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「段ボール」好きすぎて…会社を辞めた男 「至極のひと箱」探す日々
とにかく段ボールが好きすぎて、会社を辞め、日本や世界各地の珍しい「ひと箱」を探し続けている男性がいます。集めた段ボールは財布にして作品にしています。「段ボールの概念を変えたい」と各地でワークショップを開く日々。世界25カ国で拾い集めた彼が探し当てた「至極のひと箱」とは?
島津冬樹さんが、段ボールの財布づくりに興味を持ったのは、多摩美術大の2年生の頃。
ちょうど「お財布がほしいな」と思っていたので、ふと、課題のために置いてあった段ボールで作ってみよう、と思い立ったそうです。
「これ、面白いし、文化祭で売れるかも」
友人たちからは「段ボールで財布なんて、お金ないの?」と心配されたそうですが、文化祭では20個の作品が完売。
段ボールはとても丈夫な素材で、自分でつくった最初の財布も、修理しながら使うと2年持ちました。
それから、あちこちの段ボールを集めて、作品を作るようになったといいます。
卒業後は、広告代理店に勤めましたが、それも「3,4年したら辞めて、段ボール1本でいこう」と決めてのこと。
3年半で退職し、アーティスト「Carton」として独り立ちしました。
なぜそこまで段ボールにはまってしまったのでしょうか。
神奈川・湘南育ちの島津さんは、小さな頃から貝殻拾いが好きだったそう。
粗大ゴミを持って帰ってきてしまい、母に怒られたことも多々あったそうです。
島津さんは「とにかく拾うのが好きなんですよね。ものに歴史があるところも大切にしたい」と言います。
ふつうだったら段ボールは、中にモノを入れて運んだあとは、「ごみ」か「資源」として捨てられたりリサイクルされたりします。
島津さんは「そのはかなさも魅力なんですよね」と話します。
島津さんの工房にお邪魔すると、段ボールのストックがたくさん。
作品は、ホームページなどで2千~1万円で販売していますが、「どこでどんな風に拾ったのか」も伝えるそうです。
「拾ったときの『物語』も大切にしています。財布への思い入れも強くなると思うんですよね」
ビビっとくる段ボールには、旅行先や買い物帰りなどに偶然出くわすことが多いそうで、そこでしか拾えない「レアもの」も。
クロネコヤマトのご当地段ボールや、その地方ではおなじみの特産品の段ボール。
巣鴨の酒屋さんで、日本酒の入っていた銀一色の段ボールを譲ってもらったこともあるそうです。
インドや中国では、古紙回収で生計を立てている人が多いため、「ほしい」と声をかけると、「いくら?」と聞かれたといいます。
ただ、好きすぎて、財布にできないものも。
一番のお気に入りは、イスラエルのテルアビブの街中で拾った「コカ・コーラ」の段ボール。
どうやらヘブライ語で「コカ・コーラ」と書かれているらしい。
「持っていったカメラが怪しいと疑われて、入国に4時間かかって。
出国するのも離陸の15分前とギリギリでした。そんな大変だった思い出も含めて、これは一生財布にできませんね」と笑います。
段ボールを通して、こんな出会いもありました。
昨年6月、愛媛の「デコポン」の段ボールで作った財布を、出荷した農家に「里帰り」させる、というウェブマガジンの企画です。
下調べせず、段ボールに書いてあった愛媛・八幡浜へ突撃しましたが、地元のJAに聞いても「個人の農家かもしれない」と空振り。
地元の人のつてをたどってもらい、ようやくたどり着いたのは山沿いのミカン畑。
農家のおじさんに段ボール財布を手渡すと、「こんな風に戻ってくるなんて」と驚いていたそうです。
今では愛媛ミカンを見るたびに、ミカン畑の風景やそこで出会った人たちが思い浮かぶようになったと言います。
農家の方とも仲良くなり、ワークショップを開いたりして、交流が続いているそうです。
島津さんは「段ボールを通して、知らない世界をここまで知ることができました。どんなものにも可能性があるって知ってもらえたら」と話します。
作品づくりや各地で開くワークショップのほか、段ボール製のカメラで写真を撮ったり、段ボールをめぐるドキュメンタリーを撮影したりと忙しい毎日を送っている島津さん。
「これからも、段ボールの魅力を、いろんな方向から伝えていきたい。本当に、好きなんですよね」
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