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グルメ

てんや、奇抜「肉天丼」に秘めた戦略 社長「うまいならそれでいけ」

てんやの「肉天丼シリーズ」=テンコーポレーション提供
てんやの「肉天丼シリーズ」=テンコーポレーション提供

目次

 ローストビーフ天丼、Wハンバーグ天丼・・・。天丼チェーン「てんや」が、さまざまな肉料理をアレンジした「肉天丼シリーズ」を次々と売り出しています。魚介類や野菜が定番なはずの天丼に、からりと揚がった肉料理がのっている姿は、かなりのインパクト。どのような狙いで商品開発をしているのか、社長に聞きました。

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独創的なメニューずらり

 「肉天丼シリーズ」は一年中、商品を入れ替えながら販売されています。昨年からの代表的なメニューを見ると

・牛タンとろろ天丼
・ダブルチーズ鶏天丼
・Wハンバーグ天丼
・ローストビーフ天丼
・ポークロース生姜だれ天丼

 と、独創性あふれたメニューが並びます。

10月まで販売されていた「黒マヨ鶏天丼」
10月まで販売されていた「黒マヨ鶏天丼」

 10月26日まで販売されていた肉天丼シリーズの「黒マヨ鶏天丼」を、都内の店舗で食べてみました。鶏天2枚や野菜の天ぷらが盛られた天丼に、黒酢ベースのタレとマヨネーズがたっぷり。家庭料理でも外食でも、かつて見たことの無いビジュアルです。

 しかし食べてみると、さっくりした鶏天にマヨ味がよく合い、ご飯がすすみます。「普通の天丼」のイメージを忘れてみると、「これはこれであり」という気持ちになってきます。

Wハンバーグ天丼とローストビーフ天丼
Wハンバーグ天丼とローストビーフ天丼

牛タンや豚肉の生姜焼きも

 てんやを運営するテンコーポレーションの用松(もちまつ)靖弘社長は「肉天丼は覇道の商品。王道の天丼とは位置づけが違う。開発部門には自由にやっていいと言っている」と話します。

 ターゲットは若い男性客。その背景には「明らかに若い人が、天ぷらを食べなくなっている」という危機感があるといいます。

 てんやは1989年創業。500円前後の手頃なワンコイン天丼を武器に、国内外193店舗まで拡大してきました。2015年の売上高は、前年比12億円増の129億円。

 成長の原動力となったのは、景気回復で活発に外食をするようになったシニア世代です。てんやの来店客は50代以上が半数を占め、そのうち60代以上が3割前後にのぼります。

 中高年からの人気は強みであり、将来への不安材料でもあるといいます。用松社長は「家庭でも、調理に油を使う天ぷらが作られなくなっている。そうなると外食でも天丼店が選択肢に入ってこない。王道ではなくても、今の若者に食べてもらえる商品を生み出していく必要がある」。

テンコーポレーションの用松靖弘社長=瀬戸口翼撮影
テンコーポレーションの用松靖弘社長=瀬戸口翼撮影

揚げてみないと分からない

 ただメニュー開発には、特有の難しさもあるといいます。

 同社の研修センター(東京・台東区)のキッチンには、店舗と同じ独自開発したベルトコンベヤー式のオートフライヤー(天ぷら自動揚げ機械)がそなえてありました。

 衣を絡めた鶏肉を網に乗せると、ぱちぱちと音を立てて自動的に油の中へ入っていきます。揚げ時間は約2分。きれいに「華が咲いた」状態の鶏天が機械の逆側から出てきました。

てんやのオートフライヤー。からりと揚がるよう工夫されている
てんやのオートフライヤー。からりと揚がるよう工夫されている
約2分で天ぷらができあがる
約2分で天ぷらができあがる

 オートフライヤーの揚げ時間や油の温度は、常に一定に保たれています。肉類を揚げてみて、おいしいかどうかはやってみないと分かりません。

 「少し意外性はあるんだけど、おいしくないと駄目。その落とし込みが難しい」と用松社長。

 昨年春に発売した「牛タンとろろ天丼」は、天丼にとって未知の食材である牛タン(牛の舌)の処理に苦心しました。

 先端6センチは揚げても堅くて使えないことがわかり、除去。さらに「薄すぎるとかみ切れるけど、味がしない。厚くすると味はあるけど、かみ切れない」(開発担当者)。試作を重ねた結果、厚さ3ミリが揚げてもっともおいしいと突き止めました。

うまいなら、それでいけ

 今年4月に発売した「Wハンバーグ天丼」は、ハンバーグ天2枚に添える半熟玉子まで天ぷらに。半熟玉子天は2011年にも商品化しましたが、油の中で破裂したり、揚げた後に割れてしまったり。魚介類や野菜ではありえない苦労が続きました。

 そのため今回は、代わりに卵焼きやチーズの天ぷらをのせることも検討しましたが、用松社長の「半熟玉子が一番うまいんやろ。それなら、それでいけ」の一言で再登場が決まりました。揚げる際に割れないコツをマニュアル化して、店舗での大量販売を乗り切ったといいます。

てんやの店舗=東京都台東区
てんやの店舗=東京都台東区

チーズやキムチは失敗

 一方、ボツになったアイデアも多数あります。

 今年、用松社長が社内で一押しした食材は煮込みやカレーにも使われる「牛すじ肉」。しかし、実際に揚げてみると、食感が堅く商品化できませんでした。

 プロセスチーズは何回試作しても、油の中で溶けて衣だけに。キムチも揚げてみましたが、衣のタネへのにおい移りなどの課題が解決できませんでした。

 現在、肉天丼の販売数はメニュー全体の1割以下。ですが用松社長は、次世代に天ぷらの食文化をつなぐ重要な商品だと強調します。定食など別の形に切り替える予定もないそうで、「一杯の丼の中で工夫をし、磨き上げることで独自の魅力を出していきたい」と話しています。

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