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1200万フォロワー、中国の謎アカウント 正体隠し海外情報を発信
中国版ツイッターの「微博」で、本名や顔写真、学歴など一切公開せずに1200万のフォロワーを獲得したアカウントがあります。「英国報姉」は、イギリスのEU離脱など、海外のニュース解説がリアルタイムに掲載されています。アメリカ大統領選でも独自の分析を披露しました。いったいどんな人が運営しているのか。話を聞きました。
「英国報姉」は「姉(中国語で「姐」、年上の女性)」の名の通り女性です。イギリスの大学で修士号をとり、2015年に香港の大学で博士号を取得しています。
アカウントを作ったのは、博士課程の一年目の時でした。
「勉強も忙しくなく、イギリスの留学生活が恋しくなって微博で母校の情報を集めはじめたんです。最初は校友会名義のアカウントでした」と話します。
当時は、もっぱら母校のイギリスの大学の情報をシェアするだけ。主な情報源も大学新聞や学生新聞でした。
ただ、中国でイギリス留学は人気があり、時折、発信する留学のコツなどが人気を集め、すぐにフォロワーは数十万人に増えました。
イギリスの情報の受けがよかったことから、情報源をイギリスのメディアやSNSなどに広げ、アカウント名も「英国報姉」にしました。
内容もイギリスから海外全般にまで拡大しました。その時点ですでにフォロワーは50万人を超えていました。
その後、どうやって1千万を超えるアカウントになったのでしょう?
まず、ニュース選ぶセンスが抜群でした。単に面白いだけでなく「中国の読者にも受ける」ことを意識したそうです。
例えばアフリカの貧困地域に、デンマーク人女性が「不吉」だと思われ捨てられた子どもたちを救助したニュースは、中国でも大反響を呼びました。貧困、迷信、慈善などのキーワードが受けて、31万のいいね、10万以上のリツイートの数字を稼ぎました。
もう一つは「スピード感」です。ライバルである他のアカウントに勝つため「早さ」を重視しました。
最後は「発想力」。海外で起きていることだけでなく、中国で話題になっていることと海外の動きをつなげて紹介しています。例えば、中国では評判のよい小学校に入るために、学校の近くにある高額のマンション「学区房」を購入する親がいます。イギリスの親も同じように、教育とお金で苦労しているというニュースを紹介しました。
フォロワーを増やすには苦労もありました。
毎日、6~7本の投稿をするのは体力的にも精神的にもきつい時があったと言います。
特に早さ勝負にこだわったため「睡眠を削りに削る日々」だったそうです。
「数日ごとに、やめようやめようと思っていました」
それでも、コメント数や「いいね」数を励みにコンテンツを毎日、作り続けました。
最新のニュースを素早く投稿するため、昼も夜も新着ニュースを知らせるアプリのプッシュ通知も意識していたそうです。
大きな労力をかける分、リターンもあります。
まず、広告収入です。有名なアカウントの中には「微博」の収入だけで生活している人もいます。
ただ、「英国報姉」さんは、お金以上に大事なのが「社会的影響力を持つ」ことだと言います。
「英国報姉」さんは、中国人にも知って欲しい世界の社会問題などを微博で取り上げ、時々批判的なコメントを入れています。そんなコメントに、フォロワーから共感の反応がつくのが何より嬉しいそうです。
2015年2月、トルコで20歳の女子大生がバスのドライバーに性的暴行を受け、抵抗した女子大生が殴られ、焼死させられた事件を紹介しました。
投稿ではニュースの翻訳と同時に、個人としての憤りも書き込みました。この投稿には16455件の「いいね」と5400件のシェア、2000近くのコメントがつきました。
多くは「女性への暴力を拒否し、女性の生活に尊厳と愛を…」という「英国報姉」さんのメッセージに賛同する声でした。
「英国報姉」さんは「中国では絶対にこのようなことが起こらないよう、という願いを込めました。私のようなフォロワー数の多いアカウントがメッセージを発することで、社会の役に立つと信じています」と話します。
中国では、ツイッターと同じ機能を持つ微博から、LINEのようなメッセージアプリ「WeChat」にユーザーが移っていると言われています。
それでも「英国報姉」さんは微博を重視しています。
「微博は情報を収集するだけでなく、人の意見を確認したり、世論が形成されたりする場にもなります。WeChatは、交友機能がメインで、パブリックな場に情報を広めるのは苦手です。同じSNSでも、それぞれの機能を考えるべきだと思っています」
社会問題にも触れ、「社会の役に立ちたい」と考える「英国報姉」のようなアカウントには、今も微博が一番、合っているようです。
かつては学業の合間を縫って、睡眠時間を削ってアカウントを経営しましたが、今年からは複数人のチームでアカウントを運営するようになり、フルタイムで微博を経営するようになりました。
11月9日のアメリカ大統領選挙では、各州の選挙結果をリアルタイムでシェアしました。
トランプ氏が優勢になった時点で、「アメリカからカナダ移民局のウェブサイトへのアクセスが集中しすぎて、サーバーがダウンした」ニュースなどを発信しました。
外交についても注目されるトランプ氏。勝因について「英国報姉」さんは、SNSのプロの立場から「メディアの存在」をあげました。
「トランプ氏の勝利で思い起こすのは、ケネディ大統領の選挙戦です。経験豊富なニクソンに対し、ケネディはほぼ無名でした。しかし、テレビに映ったケネディの姿はすがすがしく魅力的で、ニクソンを圧勝しました。当時ラジオだけを聞いた人は、ニクソンが勝ったと思ったかもしれません。それと同じことが、マスメディアとインターネットで起きたのだと思います」
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