのもあります。
9.厄介(やっかい)
一番困るのがこれ。アイドルを推すんじゃなくて、騒ぎたい、目立ちたいとライブに来て迷惑をかける人のこと。具体的には、脱ぐ、酒を飲んで暴れる、舞台上に上がる、など。運営は「出入り禁止」措置をとることもできるのですが、ライブに来るということは、表面上はアイドルを応援しているので、強いことはできるだけ言いたくない。そういう時、厄介を排除するのがTOや古参の仕事です。「ここはお前たちが来る場所じゃない」と、ファンならば言えるわけです。
新潟県で行われた2016年のAKB48選抜総選挙で、入場待ちをしているファンの列 出典: 朝日新聞
――厄介を排除するのって、「仕事」なんですね……。
我々ドルヲタが日々やっていることを
「推しごと」といいます。
僕もTOとして「厄介」を説教して追い出したことがありますよ。「おまえらの行動は、彼女たち(アイドル)のためになってない!」と。当然、運営と連携してやります。
アイドルって、それぞれイメージとかコンセプトがあるでしょ? それを含めて守っていくのがファンです。「厄介」はそれを崩してしまうので。
アイドルのライブって、「やってはいけないこと」がグループごとに決まっているんです。
例えば、「リフト」。
他の客に自分の体を持ち上げてもらって、目立つ行為です。「目立ちたい」「アイドルにこっちを向いてほしい」といった人がやります。
ただ、これをやられると、後ろの人が見えなくなる。僕が推していたアイドルの現場ではリフトを禁止してました。リフトをするやつがいると、僕らが「うちではそれはやらないんだ!」と引きずり下ろします。
USJで行われたAKB48のライブの様子。ライブは現場ごとに様々な取り決めがある 出典: 朝日新聞
あと、「ジャンパー」もいます。
別名「マサイ」。
ジャンパーの始まりは、「推しジャン」です。推しメンのソロパートで飛ぶこと。
「モーニング娘。」とか、ハロプロ系のアイドルって接触イベントが少ないので、なかなか認知がもらえない。認知が欲しくて編み出された技が「推しジャン」です。
ただ、そのうち興奮してきて、ソロパートだけじゃなく、のべつまくなしに飛ぶやつが出てくる。結局、後ろの人が見えないじゃん、となるので、推しジャンを禁止しているところもあります。
もちろん、禁止するのも運営と連携して決めます。
――そこまでやるって、もはや自治ですね。
アイドルの質とは、ファンの質ですから。
アイドルにとっても、「こんないいファンに支えられている」というのが誇りになります。
でも、僕たちファンは一切見返りを求めない。すべて自主的にやっていることです。
やっぱり愛って、一方通行ですから。
桝井デスクが集めたアイドルグッズの数々 出典: 朝日新聞
――なんか名言が出ましたね。ライブ以外では何をしているんですか?
まず、リリースイベント。
CDが発売された時のリリースイベントの聖地は、池袋・サンシャインシティの噴水広場です。CDを買ったり予約したりすると、枚数に応じて「特典会」に参加できます。握手とかチェキ撮影です。
その列に何回も並ぶことを「ループ」と呼びます。
イベント自体の時間はだいたい30分なんですが、まだ売れてないアイドルだと、30分ももたないことがある。その時に、ファンが「ループ」して30分持たせる。
池袋はいろんな人が通りますから、彼女たちが少しでも人目につく時間を長くしないといけない。握手したいからというより、彼女たちに恥をかかせてはいけないという気持ちです。
「俺達が彼女たちを支えるんだ」という使命感ですね。
秋葉原でアイドルのライブ中に地震が発生したことを想定した訓練が行われた 出典: 朝日新聞
――ほかには、なにをやるのでしょう?
手紙も書きます。
接触イベントが多いとはいえ、なかなかじっくり話す機会はないですから、そういう時は、手紙が有効です。もう僕も何通も書きました。僕が私的に手紙を書いたのは、アイドルだけです。
あと大事なのが、「布教」。
他のドルヲタへの布教活動です。ヲタは100枚、150枚とCDを買いますよね。ほかのアイドルのイベント会場の出口で待ち構えて、そのCDを配るんです。
「一度聴いてやってくれ」
「あなたの1番の推しはそのグループかもしれないけど、良かったら2番にしてやってくれ」
と言って、配る。
ただ、だいたいドルヲタってみんなたくさんCDを買ってるんで、同じようにほかのグループのファンから「布教」でもらうCDも多いんですけどね。配ってさばいても、別のCDをもらうから、総量としては減らない(笑)
布教活動も大事な「推しごと」。桝井デスクの「お仕事」デスクの周りにも多くのアイドルグッズがある 出典: 朝日新聞
――しかし、よくそこまでやりますね。
ヲタは、あくまで「勝手にやる」というスタンスです。それが美学。
推しメンの生誕祭も大事です。
推しメンの誕生日を、ヲタが自主的に祝うイベントで、企画、運営すべてヲタがやります。当然、費用も自腹です。「喜んでほしい」という思いでやるけど、「祝ってやった」という気持ちは持っちゃダメ。
愛を100%推しに与え、相手には何も求めないのがヲタの美学。基本です。