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稀勢の里、“騒がれない”来場所がチャンス? 「存分に開き直れ!」
大関・豪栄道が初優勝した大相撲秋場所から一週間。「綱とり」を狙えた大関・稀勢の里は10勝5敗で、横綱への道が遠のく結果に。毎場所、毎場所「今度こそ」と思わせるだけに、落胆の深さも大きい稀勢の里。なぜ、成績がふるわなかったのか? これからも期待していいのか? 約60年、相撲を見続ける元NHKアナウンサーの杉山邦博さん(85)は「蚊帳の外に置かれた立場で迎える来場所にいちるの期待を持っている」と語ります。
春場所(3月)と夏場所(5月)で13勝。名古屋場所(7月)では12勝と、3場所連続で優勝に次ぐ成績だった稀勢の里。秋場所前には日本人横綱登場への期待がかつてないほど高まっていました。
番付発表の時には、稀勢の里は「いつも(白星が)1番足りない状態で終わっている。気持ちを引き締めていきたい」と綱とりに意欲を見せていました。
さらに追い風になったのは、歴代最多の37回の優勝を記録している横綱・白鵬が休場したこと。名古屋場所後の横綱審議委員会では、守屋秀繁委員長(千葉大名誉教授)が「優勝しないと推薦しにくい」と話しました。つまり初優勝さえすれば「綱とり」と、舞台は整ったと思われていました。
しかし、稀勢の里は初日からつまずいてしまいます。強引な攻めで墓穴を掘り、隠岐の海に敗北。3日目にも敗れて、優勝争いから後退しました。
11日目には優勝した豪栄道と対戦。優位に取り組みを進めるも、一瞬の隙をつかれて敗れました。これで綱とりはほぼ絶望的に。緊張が切れてしまったのか、日馬富士と鶴竜の両横綱にも連敗し、10勝5敗で秋場所を終えました。
秋場所後の横綱審議委員会では、守屋委員長は「振り出しに戻る、ということになるでしょう」と話しました。
なぜ、土壇場で勝てなかったのか。大相撲を約60年、見続ける元NHKアナウンサーの杉山邦博さんに聞きました。
――秋場所の稀勢の里は10勝5敗でした。
期待が大きかっただけに、きわめて残念な場所でした。横綱の白鵬が休場し、綱とりの可能性は高いと見ていただけに、10勝どまりはあまりにも落胆せざるを得ない。豪栄道との一番は優位に進めていただけに猛省して欲しい。
――相撲内容で悪かった理由をあげるとなんですか?
きまじめすぎる性格、極度の緊張が災いして、それが相撲内容に悪く出てしまった。気負いと焦りが如実に出ていた。横綱レベルの実力は自他ともに認めるものだが、この欠点をクリアできないものだから、イライラが続く場所だった。それがファンの失望につながった。
勝ちたい勝ちたいという焦りで腰高になり、そこを相手につかれていた。今場所は立ち合いが甘く、相手の圧力に屈して後手にまわってしまった。見ている限りでは、踏み込みが仕切り線を越えていた一番がなかった。もう半歩でも踏み出せば、体格の良さも生きるのだが…。
――やはり精神的なものが原因ですか?
勝とう勝とうとするから腰が上がってくる。負けないと思っていれば、腰もぐっと落ちるんですよ。もっと我慢強く、負けないぞという思いでやらないといけない。
――綱とりは、まだ期待してもいいんですか?
横綱級の実力を持っているのは間違いない。あの白鵬が一番いやなのが稀勢の里。白鵬に土をつける実績がある。(稀勢の里への期待は)まだまだ捨てきれない。まだ見限るべきではない。
――11月からは九州場所です。
九州では豪栄道に最大限の期待がかかるなど他の力士が注目されるのは間違いない。(稀勢の里は)いわゆる蚊帳の外に置かれかねない。ただ、そういう立場で迎える場所にいちるの期待を持っている。騒がれない場所で真価を発揮できるかに注目する。
(私は)それができると信じている。何年も稀勢の里の両肩には綱への重い期待が乗っていて、その重圧に耐えかねていた。存分に開き直って欲しい。4大関の中で優勝していないのは稀勢の里だけ。悔しさをばねにどう立ち向かっていくか。
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