IT・科学
医療メディアは儲からない? 「正しい情報」が検索で現れない理由
ネット向けに記事を書いていて、どうしても気になるページビューなどの数字。誤った医療情報が大量に掲載された「WELQ問題」が話題になる中、12月中旬に「メディカルジャーナリズム勉強会」が開かれました。正確な情報はなぜ読まれないのか。医療メディアはビジネス化できるのか。専門家は「症状で検索せず、信頼できるサイト名を入力して」と、検索サイトの限界を指摘しました。
「メディカルジャーナリズム勉強会」は、医療関係者とメディアが壁を越え、よりよい発信方法を考える場があったら、という思いで有志が集まった勉強会です。
テレビ局に勤め、医療問題を主なテーマに取材している市川衛さんが代表を務めています。第1回の勉強会は2016年8月に開かれました。今回は約150人が参加しました。
テーマは「インターネット上の医療健康情報の今後を考える」。
市川さんは「SEO(検索エンジンの最適化)ばかり考えて医療情報を出しているメディアが増えていたので、取り上げようと勉強会を企画したら、直前にWELQが問題になった」と話します。
ミニレクチャーを担当したSEOの専門家・辻正浩さんは、「WELQは、googleのアルゴリズムの隙を突いた」と指摘します。
辻さんによると、ネット検索のうち、健康・医療に関するものは5%だそうです。
googleが処理する検索は1日30億回あり、そのうち15%は過去に一度も検索されたことがないキーワードが入力されるといいます。
検索のアルゴリズムは日々進歩しているけれど、今回のWELQの問題は、改善の隙を突き、短期間で記事を大量に配信したことで、検索の上位に上がるようになったと分析します。
すべてを正しい医療情報に導く完璧なネット検索は不可能に近く、いまだ、<インフルエンザ 予防接種>で検索すれば、上位に【打ってはいけない】と題されたサイトが表示されます。
辻さんは「WELQがいなくなって、一番得したのはNAVERまとめ(キュレーションサイト)」と指摘し、「小児科学会の子どもの病気サイトなど素晴らしいコンテンツがたくさんあるのに、検索に引っかかりやすいサイトにできていない」と話します。
また、情報を求める側も「検索エンジンは完璧ではない」ことを踏まえたうえで、「頭が痛い」といった症状では検索せず、信頼できるサイトの名称を入力することを勧めます。
情報を発信するメディア側には「いいサイトやコンテンツを作るしかない」と強調します。
でも、素晴らしいコンテンツがあっても、知られていなければ無いのと同じ。ユーザーが「どんな言葉で検索するか」も意識した方がいい、とアドバイスしました。
いいコンテンツを作り、正確な情報を届けたいメディアにはジレンマが伴います。
勉強会にもパネリストとして参加したメドレーの代表取締役医師の豊田剛一郎さんに聞くと、「まじめにやろうとすればするほど、キャッチーさやポップさからは離れていく」と話します。
メドレーは、インターネット上で正しい医療情報を届けたいと、「オンライン病気事典MEDLEY」などを運営する会社です。
ほとんどの記事は6人いる社内の医師が書き、登録している500人の医師が、得意分野を生かして監修する仕組みをとっています。
医師だった豊田さん。日本の医療は「医者任せ」になっていて、もっと患者側が「自分ごと」として「知る」ようになってほしいと、メドレーの事業に加わったそうです。
ですが、ネット上の医療情報は玉石混淆。
SEOに頼らず、地道に正しい情報を発信し、「医療情報に悩んだら、『まずはメドレーで調べてみよう』と思ってもらえる、道しるべのような存在にならなければ」と話します。
ただ、医療情報を発信するメディアのビジネス化は、簡単なことではないそうです。
メドレーの豊田さんも、「企業として、ビジネス化はとても大切ですが、まだまだできていない、というのが正直なところ」と話します。
メドレーでは、医療介護の求人サイト事業で黒字化をはかりながら、「社名を掲げた以上、気合いを入れて情報発信に取り組んでいます」と意気込みます。
SEO専門家の辻さんも、「医療情報には正しさが必要。もうけ度外視でやれるところがやるべきだ」と指摘し、学会など専門家の活躍にも期待しています。
メディカルジャーナリズム勉強会では、今後も学びの場を設けていくそうです。
勉強会代表の市川さんは、「勉強会はまだまだ小さな組織ですが、正しい情報を届けたい、という仲間がどんどん集まればいいな、と考えています」と話していました。
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