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災害のたび増える「自粛」 震災6年 検索ワードが語る「不謹慎狩り」
大災害が起きた時、楽しいことをするのは「不謹慎」で、イベントは「自粛するべき」なの? ヤフーの検索ワードを分析すると「不謹慎」「自粛」が東日本大震災以降に増えていることがわかった。2016年4月の熊本地震など、大きな災害が起こるたびに、ネットで飛び交う「不謹慎」「自粛」。被災地では戸惑いの声も聞こえる。(KHB東日本放送・佐藤岳史、志賀英仁)
2016年4月の熊本地震。人気女優がSNSにアップした笑顔の画像に、「え?不謹慎すぎ」「タイミングが悪い」など批判的なコメントが書き込まれた。
自宅が被災した別のタレントは、避難生活などの状況をブログでつづっていたが、「不幸自慢」などと批判され、発信をやめた。
災害が起きるたびにネットなどで持ち上がる「不謹慎」の言葉。ここ10年の「不謹慎」という言葉の検索数を見てみると、東日本大震災直後に大きく跳ね上がっていることがわかる。
その後は毎年の3月11日に多く検索され、全体的にじわじわと検索は増加。グラフにしてみると、最後に大きな山を作っているタイミングで熊本地震が起きているのがわかる。
「不謹慎」と、同じ傾向を示しているのが「自粛」だ。「活動自粛」などで、芸能関係の検索でも大きな山を作る言葉だが、やはり東日本大震災以降、検索数は増える傾向に。
「不謹慎」「自粛」…。何か災害が発生すると、誰かの発言や行動を批判したり、そんな批判を恐れて何かをすることをためらったり。
そんな“空気”が震災以降、強まってはいるのだろうか?
「ネット炎上の研究」などの著書がある国際大学GLOCOMの山口真一講師は、こうした「不謹慎」批判の背景に社会のストレスがあると分析する。
「(震災後は)被災者以外の方も非常にストレスを感じています。テレビをつけると震災の情報。見続けると、だんだんストレスを感じ、いろんなことに敏感になったり、やや攻撃的になったりということがありえます」
一方、山口さんらの調査では、インターネット上でこうした批判を書き込む人々の数は全体のわずか0.5%だということがわかったという。
山口さんはインターネットの特性として、強い思いを持った人ほど書き込む数が増えると指摘。SNSやネットの掲示板では批判一色に見えても、実際は少ない人数が名前や言葉を変えて繰り返し批判を書き込み続けるケースは珍しくないという。
「一方で、何も関心もない人は書き込まないんです。それが、ネット世論と通常の世論の最大の違いです」と山口さんは話す。
ネット上で関心を集める「自粛」や「不謹慎」の検索語。被災地ではどのように受け止められていたのか。
2011年夏。まだ大量のがれきが残っていた宮城県内も自粛ムードに包まれ、各地のイベントが次々に中止を決めた。
内陸部で、会場自体は被災していなくても「近隣の町が被災しているのに遊んでいる場合ではないのではないか」と中止を決めたイベントもあった。
そんな中、戦前から続くイベント「石巻川開き祭り」実行委員会の浅野亨会長は、全国に広がる自粛ムードに疑問を持っていたという。
死者・行方不明者が3000人を超えた石巻市。電気も水道も電話も復旧していなかった3月末、連絡がつく仲間で集まり、祭りの開催を決めた。
浅野会長は「自粛ということはジッとしてるっていうこと。ジッとして下を向いていても前に進まない。前を向いて元気よくみんなでやっていかないと絶対に復興は出来ないという気持ちがあった」と話す。
「鎮魂」と「復興」をテーマに2日間にわたって行われた「川開き祭り」。例年よりは少ないものの、12万人が訪れた。
秋田、茨城、長野、新潟と全国から寄せられた花火も打ち上げられ、当時のKHBの取材に「勇気をもらった」「他県から元気付けられると感じた」などと答えた来場者が多くいた。
浅野会長は「だって、生きなくちゃいかんのよ。生きなくちゃ」と話す。
「ディズニーランドからミッキーマウスが来て町中大騒ぎだった。そうしたホッとしたとこが必要なんですよ。だって毎日毎日周りをみればガレキだらけでしょ。気がめいっちゃう」
では、過剰な「自粛」「不謹慎」から抜け出すにはどうすればいいのか。
国際大学の山口講師は“不謹慎狩り”はごくわずかの人が批判しているという構造であること、そして、被災地などの当事者が何を必要としているかなど、「実態を知る」ことに尽きるという。
「少し冷静になって、何でもかんでも批判が飛んでくるからやめようという空気を作るのではなくて、これは批判する人は出るかもしれないけど、それは少ないんだろうしやってみようと、そう思うことが大切です」。
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