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「自衛隊、本当に大丈夫?」 前防衛相とガチ議論 中谷元vs木村草太

元防衛相の中谷元氏(右)と木村草太氏=大嶋千尋撮影
元防衛相の中谷元氏(右)と木村草太氏=大嶋千尋撮影 出典: 朝日新聞

目次

 国会前のデモなどで注目された安全保障関連法の成立から約1年。政府は「退避勧告」が出ている南スーダンに自衛隊員を派遣し「駆けつけ警護」という新たな任務を与えました。そんな場所に自衛隊を出して大丈夫なの? 集団的自衛権って実際、何をするの? 国会審議で防衛相として答弁に立った中谷元氏に、憲法学者の木村草太氏が、ガチで議論を挑みました。(司会は松本一弥・朝日新聞WEBRONZA編集長)

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反対する野党議員に囲まれる中、安保関連法案の委員会採決をする浜田靖一委員長(中央右)=2015年7月15日
反対する野党議員に囲まれる中、安保関連法案の委員会採決をする浜田靖一委員長(中央右)=2015年7月15日 出典: 朝日新聞

 国論を二分した安全保障関連法の成立・施行を受けて、政府は集団的自衛権の行使を認める安保法制の本格運用に向けた様々な準備を進めています。

 集団的自衛権とは、自分の国が直接、攻撃されていなくても、同盟関係などにある他の国のために軍隊などを出動させることです。

 これまでの自衛隊は日本が直接、攻撃された時だけ出動することを基本的な考え方にしていました。なので、安保法制は大きな変化として受け止められました。

 11月20日、本格運用に向けた準備の一環として、陸上自衛隊を南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)に派遣しました。

 しかし、南スーダンの情勢については当の政府から「治安情勢が厳しいことは十分認識している」との文書が発表されていて、自衛隊員の今後が非常に懸念されるといわざるを得ない状況です。

 木村氏は、南スーダンの情勢について「停戦合意はすでに破れているのでは?」と指摘しました。

 対する中谷氏は「PKO法上の武力紛争が新たに発生したとは考えていません」と答え、その理由として、対立していた勢力の一方が「すでに国外に出ている」ことをあげました。

 また、安保法制をめぐっては、集団的自衛権の行使要件として新たに盛り込まれた「存立危機事態」が注目されました。「存立危機事態」が脅かされると判断されると、自衛隊が日本以外の場所に出動することになります。

 木村氏は「米艦への攻撃はすべて『存立危機事態』になるのか?」と疑問をぶつけました。

 中谷氏は「米国に対する武力攻撃が発生する全てのケースではない」という考えを示しました。

 2人は、その他、「存立危機事態」そのものの定義などについて激論を交わしました。対談の詳細は以下です。

「存立危機事態」とはそもそも何か?

木村草太氏

(集団的自衛権について)安保法制の成立を受けて自衛隊法76条第1項が改正され、第2号が付け加わり、「存立危機事態」での防衛出動が可能になりました。私がわからないのは、この条文の第2号、「我が国の存立が脅かされ」るという場合の、「存立」という言葉の意味です。これはどのように定義されているのでしょうか?

中谷元氏

存立は、言葉の通りの意味でありまして、「存在し、成り立つこと」です。そして、存立危機事態は、法律に書いてある通りでして、密接な関係にある国に武力攻撃が発生し、「これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある状態」ということです。これは、そのままでは、すなわち、その状況の下、武力を用いた対処をしなければ、我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻・重大な被害が国民に及ぶことが明らかな状況であります。

木村草太氏

この条文の構造には三つの条件があると私には読めます。一つ目は「我が国と密接な関係にある他国に対する攻撃」があった場合、二つ目は「我が国の存立が脅かされ」ること、三つ目が「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」です。

木村草太氏

しかし今の説明だと、(2)と(3)の条件の違いがはっきりしません。何があると国家の存立が脅かされるのかという点が不明確です。「我が国の存立」という言葉に意味はないということですか?

中谷元氏

「我が国の存立」の意味としては、当たり前ですが、先ほど述べたとおり、我が国という国家が存続し、成り立つということでして、これが、我が国と密接な関係にある国に対する武力攻撃が発生することによって、「脅かされる」ということです。

木村草太氏

「存立」という言葉は、国民の権利とは別に国家全体にかかわることで、(2)は独立して意味がある文言であるべきだということを指摘したいと思います。近代国家とはつまり主権国家のことです。その意味で、集団的自衛権を行使できるかどうかは、「我が国の主権に対する侵害があるかどうか」で認定されるべきではないでしょうか?

中谷元氏

「国の存立」は、国民の権利とは別であるということですが、私としては、条文上にある国民の様々な権利が根底から覆されるような状況も、「国の存立」に影響すると捉えております。どちらにしても、国家が存立の危機に陥らないように対処するということがとにかく重要です。
韓国軍との演習のため離陸準備をする米空軍の戦闘機=2016年10月14日、ロイター
韓国軍との演習のため離陸準備をする米空軍の戦闘機=2016年10月14日、ロイター

武力攻撃受けていなくても反撃?

中谷元氏

「存立危機事態」の具体的な例を挙げます。例えば、我が国周辺で、我が国と密接な関係にある国、米国に対して武力攻撃がなされたとして、その時点では、まだ我が国に対する武力攻撃が発生したとは認定されないものの、攻撃国は、我が国をも射程にとらえる相当数の弾道ミサイルを保有していて、その言動などから我が国への武力攻撃の発生が差し迫っている、といった状況であり、そのような状況の下、米国の弾道ミサイル対応の艦艇に対する武力攻撃を早急に止めなければ、我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな場合が挙げられます。

木村草太氏

日本への武力攻撃の着手がないにもかかわらず、「日本の存立が脅かされている」と認定していいのでしょうか?

中谷元氏

我が国に対する武力攻撃の発生を待って対処するのでは、弾道ミサイルによる第一撃によって取り返しのつかない甚大な被害が及ぶことになる明らかな危険がある場合には、「我が国の存立が脅かされている」と言えます。まさに、我が国への武力攻撃はなされていませんが、武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶおそれがあるのです。このような事態を存立危機事態と定義し、武力の行使を可能としました。
イージス艦「みょうこう」で行われた近接対空目標対処訓練=2004年3月9日
イージス艦「みょうこう」で行われた近接対空目標対処訓練=2004年3月9日 出典: 朝日新聞

米艦が攻撃されたら反撃するの?

木村草太氏

確認させていただきたいのですが、すべての米艦に対する攻撃が日本の「存立危機事態」にあてはまるわけはないですね? 「存立危機事態」にあたるとして日本が防衛出動を検討する場合、日本の防衛に協力している米艦への攻撃が対象になるとして、その米艦防護の範囲はどうやって判断するのですか?

木村草太氏

またその際、その米艦への攻撃が、日本に対する武力攻撃への着手にあたると認定できる場合でないと、本当はこの「存立危機事態」の条文も使えないのではないでしょうか。

中谷元氏

米国に対する武力攻撃が発生する全てのケースが、存立危機事態になるわけでは当然ありません。また、存立危機事態を認定した後でも、米国に対する武力攻撃の全てに対処するわけではありません。既に存立危機事態が認定されているとして、「存立危機武力攻撃」、これは条文上、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃であって、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるもの」と規定されていますが、これを排除するために、武力の行使の新たな3要件を満たす限りにおいて対処することとなります。「存立危機武力攻撃」が排除できれば、対処は終わりです。
出港する米海軍の原子力空母ロナルド・レーガン=2016年6月4日、神奈川県横須賀市、堀英治撮影
出港する米海軍の原子力空母ロナルド・レーガン=2016年6月4日、神奈川県横須賀市、堀英治撮影 出典: 朝日新聞

南スーダンは安全?危険?

木村草太氏

南スーダンの首都のジュバでは、政府軍の制服を着た部隊によるNGOへの襲撃などが起きていると伝えられていて、多くの国民がかなり心配をしていると思います。こうした情報からすると、「自衛隊のPKO参加5原則」の一つである「停戦合意が存在している」点などはすでに破れているのではないでしょうか?

中谷元氏

「PKO参加5原則」が成立しなければPKOはできません。情勢についていえば、7月にジュバでキール大統領派と当時のマシャール第一副大統領派の間で衝突が発生して治安が悪化していたのは事実です。

中谷元氏

しかし衝突後、双方が敵対行為の禁止を表明して以降は現地の情勢も比較的落ち着いていますし、現地に派遣されている自衛隊からの情報を総合的に勘案すると、PKO法上の武力紛争が新たに発生したとは考えていません。当時の第一副大統領派はもうすでに国外に出ておりまして、紛争当事者に該当するとは考えていないということです。
安保関連法に基づく「駆けつけ警護」で、陸上自衛隊が公開した国連職員救出の訓練=2016年10月24日、岩手県滝沢市の陸上自衛隊岩手山演習場、仙波理撮影
安保関連法に基づく「駆けつけ警護」で、陸上自衛隊が公開した国連職員救出の訓練=2016年10月24日、岩手県滝沢市の陸上自衛隊岩手山演習場、仙波理撮影 出典: 朝日新聞

中谷元(なかたに・げん) 1957年生まれ。防衛大学校卒業。陸上自衛隊普通科連隊小銃小隊長、レンジャー教官を経て衆議院議員(当選9回)。防衛庁長官、防衛相を歴任した。自民党安保法制整備推進本部長も務めた。現在は自民党憲法改正推進本部長代理、衆院憲法審査会の自民党筆頭幹事。

木村草太(きむら・そうた) 1980年生まれ。東京大学法学部卒。同助手を経て現職。主な著書に「平等なき平等条項論」(東京大学出版会)、「憲法の急所」(羽鳥書店)、「キヨミズ准教授の法学入門」(星海社新書)、「憲法の創造力」(NHK出版新書)、「テレビが伝えない憲法の話」(PHP新書)、「集団的自衛権はなぜ違憲なのか」(晶文社)、「憲法という希望」(講談社現代新書)などがある。

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