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新しい「止まれ」案がイケてない理由 「左右のつぶれ」に落とし穴…
道路標識の「止まれ」が変わることを知っていますか?今までのデザインに「STOP」を英文で併記する改正案が検討されています。2020年の東京五輪で日本を訪れる外国人にもわかりやすいようにするためです。しかし、フォントの専門家からは「一目ではわかりづらい」という疑問の声も出ています。いったい、何が問題なのでしょう?
「止まれ」の標識は、見落とすと大事故につながる恐れが高いものです。2020年の東京五輪で外国人が訪日するのに備えて、昨年末に警察庁が改正案を発表しました。
「止まれ」の標識のデザインは、海外では八角形が主流ですが、日本では逆三角形です。警察庁の改正案では、今まで使われてきた逆三角形のデザインを維持した上で、日本語の「止まれ」の文字の下に「STOP」が記されています。
警察庁は中国や韓国、台湾からの訪日外国人にアンケート調査するなどし、このデザインに決めたといいます。今後は更新時期を迎えた「止まれ」から、新しいデザインに変えていくとしています。
ただ、この「止まれ」の改正案、フォントから考えると落とし穴がありました。欧文書体デザイナーの小林章さんは、「STOP」のフォントが左右につぶれており、わかりづらい可能性があると指摘します。
「『STOP』が一目でわかりづらくなっています。実際の読みやすさについて、どれだけ議論されたのかは疑問です」
小林さんはドイツ在住で約20年、見やすい欧文フォントを研究してきました。わかりづらいと考えるのは、2つの理由からといいます。
(1)もともとのフォントの幅を狭くしており、縦横のバランスが崩れて、視認性が落ちている。
(2)使っているフォントの視認性が悪く、もともと公共サインに向かない。
小林さんは「サインは真正面から見ることはありません。斜めから見たりしたら、もっとわかりづらくなってしまう。交通標識の「止まれ」に関しては、認識が少しでも遅れたら、命に関わりかねない。悪条件下でも読みやすいものを」と警鐘を鳴らします。
警察庁は取材に対して、「英字の大きさや配置のバランスが異なる複数のレイアウト案を用意し、文字の見やすさやバランスの良さについての視認性試験を行い、最も見やすくバランスのいいものを選定しました」と話します。現在、最終的な改正に向けて検討を続けているそうです。
小林さんは、「止まれ」以外にも、日本にはわかりにくい文字の標識が多いと言います。
その理由について「作り手の都合ばかりが優先されている」と指摘します。例えば、狭いスペースに文字が押し込められるなどです。空港のほか公共交通機関に設置されるサインの英文の中にも、外国人にとってわかりづらいものがあるそうです。
一方で、小林さんが仕事をしているドイツには、文字に配慮をする文化が根付いているそうです。工業規格には、文字の大きさや太さ、文字の形、文字間の距離まで、明確に規定されているといいます。
「その規格を読むと、サインに書かれた文字をすぐに読み取るために、何が必要なのかを読み手の立場に立って徹底して考えていることがわかります」と話します。
「よく日本はおもてなしの国と言われていますが、文字から見ると決して外国人に優しいとは言えません。文字というのは、見やすさで安心も提供するもの。日本を訪れる人にとって、優しい公共サインとは何かを多くの人に考えて欲しい」と話しています。
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