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安倍トランプ会談の前に…34年前、首脳同士が激突「ガチ取引」の真相

大統領就任が決まったトランプ氏(右)と握手する安倍晋三首相。後方は長女のイバンカ氏夫妻=2016年11月、米ニューヨーク、内閣広報室提供
大統領就任が決まったトランプ氏(右)と握手する安倍晋三首相。後方は長女のイバンカ氏夫妻=2016年11月、米ニューヨーク、内閣広報室提供

目次

10日に初会談 貿易・安保が懸案

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 安倍晋三首相が訪米し、10日に米国のトランプ大統領と初めての首脳会談に臨みます。トランプさんは就任するやいなや対日貿易赤字を問題視し、日米同盟をめぐって日本の負担増も求めかねない勢いです。安倍さんはどのような姿勢で会談に臨み、トランプさんとどのような関係を築いていくのか。とても注目されています。

トランプ米政権の閣僚として初めて来日したマティス国防長官と会談した安倍晋三首相=2月3日
トランプ米政権の閣僚として初めて来日したマティス国防長官と会談した安倍晋三首相=2月3日

中曽根・レーガン時代と似た情勢

 実は、現在の情勢とよく似ている、と指摘される時代があります。1980年代初めの日米関係です。

 82年11月に政権の座を射止めた中曽根康弘首相は翌83年1月、就任後初めて訪米してレーガン大統領と会談。

 当時、米国内には日本製の自動車や電気製品があふれ、米政府はふくらむ対日貿易赤字に不満を募らせていました。一方で、アフガニスタン侵攻など拡大政策をとるソ連にどう向き合うかという安全保障政策についても、頭を悩ませていました。

レーガン大統領との初の首脳会談を行うため訪米する特別機に乗る中曽根康弘首相(手前中央)。右は安倍晋三現首相の父・安倍晋太郎外相=1983年1月
レーガン大統領との初の首脳会談を行うため訪米する特別機に乗る中曽根康弘首相(手前中央)。右は安倍晋三現首相の父・安倍晋太郎外相=1983年1月 出典: 朝日新聞

初会談で意気投合、蜜月関係に

 日米のトップが向き合い、どのような外交を展開するのか。2人は初会談で意気投合し、その後、「ロン・ヤス」と呼ばれる蜜月関係を築きました。戦後、日米の首脳同士の関係がもっとも良好だった時期だとも言われるほどです。

 「貿易摩擦解消」と「日本の防衛強化」。まるで、トランプさんが安倍さんに投げたボールのようです。重要な初会談を、中曽根さんはどのように乗り切ったのでしょうか。

初訪米で首脳会談を終え、レーガン大統領と握手する中曽根康弘首相=1983年1月
初訪米で首脳会談を終え、レーガン大統領と握手する中曽根康弘首相=1983年1月 出典: 朝日新聞

中曽根元首相のサシ会談、外交文書で明らかに

 1月12日、外務省が公開した外交文書で、その詳細が明らかになりました。日本政府が作成したり入手したりした文書は、原則として30年以上経てば公開することになっていて、外務省が設けた委員会が国民の関心の高そうなテーマを選び、定期的に公開しています。

 今回、中曽根さんがレーガンさんと通訳だけを交えて行った「サシ」会談も含めた詳細な記録が公開されたのです。その内容はこうです。

今年公開された外交文書のファイル=外務省の外交史料館
今年公開された外交文書のファイル=外務省の外交史料館 出典: 朝日新聞
【関連】「中国首相と王選手、幻の始球式」「トウ小平氏が語る自らの過去」など外交文書の特集ページはこちら

通商政策では譲らず、防衛協力でカード

 とりわけ農産物の市場開放を求める米側に対し、中曽根さんはレーガンさんを前に「両国とも自由貿易体制の維持発展を目指している」と指摘。そのうえで、「具体的政策では米国と異なることもあり得ると理解願いたい」と述べ、通商政策で譲らない考えを伝えました。

 中曽根さんは一方で、防衛政策のカードを切ります。「防衛協力は双方の戦略上極めて重要」(首脳会談に同席したワインバーガー国防長官)と、米側が日本の防衛費増を要請したのに対し、中曽根さんは、ソ連の潜水艦が日本の周辺海峡を通って太平洋に出られないようにすることなどを例示。米国の懸念を解消し、自衛隊と米軍の協力をより強める考えを表明しました。

1983年1月の日米首脳会談の記録。中曽根康弘首相が日本の防衛努力について具体的に語った部分に赤で「取扱厳重注意」と書き込まれている。この部分は会談後の記者団への説明で伏せられた
1983年1月の日米首脳会談の記録。中曽根康弘首相が日本の防衛努力について具体的に語った部分に赤で「取扱厳重注意」と書き込まれている。この部分は会談後の記者団への説明で伏せられた 出典: 朝日新聞

中曽根外交 メディアはどう報じた?

 さて、外交記録で明らかになった「中曽根外交」を、新聞各紙はどのように報じたのでしょうか。1月12、13両日の各紙は、中曽根さんが切った「防衛協力カード」をめぐり、それぞれの評価がうかがえる紙面づくりになりました。

朝日新聞1月12日夕刊1面(右)。中曽根康弘首相時代の「日米蜜月」のきっかけになった首脳会談について報じた。毎日新聞(真ん中)、読売新聞(左)も同日夕刊1面で、中曽根氏の初訪米についての記事を掲載した
朝日新聞1月12日夕刊1面(右)。中曽根康弘首相時代の「日米蜜月」のきっかけになった首脳会談について報じた。毎日新聞(真ん中)、読売新聞(左)も同日夕刊1面で、中曽根氏の初訪米についての記事を掲載した

読売・産経は前向きな評価

 読売新聞は「日米修復 中曽根氏の決意」と表現。記事では「日米の安全保障協力を『同盟』に進化させる姿勢を明確にした」と解説しました。全体的に前向きな評価との印象を受けます。そういえば、読売新聞の渡辺恒雄主筆は、中曽根さんの盟友として知られています。

 「防衛予算の増額を要請され、前向きに応じていたことが判明した」としたのは、産経新聞です。見出しは「ロン・ヤス関係 初会談に原点」。記事では「ソ連の脅威が増す中での初会談は、強固な信頼で日米同盟を深化させた『ロン・ヤス関係』の原点となった」と分析し、こちらも批判的ではありません。

読売新聞1月13日の朝刊特別面。日米、日中、安保、沖縄など、網羅的に記事を配している
読売新聞1月13日の朝刊特別面。日米、日中、安保、沖縄など、網羅的に記事を配している

毎日は「前のめり」 東京は「負担増の源流」

 一方、毎日新聞は「関係改善に前のめりになっていた様子がうかがえる」と指摘し、見出しにも「前のめり」とうたいました。さらに、識者に「日本に安保分野で負担を求める土壌ができ、米の要求はどんどん拡大していった」と解説してもらっています。

 「前のめり」という言葉には「積極的に物事に取り組むこと」という意味のほか、「前方に倒れそうに傾くこと」という意味もあります。評価として使う場合、微妙なニュアンスだとも言えます。

 東京新聞の見出しは「安保 日本負担増の源流」。「ロン・ヤス関係が、現在の安倍政権につながる『日米同盟』の源流となった実態が鮮明に浮かび上がる。その流れは、在日米軍基地の費用負担増に触れるトランプ次期米大統領の登場で新たな局面に向かう」と記述し、安倍政権、トランプ氏にも言及しています。

 東京新聞は、「反安倍」色を前面に出していることで知られています。

日経は米国の財政事情に注目

 日本経済新聞は、経済紙らしいトーンだなと感じました。12日夕刊で「米、安保で負担要請」という見出しで報じ、「財政赤字拡大に悩む米国の要求を踏まえ」と解説。対ソ戦略での協調よりも、米国の財政事情に光を当てています。

日本経済新聞1月13日付朝刊特集面。日中首脳会談から日米の牛肉・オレンジ、沖縄問題まで網羅的に掲載されている
日本経済新聞1月13日付朝刊特集面。日中首脳会談から日米の牛肉・オレンジ、沖縄問題まで網羅的に掲載されている

朝日の見出しは……

 朝日新聞はどうでしょうか。13日付朝刊3面で「vsロン ヤスの戦略」という見出しを立て、貿易摩擦と防衛強化を並列に扱いました。

 貿易摩擦はかわしつつ防衛強化で乗る――という外交手法だったとの評価です。そのうえで、「両氏の関係は『ロン・ヤス』と呼ばれ、日米の蜜月時代の代名詞になった」と位置づけました。

朝日新聞1月13日付朝刊4、5面。外交文書に関する記事を見開いて掲載した
朝日新聞1月13日付朝刊4、5面。外交文書に関する記事を見開いて掲載した

 中曽根さんの訪米から34年。トランプさんが尊敬しているというレーガンさんとのやりとりは、安倍さんにとって参考になるのか。そして、「安倍・トランプ」は「ロン・ヤス」になるのか。そんな歴史的な初会談を、各メディアはどう報じるのか。中曽根外交に思いをはせつつ、読み比べてみてはいかがでしょうか。

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