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「がんばろう東北」検索され続ける理由 スローガンの向き合い方は?
東日本大震災からの6年間、人々の意識はどのように変化していったのか。ヤフーの検索データからは、「がんばろう東北」というスローガンが今も検索され続けていることがわかった。連帯感と安心感をもたらすスローガン。なぜ今も検索され続けるのか。どのように向き合えばいいのか。専門家に取材した。
2011年1月1日から2017年2月20日までのヤフーでの震災に関する検索キーワードの検索数の推移について調べた。
「がんばろう東北」は、震災後に各地で使われたスローガンだ。期間中の最大値を「100」としたときの値でみると、検索数は地震発生の3日後に「70」となり、3月中は常に「50」前後と高い数字を示した。
「100」になったのは、その直後の4月5日だ。前日4日にプロ野球・楽天が、選手が着用するユニフォームの袖に「がんばろう東北」のワッペンをつけることを発表した。
当時選手会長だった嶋基宏選手も4月2日にあった慈善試合でのあいさつの中で「ともにがんばろう東北」と呼びかけた。楽天はその後も「がんばろう東北」を合言葉に被災地の支援事業を続けている。
4月13日に期間中の最大値の「100」を記録した「がんばろう日本」と合わせて、「がんばろう東北」は復興支援活動のスローガンとして全国各地に広がった。検索量でみると、2011年末までは基本的に二桁以上の数値となっており、継続して調べられていた。
なぜ、継続して検索されていたのか。その理由について、兵庫県立大学の木村玲欧准教授(防災心理学)は 「この言葉は、被災地以外の人々の『震災は人ごとではない、自分たちも関わりをもっているんだ』という『わがこと意識』を表している言葉だと考えられる」と説明する。
その上で「ニュースなどで取り上げられることが少なくなった東日本大震災の復興に対して『今、みんなはどこまで頑張っているのか』『今、自分たちは何ができるのか』という気持ちも含めて、このような言葉が検索されているのではないか」とみる。
震災のスローガンで広く知られているのは、阪神・淡路大震災の「がんばろう神戸」だ。検索量を調べると、地震があった毎年1月17日に一定数調べられていることがわかった。
特に発生から20年となった2015年1月には期間中の最大値である「100」を記録。震災から時間が経っても人々の意識に浸透していることが見て取れる。
木村准教授は「がんばれ」ではなく「がんばろう」だった点に注目する。
「災害は自分1人の力ではなかなか乗り切れず、喪失感や孤独感に見舞われることが多々ある。その時に『がんばろう神戸』『がんばろう東北』という言葉が『自分1人ではないんだ』という連帯感と『いろいろな人たちが見守っていてくれるんだ』という安心感をもたらした」と話す。
被災3県の自治体職員の電話相談を続けている精神科医の香山リカさんは「被災者に対して、一緒に頑張っていますよという意思表示になり、励まされているような気持ちにさせる」と、スローガンには一定の効果があると言う。
その一方で「精神医学の観点からは、『がんばろう』『がんばれ』というのは要注意の言葉だ」と指摘する。
特に大震災の直後は、被災者は極限まで頑張っており、そこに「頑張ろう」という言葉をかけることが追い打ちにつながる恐れがあるといい、そうした声をかける場合は注意が必要だという。
また「がんばろう日本」「心を一つに」といったような言葉についても「すべての人に心を一つにすることを強いることにつながりうる。最近では昨今の世相を反映したような使われ方もあるように感じる。震災との向き合い方や復興へのペースはそれぞれ異なる。そこに思いをはせて言葉を選んでほしい」と話す。
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