感動
龍角散、ドーピング騒動で「神対応」 発信源の選手に見せた気遣い
のどあめをめぐって起きた「ドーピング騒動」に思わぬ形で龍角散が巻き込まれた。きっかけは、昨夏のリオデジャネイロ五輪の陸上に、日本代表で出場したある女子選手の「勘違い」ツイートだった。火消しに追われた龍角散本社だったが、選手の将来を考え「寛容」な態度で一件落着。選手を指導する監督は「〝神対応〟に救われた」と話している。(朝日新聞スポーツ部記者・原田亜紀夫)
市販の「のどあめ」に使われる生薬「南天」などに含まれる物質「ヒゲナミン」が、世界反ドーピング機関(WADA)の禁止薬物リストに今月から加わったことで、波紋が広がった。そんな中、問題の成分を含まないにもかかわらず、龍角散ののどあめを「禁止薬物」とする誤った情報がSNSで広がってしまった。
このニュースが報じられた12日、ある実業団に所属する選手が実名のツイッターアカウントで、こう謝罪した。
「私の軽率な行為により、株式会社龍角散様には多大なる迷惑をおかけいたしました」
龍角散ののどあめを子どものころから愛用しているというこの選手は、本来は対象成分が含まれない「龍角散ののどあめもアウト」という誤った情報を耳にして信じ込み、ツイッターで発信してしまった。すぐに過ちに気づき、問題のツイートを削除、訂正したが、情報はSNSの海に広がった後で、遅かった。
「誤った情報を確認もせず、うのみにしてツイートをしてしまい、大変申し訳ありませんでした」。謝罪ツイートと同じ日、その選手は龍角散本社を所属先の広報部長らと訪れ、直接謝罪もした。
「当社の『龍角散ののどすっきり飴』には、ヒゲナミンは一切含まれておりません。ご安心ください」。情報が出回るとすぐにホームページで説明し、火消しに追われた龍角散は、寛容だった。「将来有望な選手。これからもあなたを応援していく」と、伝えたという。選手は真摯(しんし)に反省し、迅速に事後対応を取ったことで、この問題は一件落着した。
選手が所属するチームの監督もツイッターで、龍角散の製品を持った写真とともに、「多くの関係者の皆様にご迷惑をおかけしました」とわびた。
13日、その監督に電話すると、「合宿先にいて、選手には直接会っていないけど、電話口では相当ショックを受けているようだった。今回は龍角散さんの〝神対応〟に救われた。SNSの使い方については、細心の注意が必要だと痛感した」と話した。
勘違いも結果として「デマ」を巻き起こしてしまうSNSをめぐる問題は、誰にでも起こりうる。とりわけ日の丸をつける日本代表選手なら、発信力がある分、その影響も大きい。
日本オリンピック委員会(JOC)も五輪有望選手や指導者を対象に研修会を開くなど、対策に乗り出している。専門家を招き、SNSの長所と短所、選手の立場でどう活用すべきかなどを学びあう取り組みが進むが、選手の認識が追いついていないのが実情だ。
「龍角散」の間違った情報が広がる中で、別の男子陸上選手のこんなツイートもあった。「浅田飴はドーピング禁止物質を含んでるみたい。他の飴はどうなんだろう」。「浅田飴」は今月のWADAの禁止薬物リスト変更前から、禁止物質のエフェドリンを含み、ドーピング対象だが、今さらながら、公の場でそうつぶやくケースも見られた。
「龍角散」の誤情報をつぶやいた女子選手は「今後ツイッター利用につきましては注意を払っていきます」と自身のツイッターに改めて記した。監督も、「龍角散社員の皆様に『あの時のあの選手、頑張っているね』と喜んでいただける日が来るようにしたい」。
過ちに気づき、すぐに謝罪した選手には、反省と誠意が感じられた。そしてそれを受けとめた龍角散の懐深い対応に、若い才能は救われた。
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