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料理は下手でも…中国人グルメブロガーがネットセレブになれたワケ
料理の動画は中国でも人気です。中国版ツイッターの「微博」には、1300以上のグルメ・アカウントが存在します。中でも25歳の「沙茶醬」さんは「下手さ」を売りに1年あまりで120万のフォロワーを獲得しました。超高級料理を家庭風にアレンジした動画は、百万回を超える視聴回数を記録しています。今では食品メーカーのプロモーションに起用されるまでになった「沙茶醬」さんは、どのようにして「ネットセレブ」になったのか、聞きました。
中国のグルメブログの特徴は、なんといっても写真へのこだわりです。アカウントの多くは「本格的な料理」の写真を売りにしています。
人気ブロガーの1人、「王大厨」さん(フォロワー数121万)は、料理の手順だけでなく、できあがった料理をきれいに並べた写真が特徴です。阿膠(ロバの皮を原料とする生薬の一種で、美容・造血に効果があるとされる)・ナマコなど高級食材を使い、健康によい料理も紹介しています。
ブロガーの「下厨房」さん(フォロワー数360万)は、すき焼きやチーズケーズなど身近な料理のレシピを紹介する一方、金魚のギョーザなど、可愛いビジュアルの創作料理も発信しています。
グルメブロガーの「沙茶醬」さんですが、他の人気アカウントと違い、料理をしながら話す会話や「ネタ」が人気です。ちなみに「沙茶醬」は、火鍋のソースの名前です。
「沙茶醬」さんは1991年生まれの25歳、広東省深セン市に住んでいます。深セン市は香港に近く、広東料理の町として知られています。SNSでの発信は社会人になった後の2015年10月にはじめました。
フォロワーが増えるきっかけになったのが、動画でした。中国の若者の間では、独身の人が自分のことを自虐的に「単身狗(独身犬)」と呼びます。独身の人がカップルの親密ぶりを眺める「喫狗糧(ドッグフードを食べる)」という言葉もあります。
「沙茶醬」さんがネット上で注目されるきっかけになったのが「喫狗糧」をおもしろおかしく再現した動画でした。コミカルなストーリーが話題になり再生回数は300万回を超えました。その後、料理のレシピや作り方を教える「手残下厨房」シリーズをはじめました。
「自分がグルメブログをはじめた時には、すでに多くの有名な先輩ブロガーがいました。料理の腕では勝負できないので、『下手でもおいしい料理を作れるよ』というメッセージを送ろうと思いました」と振り返ります。
「沙茶醬」さんが取り上げるのは、手軽な家庭料理です。たとえば日本のたこ焼き、韓国風のり巻き、中国の屋台料理などを紹介しています。
その一方で手の込んだ超高級料理「佛跳牆」にも挑戦しています。
「佛跳牆」は中国福建省発祥の料理で、名前の由来は「あまりのおいしさと香りで、修行中の僧侶・仏もお寺の壁を飛び越えてくる」と伝えられています。
高級食材がふんだんに使われ、調理も時間がかかることから、皇帝や貴族しか食べられないぜいたく品として知られています。アメリカ大統領やエリザベス女王のような国家元首級の人物をもてなす時に出されます。
そんな「佛跳牆」を「沙茶醬」さんは、身近な食材を使って数時間で作れる「家庭料理」にアレンジしました。例えば手に入れにくい「ハトの卵」は「うずらの卵」に、「フカヒレ」は「春雨」にするなど、工夫を凝らしています。
「ネタ動画」で鍛えた表現力で、超高級料理をわかりやすく解説した動画は、1カ月で429万の再生回数を記録しました。
1年あまりで、100万以上のフォロワーを持つアカウントに成長させた「沙茶醬」さん。グルメアカウントのコツについて「ビデオは長すぎたらダメ。短い尺のなかに、きちんと内容を伝えないと、フォロワーは離れます。そしてユーモラスも必要不可欠。みんなが見て笑って、リラックスできるよう心がけています」と話します。
日本では「Tasty Japan」のような1分程度の長さで、実際に料理をしなくても見ているだけで楽しい料理動画が人気です。同じように、本格的な料理方法を解説するアカウントが多い中、逆に「沙茶醬」さんの動画は親しみが持てる内容で評判になりました。
「沙茶醬」さんは、しゃべる言語も工夫しています。最初は標準語の中国語で解説していましたが、一度、方言の広東語で話すとユーザーから好評だったので、それ以降、広東語で料理解説をするようにしています。
「いま、私のビデオを見ながら、言葉の勉強をしているフォロワーもいますよ」
現在では、インスタントラーメンや、のどあめなどの食品メーカーからプロモーションの依頼がくる「ネットセレブ」(網紅)になった「沙茶醬」さんですが、過去にはトラブルもありました。
「母の日」について、その日だけ親孝行をアピールする人がいることを指摘した投稿に対して「そんなことない」などの反応が殺到してしまったのです。
「そんなことになるとは予想外でした。ネットの暴力は本当に怖かったです」
現在は、自分の意見は表に出さず、料理やグルメのコンテンツに専念しているそうです。
それでも、「沙茶醬」さんは「微博」に可能性を感じています。
「微博は非常にオープンな空間。今は、動画が人気で、撮影もアップロードも簡単にできるようになりました。色んな人が参入しやすくなっていて、ネットセレブになれるチャンスはまだまだ転がっていますよ」
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