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「おにぎり祭り」なぜ起きた?仕掛け人が語る「寄付っぽくない寄付」
2016年秋、SNS上でおにぎり祭りが起きました。おにぎりの写真をSNSに投稿すると、企業の協賛金から1件につき100円が寄付され、飢える子の給食5食分になる「おにぎりアクション」。1カ月で約4万6千件もの投稿が集まり11月末まで継続中です。社会貢献のかたちはいろいろあるなか、なぜ「おにぎり」だったのか。盛り上がりの装置として、インスタの存在がありました。(朝日新聞文化くらし報道部記者・高重治香)
「おにぎりアクション」は、世界の飢えと過食の問題に取り組むNPO「テーブル・フォー・ツー・インターナショナル」(TFT)が11月30日まで行っているキャンペーンで、1回目の昨年の投稿は5000件超でした。ところが、2回目の今年は10倍近い数字に。この盛り上がり、TFTスタッフ、大宮千絵さん(33)が仕掛け人です。
「私が昨年春にTFTに入って少しした頃、世界食料デー(10月16日)に合わせて、誰でも参加できるキャンペーンを何かやりたいという話になりました」
「TFTは世界で活動していますが日本発のNPOなので、せっかくだから日本の食で、身近で、絵になるものをシンボルにしたかった。偶然、ミラノ万博でTFTがおにぎりを来場者にふるまった時の写真を見ていた時、これだ!と思ったんです」
――同じ日本食でも、納豆やみそ汁ではダメだったのででしょうか。
「実は昨年のアクションの後、みそ汁やお好み焼きで同じことをやりたいと、食品団体の方からご提案いただいたんです。でも、おにぎりの手軽さにはかなわないと思いました」
「それにおにぎりって、愛情をこめる食べ物ですよね。私も子どもの頃、遠足やピクニックに行く時に母親がおにぎりと卵焼きを作ってくれたことを覚えています。中学生になって、恥ずかしいから持っていかないと言ったら怒られて……」
「自分が親として握る側になってから、親の愛情に気づきました。そういう思い出と結びついて、多くの人の心のホットボタンを押してくれる食べ物だと思います」
――「心のホットボタン」って何ですか?
「マーケティングの世界では、人の気持ちを動かすことを『心のホットボタンを押す』と言うんです。消費者の本音である『インサイト』をつかむ、ということですね。TFTで働く前は、日産自動車でマーケティングの仕事をしていました。いろんな業種の広告を、毎週5本くらい調査していました。約2千人に広告を見てもらい、印象や、買いたいかどうかを尋ねるんです」
「広告には商品のいいところを詰め込みたくなるのですが、とことんメッセージ性をそぎ落としたものしか伝わらないんだと、その時に学びました」
――それで、シンプルなおにぎりなんですね。一般の人はSNSで写真を投稿するだけで、お金は企業が寄付するという手法もユニークです。
「寄付を呼びかけると、どうしても『助けてください』という悲壮感が漂います。続けて関わってもらうには、むしろ楽しみがあった方がいいと思いました。写真を見ると、みなさんすごく遊んでいますよね。おにぎりで顔をつくったり、動物の形にしたり。みそ汁やお好み焼きだと、なかなかここまで遊べません」
「楽しくゲーム感覚で広げるという点で、『extreme ironing』という活動も参考にしました。突拍子もない場所でアイロン台を広げてアイロンをかける様子を投稿し合って楽しむ活動です」
――去年と比べて投稿が大幅に増えたのはなぜですか。
「昨年は特設サイトからしか投稿できませんでしたが、今年はSNSで投稿できるようにしたことが大きいです。投稿の半数近くがインスタグラム経由です。昨年は参加者の半分以上が10~20代でしたが、今年は昼時に凝った料理の写真を投稿する人が多く、主婦の方にも広がったとみています」
「おにぎりアクションの写真を投稿すると『いいね』が増えるらしくて、参加者同士で互いにコメントし合ったり、毎日のように投稿したりする方もいます」
――アクションが始まる時点では、投稿およそ1万5千件分の協賛金を集めたとのことでした。昨年程度の投稿数であれば十分な額ですが、投稿が伸びたので足りなくなるのではないかと、見ている私もヒヤヒヤしました。
「想定外の伸びでした。アクションが始まってから追加で協賛をお願いしたり、既にお金を出してくれている企業に増額をお願いしたりしました。11月8日時点で協賛金は投稿5万件分に増え、今後も増える可能性があります」
――アクションは11月30日まで続くので、投稿の方もまだ伸びそうですね。
「協賛金で足りない分をまかなうため、インターネットのクラウドファンディング(CF)で、一般の人からも寄付金を集めています(11月16日まで)。写真投稿だけで寄付できるのが売りのアクションなので、CFをするかどうかは大変悩みました」
「でもこの勢いをなんとか継続させて、できるだけ多くの給食を届けることが一番大事だと考え、お願いすることにしました。7日時点で113万円が集まっています。集まったお金はすべてこのアクションのための寄付金として使わせていただきます」
東京・乃木坂のマンションの一室にあるTFTの事務所で話は聞きました。グローバル企業からNPOへと転職した大宮さん。TFTに最初に関わったのは20代半ばの頃、プロボノ(仕事の技能や知識を生かしてNPOを支えるボランティア)としてお弁当箱をつくる仕事に携わった時でした。30歳で出産。育休中に「大事な子どもを週80時間預けながら何のために働くのか」と真剣に考えていたら、偶然TFTの募集があり、そのまま育休から戻らず転職したそうです。
TFTは、先進国の飽食による肥満・生活習慣病と、開発途上国の飢餓・貧困とを同時に解決する取り組みとして、2007年に始まりました。日本など先進国でヘルシーな社食メニューや商品を購入すると、20円が飢餓に苦しむ国(フィリピンとアフリカ5カ国)の子どもたちの給食費にあてられる仕組みです。現在日本国内の協力企業・団体は650社。
おにぎりの写真を投稿する時は、「#onigiriaction」というハッシュタグをつけて投稿します。ハッシュタグつきの投稿数を集計するサービス「タグボード」を提供するタグボード・ジャパンによると、通常こうしたキャンペーンは1カ月2千~3千件が一般的で、多くても1万件に届かないものがほとんどだそうです。同社の担当者も驚いていました。
給食支援以外にもユニークな活動があります。ゴルフ・ダイジェスト・オンラインの協力を得た取り組みでは、プレーヤーがゴルフでバーディーなど好成績をあげた際にアプリに記録をすると、数十円が寄付されて開発途上国での菜園運営や農業訓練の費用にあてられるそうです。
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