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文春砲より過激かも?「月刊住職」 編集長のぶれないジャーナリズム
「週刊文春超えの神見出し」「攻めすぎ」などとネットで話題になっている寺院住職向け専門誌「月刊住職」。檀家とのトラブルから、「ポケモンGOはお寺にとっていいものなのか」などの「時事問題」まで幅広く扱っています。雑誌は何を狙い、どんな風につくられているのでしょうか。編集長で現役住職の矢澤澄道さん(68)に聞きました。
月刊住職を手に取ると、一般週刊誌のような見出しに釘付けになります。
「婿養子住職が罷免(ひめん)されたのは人権問題か」「お寺が業者を訴えた波紋」――。お寺の身内トラブルを、センセーショナルな見出しで大きく取り上げます。「あらあら、お坊さんなのに」と思うような記事が少なくありません。お寺の評判が悪くなりそうですが……。
「そういう心配は全くないんですよ。一般社会に向けて書いているんじゃなくて、お坊さんが読むことが前提なんです。一般の人がどう思うかなんて全然気にしないから、書くべきことを書けるんです。一見恥ずかしいようなお寺のトラブルだって、住職にとっては『転ばぬ先の杖』として学べる教材になります。仏教を広める住職のための実用実務誌です」
とはいえ、ネットで話題になったり、新聞広告を載せたりしているということは、一般の人が購入することもあります。それはありがたくないのでしょうか。
「いえ、とってもうれしいです。ネットを見て、編集部も喜んでいました。いただいたご意見が企画につながったこともあります。一般の方にお坊さんのことを知ってもらい、一般の方からご指摘をいただくことで、切磋琢磨(せっさたくま)してよりよい社会がつくれるのでは」
雑誌は約200ページ。地方の小さなお寺の話題が掲載されたり、各地のお寺の取り組みをまとめたり、情報をキャッチすることすら難しいようなネタが満載です。編集部はどのような態勢なのでしょうか。
「記者は4人。特別な取材網はありません。新聞やネットをチェックしたり、読者から情報提供をいただいたり、いろいろです。いざ取材をしようとしても、トラブルなどの場合はだいたいお寺側には拒否されます。それでも、ガチャンと切られる覚悟でまず電話をする。そして記者が現場に行って、お寺の近くの酒屋さんとかお米屋さんとかで聞き込みをして、檀家(だんか)を探すんです。そうやって、裏付けをとります。誰でもできる取材ですよ」
矢澤さんは1974年の創刊時から、常に編集の中心となっています。お寺の住職の長男で、お寺を継ぐ前に知りたい情報を「取材」したことが雑誌のきっかけだったそうです。
「びっくりしたんだけど、お寺によって住職がやってることって全然違うんですよね。何時に起きて、何時に寝るか。お勤めをするか、どんな本を読むか、どんな思想を持っているか。そして、住職の手腕によって、お寺の経営が全く異なることを肌身で感じました。『いい住職とは何か』をみんなに発表したら喜ばれるんじゃないかって思ったんです」
創刊号から取り上げるテーマの骨格は変わっていません。お寺がらみの事件や訴訟トラブル、課税問題や法律相談、新興宗教の情報などが掲載されています。
その一方で、世の中にはお寺と縁遠い人が増えました。最近も、その傾向が法事などの時にお坊さんをネットで手配する「お坊さん便」という形で現れました。雑誌では、「僧侶を派遣従業員のごとく扱っている」などと反発しました。
「ここ数十年、お坊さんへの尊厳の念のようなものが、ぽっかり抜けてしまっています。菩提(ぼだい)寺を持たない人も6割ほどにのぼります。そういう人たちが『お布施が高い』とか『墓じまいだ』とか大きな声で言っているんでしょうね。私には、人々が神聖なものとしてきた葬儀や埋葬を、そんな言葉で表現することに、非常に違和感があるのです。だから、お坊さんに向かって、『軽々しくそんな言葉を使うべきではない』『そういう活動に便乗すべきではない』ということを訴えているのです」
とはいえ、そうした新しいサービスには一定のニーズがあることも事実。やはりお寺が変わるべき時にきているのではないでしょうか。
「お寺の収入というのは、檀家さんからいただくお布施です。信仰の拠点である寺院を維持するために頼れるのはお布施だけなのに、日本のお寺が檀家さんからいただくお金はとても少ないんです。総務省の『家計調査』には、冠婚葬祭に関する宗教費の支出の統計もあり、一般世帯は年間4万円程度です。全消費の1.4%に当たり、世界的にもきわめて低水準で、実は日本のお寺はお金がかからないところなのです」
「うちのお寺も、檀家さんからいただいているのは年間6千円。みなさんの暮らしぶりを知っているので、『1万円にしてください』とは言えません。その分、何十年かに一度の葬儀の時に、数十万円というお布施をいただくんです。そのために、遺族にみんなで『香典』を包むという相互扶助システムがあります。その営みを、これからも継承してほしいものです」
矢澤さんが注目しているのは、若いお坊さんたちの取り組みです。カフェやこども食堂を運営し、コンサートなどのイベントも盛ん。近年、お坊さんのさまざまな活動が注目されるようになったといいます。
「阪神大震災と東日本大震災という2度の災害を経て、檀家以外に向けて活動するお坊さんがとても増えました。災害時のボランティアの経験が、お坊さんを外に向かわせるようになったんですね。彼らは布教というほど堅苦しくない、肩の力が抜けた形で仏さまの教えを広めています。『お寺にいるお坊さん』というイメージが、『友だちの中にお坊さんがいる』という形に変わってきているんです。こうした活動は、これからの住職にどうしても必要でしょうね」
最新の10月号では、「僧侶によるインターネット相談」を紹介し、「現代日本の僧侶に要請される一つの布教の場であることは間違いなさそうだ」と結んでいます。
「世の中はめまぐるしく変わっています。お坊さんも社会になじんだ形で人々と関わらなければいけません。そのための情報を提供するのが、私たちの役割です」
この記事は10月22日朝日新聞夕刊(一部地域23日朝刊)ココハツ面と連動して配信しました。
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