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万年筆だけで繊細イラスト1000枚 「蔦屋書店」文具担当者のスゴ技
約3年にわたり、毎日ツイッターに「誕生日おめでとうイラスト」を投稿し続けている「名人」がいます。使う画材は万年筆と、はがき大の紙だけ。東京・代官山にある蔦屋書店の文具担当、佐久間和子さんです。ふさふさした毛の動物たち、草花、昆虫・・・繊細に描かれたイラストは、今年1月にはついに累計1000枚に達しました。
佐久間さんは文具担当のコンシェルジュとして、接客から売り場作りまでを幅広く担当。さらに文具売り場の公式ツイッター(@DT_stationery)でつぶやいている「中の人」でもあります。
例えば昨年8月20日には大きな旗を抱えた、パンダのイラストを投稿しました。細かく筆を走らせて、毛並みを表現。脇に添えたメッセージは「お誕生日おめでとうございます 本日の誕生石はスタールビー 石言葉は『常に主役』です」。
使った万年筆とインクも毎回書いています。この日はPelikanM205とウォーターマン ブラックでした。
#本日お誕生日のフォロワーさまへ#手書きツィート
— 代官山 蔦屋書店 文具 (@DT_stationery) 2016年8月20日
(つ) pic.twitter.com/82nuqAMjVu
佐久間さんは自他ともに認める「大の万年筆好き」です。中学生のとき偶然入った文房具店で、パイロット製の万年筆に一目ぼれして衝動買いしたのが最初。美術大学卒業後の就職先にも文具店を選び、コツコツ買い集めた万年筆は50本以上、インクも100種類以上にのぼります。
佐久間さんは「でも好きな人の中では、よくある話です。常連のお客様の中には、持っている万年筆が三ケタ、四ケタの人も。インクが劣化しないよう、食品用冷蔵庫を買って保存している方もいらっしゃいます」と話します。
なぜ毎日、誕生日イラストを投稿することになったのでしょうか。
佐久間さんは「実はネタ切れ対策だったんです」と笑います。
ツイッター担当になったのは、転職して代官山 蔦屋書店がオープンした2011年冬。会社から「一日一回は何かつぶやいて」と言われ、最初はおすすめ商品などをつぶやいていました。しかし、文具は書籍ほど頻繁に新商品が出るわけではなく、段々とネタ不足に。
悩んだ末「商品そのものでは無く、文具の使い方を伝えればいいのでは」と発想が変わっていきました。しかも大好きな万年筆なら、紙さえあれば実演できます。「#手書きツイート」のハッシュタグをつけ、様々な万年筆で書いた文字を写真に撮り、投稿するところから始めました。
誕生日イラストを描き始めたのは、2014年5月からでした。もともと親しいお客さんに向けてお祝いの言葉をつぶやいていましたが、店の知名度上昇とともにフォロワーが増加。「約2500人になった頃、どうしてもお祝いに漏れが出てしまって。それなら、毎日イラストを投稿してお祝いしようと考えました」
イラストは毎日昼ご飯の後などに、約20分で仕上げます。その日の誕生石や誕生花を調べてテーマを決めると、下書きなしでスラスラと描いていきます。佐久間さんは実は美術大学で洋画を専攻。就職後は描くこととは縁遠くなっていましたが「まさか、ツイッターで生かせるとは思いませんでした」といいます。
小鳥、パンダ、ペンギンなどの動物から、アポロ11号やレースカーまで多彩な題材を描いてきました。
動物の毛並みまで細かく表現する描き方には、理由があります。
佐久間さんは「万年筆は書き心地がカリカリして、書きにくいのではと誤解されがち」と言います。「実際は筆圧が要らず、紙を滑るように書ける。よく私たちは『ヌラヌラ書ける』と表現します。イラストを通して、万年筆の使いやすさが伝わって欲しいですね」。
さらに黒、茶、緑など描線の色も様々。「万年筆といえば黒や青のイメージが強いと思います。ですが多彩な市販品がありますし、プロに頼めば独自の色を調色もできます。インク好きな方で集まり、自慢の色を小瓶に入れて交換する楽しみ方もあるんですよ」
地道な投稿が奏功して、ツイッターのフォロワーは今や1万2000人超。思わぬ反響に、佐久間さんが驚くこともあります。
5年間、在庫が残っていた万年筆をイラストで使ったところ、残り3本が2週間で売り切れたこともありました。
佐久間さんは「万年筆をもっと気軽に使って欲しい」といいます。金のペン先の商品なら安くても1本1万円、手入れも必要なためハードルが高く感じられるのは事実。しかし、それを上回る魅力があるといいます。
「使っている人の書き癖に合わせて、書き心地が1本1本違ってきます。鉛筆やボールペンには無い特別感を、履き慣れた革靴のように楽しんで欲しいですね」
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