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誰も不快にさせない臓器移植キャンペーン ぬいぐるみ、よく見ると…
賛成の人も反対の人も、関心のある人もない人も、誰も不快にさせず臓器移植のことを知ってほしい。そんな願いから「Second Life Toys(セカンドライフトイズ)」は生まれました。壊れてしまったおもちゃに、他のおもちゃから「移植手術」を施すというキャンペーン。どんな思いで生まれたのか。企画した2人に話を聞きました。
「セカンドライフトイズ」は臓器移植医療の普及をめざすキャンペーンとして企画されました。
考えたのは電通の鈴木瑛(あきら)さんと木田東吾さんです。普段はテレビCMなどを作っています。社会課題の解決をテーマにした社内のコンペに応募して実現しました。
存在は知っていても、なかなか、自分のこととして考える機会を持ちにくいのが臓器移植です。
鈴木さんは「実際に自分は冷静に考えられなかった。その時の判断に後悔がないとは言い切れない。だから普段から臓器移植について考え、準備しておくことが必要だと思ったんです」と話します。
鈴木さん、木田さん、2人が大事にしたのは「移植をすすめているようには思われないこと」でした。
「意思表示することの大切さ、それを広めたかった」と木田さんは語ります。
「セカンドライフトイズ」で募集しているのは、おもちゃです。「ドナー」は、もう使わなくなったおもちゃ。そして、「ドナー」から「移植手術」を受けるのは、壊れたおもちゃです。
「移植手術」を受けたおもちゃは、帰りを待つ子どもたちの元へ送り返されます。「ドナー」の元へは、修復されたおもちゃの持ち主の子ども、あるいはその両親から感謝の手紙が送られます。
一つの命が別の命をつなぐ存在になる。おもちゃを通して、臓器移植の考えを自然に知ることができるのが「セカンドライフトイズ」です。
「誰も不快にさせたくない」
2人は、色々な意見を持つ人がいる臓器移植について「どうやったら静かに考えてもらえるか」に心を砕きました。
「セカンドライフトイズ」の「移植手術」を仲介するサイトには、キリンや象、うさぎなど温かみのあるぬいぐるみが登場します。そのぬいぐみの体の一部は、他のぬいぐるみの「ドナー」から提供された腕や脚が手当てされています。
見慣れたおもちゃの中にある、ちょっとした「違和感」。さりげなく、わかりやすく、臓器移植の存在を伝えています。
「セカンドライフトイズ」には、小倉優子さんや奥山佳恵さんら、芸能人も協力しています。
「いろいろな人にコンタクトを試みたいのですが、断られることも多かったです」。木田さんは明かします。
「いざ、自分のこととして考えた時、なかなか表立って賛同しづらいという気持ちになったのではと思います」
普段から付き合いのある事務所にお願いをしにいくと、なかなか、いい返事をもらえません。最初、大丈夫だと言ってくれた後に、断られたこともあったそうです。
木田さんは「あらためて、日本での臓器移植の認識が、どのようなものか、目の当たりにした気がします」と振り返ります。
「プロジェクトを進めていく上で、貴重な学びとなりました」
2人は、昨年12月、アメリカの外交専門誌「Foreign Policy(フォーリン・ポリシー)」が選ぶ「世界の頭脳100」に選出されました。
「物にも魂が宿る。そんな東洋的な考えが評価されたのかもしれません」と鈴木さん。
日本の臓器移植は、手術を待つ人が約1万4000人いる一方、移植を受けられる人は年間300人程度と、圧倒的にドナーが不足しています。
「セカンドライフトイズ」では、これまでに約200体のぬいぐるみを修理してきました。キャンペーンへの申し込みの多くは、「ドナー」や修理ボランティアだそうです。
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