連載
#1 夜廻り猫
兄も私も人を殺したことはなかった…「泣ける猫マンガ」が描く戦争
「あの時、兄も私も人を殺したことはなかった…」。心で泣いている人や動物たちの話を、猫の遠藤平蔵が聞く、ツイッターで人気となったマンガ「夜廻(まわ)り猫」。きょうは8月の夜明け、戦争を経験したある弟のもとを、遠藤が訪ねました。
一人の老人が兄の思い出を語ります。
老人が話すのは兄の習字の真似をしていたら「名人」とほめられたこと。
そんな兄は初任給で半紙を買ってくれました。
昭和20年、兄は25歳で中国で死に、老人は台湾から生きて帰りました。
「名人」と言われた時を思い返し「あの時、兄も私も人を殺したことはなかった」と話す老人。
「後を頼むと言うしかない」と言いながら老人の姿は見えなくなっていきます。
夜廻り猫を執筆する深谷かほるさんは、実際に戦地で腕を失った方からお話を聞いたことで、「自身の考える戦争の問題」を創作で描いたそうです。
「『自分が殺されるかもしれない』ことを問題にするなら、日本へ帰って来られれば解決したかのようですが、『誰かを殺させられた』ことの方が、ずっと背負わされ続ける問題なのではないかと感じました」と話しています。
8月15日は終戦の日。
全国戦没者追悼式が日本武道館(東京都千代田区)で開かれ、天皇、皇后両陛下が臨席して約310万人の戦没者を悼みました。
戦争体験をした人がどんどん減っていく今、語り継ぐことがますます大切になっています。
102歳の元陸軍兵は、「互いに憎しみもない人間同士が殺し合うのが戦争。異常な世界ですよ」と戦争体験を振り返り、「戦争の記憶を残すことは、その惨めさや野蛮さを知っている私たちの役目だと思っています」と語っています。
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かほる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。昨年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始め、6月30日に単行本を発売。自身も愛猫家で、黒猫のマリとともに暮らす。
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