IT・科学
ツイッター監視され童貞喪失も親バレ…SNSに巣くう「しあわせ病」
SNSにはびこる「しあわせ病」っていったい何? 炎上しない秘訣は? 『インターネット文化人類学』の著者・セブ山さんに聞きました。
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SNSにはびこる「しあわせ病」っていったい何? 炎上しない秘訣は? 『インターネット文化人類学』の著者・セブ山さんに聞きました。
「母親はどこまで息子のTwitterを監視しているのか?」「どんな投稿でも必ず”いいね!” してくるヤツは一体どういうつもりなのか?」など、ネット上で数々のヒット記事を発表してきたライターのセブ山さん(33)。これまでの取材の成果をまとめた『インターネット文化人類学』(太田出版)を刊行したセブ山さんに、SNSにはびこる「しあわせ病」やネット炎上のメカニズムについて聞きました。
――セブ山さんが執筆した「なぜ彼らはパクるのか? パクツイ常習犯が語るTwitterの闇」という記事で、ツイッター投稿の盗用を意味する「パクツイ」という言葉を知った人も多いと思います。取材のキッカケは。
僕自身パクられてムカついていたし、周りの人でもパクられて痛い目に遭っている人が大勢いて、「ふざけんなよ」という思いで書いた記事です。僕のツイートをパクった学生に「面白いですね」と返信し、だまして呼び出して話を聞きました。そうしたら、「自分はパクツイ界の有名人。よく目をつけましたね」ぐらいの誇らしげな態度で。
――簡単にパクツイできるアプリまで駆使して盗用を繰り返している、というパクツイ常習犯の実態には驚きました。何が彼らをパクツイに駆り立てるのでしょうか。
お手軽に承認欲求を満たせるんでしょうね。人の投稿をパクって、「おもしろいですね」とリツイートされる。脳みそを1ミリも動かさずにチヤホヤされるじゃないですか。自分のパクったツイートがさらに誰かにパクツイされることで、「俺の選球眼は正しかったんだ」という感覚もあるんだと思います。
ただ、彼らに「自分でおもしろいことを考えろよ」というのも違う気がしていて。「おもしろ」だけが正しいわけじゃなくて、プレイヤーとしてあんまりでも経営者としては能力のある人もいる。誰でも何かしら向いているものがあるはずなんです。取材した学生は「僕にはパクツイしかないんです!」と話していましたが、「そんなことはないよ」と言いたいですね。
――「どんな投稿でも必ず”いいね!” してくるヤツは一体どういうつもりなのか?」という記事は、「こういう人いる、いる!」と共感させられました。
僕のフェイスブックの友達に、どうでもいいような投稿に対して一つ一つ「いいね!」をつけてくる人がいまして。僕の感覚では「この人おもしろいな」とか「この記事よかったですね」という意味で「いいね!」を押すものだと思っていたのですが、その人は何でもかんでも押してくる。友人からは「いいね!を司る者」という意味で「いいねジェリスト」と呼ばれているそうです。
単純に「気持ち悪っ!」っていう思いもありましたし、自分の理解を超えた人の価値観を知りたくなって、話を聞きに行きました。その人は「ネットの懸賞に応募しました」というような、しょうもない通知にさえ「いいね!」してくるんですけど、それは「きょうも元気で懸賞に応募できてよかったですね。生きているきょうが素晴らしいね」という意味合いらしいんですね。さすがは「いいね!を司る者」だな、と。
――「母親はどこまで息子のTwitterを監視しているのか?」という記事では、高校生の息子の行動をSNS上で監視し、童貞喪失の日まで特定しているという母親のチェックぶりに震えました。そんなことまで特定できるものなんですか?
息子がツイッターにポエムを書いているそうなんです。「きょう、ようやく本当の愛を知った」みたいな。それ以降、態度が微妙に変わったりするので、女性のカン、母親のカンでわかるらしいんですね。「クルマ貸して」と言われたら、「あ、遠くのラブホに行くのかな」とか。
監視していることがバレてしまうので、そこまでわかっていても息子に直接言うことはないみたいです。ただ、「もう大人だから」ということで、翌年からお年玉をあげるのはやめたと言ってました(笑)。
ネットリテラシーを語る時に、よく「玄関に貼り出しても恥ずかしくないツイートを」と言われますけど、それより「全部お母さんが見てるよ」って言った方が、肝がキューッと冷えるんじゃないでしょうか。
――カップル共同アカウントなどでプライバシーをダダ漏れしている中高生たちを、監視ママが「しあわせ病」と表現していたのが、的を射ているなと思いました。常にリア充アピールをしていないと死んでしまう病気なんだ、と。
「しあわせ病」は現代をよく言い表している言葉だと思います。元々は「自分が幸せと思えるかどうかが幸せ」だったはずなのに、いまでは「フォロワーや友達に幸せそうだな、幸せでいいなと思われることが幸せ」っていう風に幸せの形が変わってきている。
中高生だけじゃなく、大人もそうです。「こんなにおいしいもの食べたよ」とSNSに投稿することはあっても、安い弁当の写真をわざわざアップする人はいませんよね。それは人に幸せと思われたい、いいね!と思われたいから。音楽や写真はともかく、幸せの価値基準までクラウドに置くのはやめましょうよ、と言いたいですね。
――『インターネット文化人類学』には、ネット炎上経験者による座談会も収録されています。炎上を防ぐ秘訣はあるのでしょうか。
よく学生さんから「炎上するのが怖い」と言われるのですが、いやいや、君はまだ「炎上するためのパスポート」も持ってないから、と伝えています。それなりの社会的地位やネームバリューがなければ、炎上させる価値すらない。おでんツンツンとか店員を土下座させるとか、よっぽど行き過ぎた行為やセンセーショナルな犯罪を行わない限り、その辺の学生が炎上することはまずありません。
炎上してしまうのは、社会的地位があって、かつ調子に乗っている人。ネットを見ている人たちは、「なんやねんコイツ?」というヤツが、昔話の意地悪じいさんみたいにたたかれて痛い目に遭わないと納得しないんです。
逆に言うと、どれだけ調子に乗っていても、弱者のフリをしておけば絶対に炎上することはない。だから、ネットで活躍してる人たちはみんな、弱さを出してるんですよ。「無職です」「モテません」「童貞なんです」みたいに。ちょっとズルイですけどね。
――それにしても、取材対象として面白い人たちをよく見つけてきますね。
自分が特殊だということに気づいていない人のおもしろさを伝えたい、というのが僕の原動力のひとつです。「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見ると喜劇だ」というチャップリンの言葉の通り、パクツイ学生の身になったら「僕にはパクツイしかない」という状況は悲劇でしかない。でも引いて見ると、すごくおもしろいですよね。
「おもしろい」と言っても、もちろん指さしてアハハと笑う、という意味ではないですよ。あくまで、自分の知らない世界に対する知的好奇心として。読者の方にも、「パクツイ野郎の記事で笑っていたけど、自分にもつながるところがあるな」という感じで、ある種の「処方箋」としてこの本を読んでいただけたらうれしいです。
〈せぶやま〉 1984年、和歌山県生まれ。「オモコロ」「ヤフー」などで多くの記事を執筆。自身が手がけたヒモ男専用LINEスタンプ「ヒモックマ」が一時、総合ランキング2位に入るなど、ネットを舞台に幅広く活躍している。「セブ山」という名前に特段の意味はなく、検索で自分の評価を調べやすいように、ほかとかぶらない表記を選んだという。
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