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これ全部、陶芸!ドット絵のカクカク感を再現した作者の“ねじれ感”

カクカクしたファミコンのドット絵のようで、じつは3次元の立体。しかも素材は陶という想像の斜め上をいく作品たち。ネットでも驚きの声をもって迎えられた「ドット絵風陶芸」ですが、制作方法は、手びねり・削りだし…など「超アナログ」です。ねじれ感がはんぱない作品への思いを聞きました。

しょうゆ差し、卵かけご飯をドット絵風の陶芸で表現した作品
しょうゆ差し、卵かけご飯をドット絵風の陶芸で表現した作品 出典: Low pixel CG 「思い出ごはん(TKG)」 2014 陶土・丼・箸 (スペース大原「いつかの風景」)

目次

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 カクカクしたファミコンのドット絵のようで、じつは3次元の立体。しかも素材は陶という想像の斜め上をいく作品たち。ネットでも驚きの声をもって迎えられた「ドット絵風陶芸」ですが、制作方法は手びねり・削りだし…など「超アナログ」です。ねじれ感がはんぱない作品への思いを聞きました。

2013年の作品「ホーローケトル」。外側だけでなく、内側までしっかりドット絵風に刻まれている=大阪市生野区、西村悠輔撮影
2013年の作品「ホーローケトル」。外側だけでなく、内側までしっかりドット絵風に刻まれている=大阪市生野区、西村悠輔撮影
【ツイッターなどの反応】
「これはちょっとほしい・・」
「リアルマインクラフトすごい」
「生で見たいし触ってみたい」
「発想がすごい。パッと見レゴでできてるみたい」

7月10日配信、朝日新聞デジタルの記事

きっかけはマリオ

 作者は「デジタル陶芸家」の異名をもつ増田敏也さん(39)。小学生だった1985年頃、ファミコンのスーパーマリオブラザーズにはまって以来、「あの世界を立体で見たい」という情熱をもちつづけ、独特の作風を生み出したといいます。

 ファミコン世代ど真ん中、38歳の記者も作品を一目見てひきこまれました。

「水辺のセイブツ」と題した作品。「静物のシャワーヘッドに、とぐろを巻いた蛇(生物)のイメージを重ねました」=大阪市生野区、西村悠輔撮影
「水辺のセイブツ」と題した作品。「静物のシャワーヘッドに、とぐろを巻いた蛇(生物)のイメージを重ねました」=大阪市生野区、西村悠輔撮影

制作方法は「超アナログ」

 このドット感、どうやって出すのでしょう。じつはパソコンや機械は一切使っていません。

 まず方眼紙で作った型紙をものさしに、平たくのばした粘土を切り出します。それを積み重ねてから細い金属板などを当て、ナイフで削っていく「超アナログ」な手法です。手びねりで全体を形作ってから、削り出すこともあるそうです。

 着色も下書きなしのフリーハンド。ガラス質になる釉薬はかけず、つや消しにしています。増田さんは「CGのようなデジタル感と、実在する焼き物という真逆のものが合わさった時に起きるイメージのギャップを感じてほしい」と話します。

方眼紙をくりぬいた型。くびれのある円筒形なら、大小を何層も組み合わせて表現する
方眼紙をくりぬいた型。くびれのある円筒形なら、大小を何層も組み合わせて表現する

ニューヨーカーもびっくり

 実際に触らせてもらうと、素焼きのようなザラっとした質感で、土の温かみがあります。今年3月、米ニューヨークでアートフェアに出展したところ、こんな反応が多かったといいます。

見学者「これ3Dプリンターで作ったんだろ?」
増田さん「いいえ、全部ハンドメイドです」
見学者「えーっ、信じられない!!」


作者・増田敏也さんに聞きました

「ホーローケトル」をもつ増田敏也さん。「手元を離れて海外に行った作品も多いです」と話す=大阪市生野区、西村悠輔撮影
「ホーローケトル」をもつ増田敏也さん。「手元を離れて海外に行った作品も多いです」と話す=大阪市生野区、西村悠輔撮影

――制作にはどのくらい時間がかかりますか

 美大や高校の非常勤講師をしながら実家の中華料理屋も手伝っているため、なかなか時間が取れないのですが、サイズが大きいと成形に1カ月、着色に1カ月、乾燥・焼きを含め、実質3カ月ぐらいです。

――作品の大きさはどう決めているのですか

 基本的に身の回りにあるものがテーマなので、ほぼ実物大です。鑑賞者それぞれの記憶につながってほしいからです。

床に転がる銘酒「久保田」を題材にした作品
床に転がる銘酒「久保田」を題材にした作品 出典:Low pixel CG 「宴のあと 2」 2013 陶土 (スペース大原「いつかの風景」)

「マインクラフトより先です」

――この作風になったのはいつ頃ですか

 もともと芸大では金属工芸専攻で、焼き物を発表し始めたのは2003年からです。最初はワイヤ-フレームのCGを陶で表現する作品を作っていました。今のピクセル風の制作を始めたのは、2007年の初夏からです。

 今回、ネットのコメントでは「(人気ゲーム)マインクラフトのパクりだ」なんて言われていましたけど、マインクラフトやったことないですし、僕の方がずっと先ですから(笑)

フォークリフトをワイヤ-フレームで表現した初期の作品
フォークリフトをワイヤ-フレームで表現した初期の作品 出典:Anachro CG 「Fork Lift」 2006 陶土・ガラス板 (増田敏也さん提供)
お気に入りだったニューバランスのスニーカー。「靴の裏、かかとの減り具合まで表現しました」
お気に入りだったニューバランスのスニーカー。「靴の裏、かかとの減り具合まで表現しました」 出典:Low pixel CG 「self portrait」 2012 陶土 (増田敏也さん提供)

ドット感の「ぬくもり」表現

――これまで手がけた作品の数と、主なテーマは何ですか

 数えたら、140点くらいありました。一つ目は日常にある何げないモノを表現した作品、次に原型を崩したり、伸ばしたりする「バグる」シリーズ。三つ目は、国宝や重要文化財の陶芸の名作をもとにしたオマージュ作品です。

 「記憶」を残すのがテーマで、履き潰したスニーカーを表現したり、ニュースの出来事から発想したりすることもあります。昔のドット感がもつ「ぬくもり」的なものは、僕らファミコン世代にしかつくれないと思っています。

「超絶技巧」の陶芸で知られる初代・宮川香山のオマージュ。つぼにつく人形をRPG風のキャラに置き換えた。「元ネタを知ってる人なら、笑ってもらえるはず」
「超絶技巧」の陶芸で知られる初代・宮川香山のオマージュ。つぼにつく人形をRPG風のキャラに置き換えた。「元ネタを知ってる人なら、笑ってもらえるはず」 出典:Low pixel CG「オマージュ・勇者ニモンスター花瓶」 2014 陶土・アクリルボックス 40×40×40cm (増田敏也さん提供)
つぼが「バグった」イメージの作品
つぼが「バグった」イメージの作品 出典:Low pixel CG 「バグる・パノラマ -染付壺-」 2013 陶土 (増田敏也さん提供)

クソゲー好きだった

――どんな人に見てもらいたいですか

 しかめっ面で鑑賞するというより、美術に詳しくない人がつい足を止めて見たくなるビジュアルを心がけています。ターゲットは、自分の年齢上下10歳くらいの世代。あの解像度の低い画像が、生活の実体験にすり込まれている人がピンと来るようにしたい。

 海外では映画(2015年公開「ピクセル」)にもなりましたし、世界共通のイメージという気がしています。

――ちなみにハマっていたゲームは

 (ポリゴンで立体表現された)バーチャファイターには衝撃を受けてゲームセンターに通いましたし、マリオやドラクエにもめっちゃはまりました。でも俗にクソゲーと言われるような「マニアックマンション」や「たけしの挑戦状」が大好きでしたね。
 
 大阪人気質というか、二枚目の格好良さより、三枚目的な面白さが好きなので。今の作風にも通じるかもしれません。

拳銃が発砲されるまでの動きを表現した作品。アメリカの銃乱射事件から着想した
拳銃が発砲されるまでの動きを表現した作品。アメリカの銃乱射事件から着想した 出典:Low pixel CG 「死ぬか生きるか」 2016 陶土 (増田敏也さん提供)
素焼きで着色前の「拳銃」。弾丸やマガジンもすべてカクカク
素焼きで着色前の「拳銃」。弾丸やマガジンもすべてカクカク

生で作品を見たい方は…

 増田さんの作品は兵庫陶芸美術館に数点を展示中で、8月28日まで見られます。8月6日には、午後1時半から会場で出品作家によるトークイベント(日野田崇さん×増田敏也さん)もあります。

 ところでポットや器などの作品、実際に使えるのでしょうか? 増田さんはツイッターでこう答えています。

あ、僕の作品は鑑賞を目的としているので、形状が器だったりポットだったりしてても実際には道具として使用出来ません。
「陶器=使える」というイメージがありますが、あくまでデジタルをモチーフにしているので「デジタル=触れない視覚情報=使えない・鑑賞のみ」という意味があります。

「兵庫陶芸美術館」のウェブサイト

8月6日、トークイベントのお知らせ

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