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ソユーズ基地で見た!旧ソ連宇宙開発の悲しい歴史 がれきの下に…
日本人宇宙飛行士の大西卓哉さん(40)の乗るソユーズ宇宙船が、7月7日にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられました。順調に飛行し、国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在が始まっていますが、取材のため訪れた現地で、信じられない光景を目にしました。施設の屋根が壊れ鉄骨がむき出しになっているのです。ロケット打ち上げの最前線とも思えないこの風景……調べてみると、ロシアの宇宙開発の「悲しい歴史」が見えてきました。
打ち上げからさかのぼること3日。ロケットを発射場に運ぶ「ロールアウト」が公開されました。
午前7時からの搬出に合わせて、ソユーズロケットの組み立て施設の前で待っていました。そのとき何げなく視線を上に移すと何と建物の屋根が壊れているではありませんか。
鉄骨がむき出しになり、さびが浮かんでいる様子。「まさか」と思いましたが、一緒に搬出を待っていた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の職員も「……。壊れてますね」と目を丸くしています。
ただこの前日、公開された、大西さんらが施設内のロケットの前で撮った写真では、内部はピカピカとまではいきませんが、天井もしっかりしており、きれいに整備されている様子が分かります。では何なのでしょうか? 気になってJAXAやロシアの宇宙機関ロスコスモスの関係者に聞いてみました。
すると、壊れていたのはソユーズの組み立て施設ではなく、隣接する建物。しかも旧ソ連版スペースシャトル「ブラン」の組み立て施設だったということが判明しました。
ブラン(吹雪)は、旧ソ連が米国に対抗して開発しました。全長は約36メートル、幅24メートル。エネルギアという打ち上げロケットに背負わせて打ち上げ、周回軌道に投入されます。見た目もそっくり。
基地内の宇宙博物館のガイドに「なぜ似ているんですか」と聞くと、「60年代から開発していて、コンピューターはすべてソ連製。目的を達成するために最適な形を追求すれば似るのは仕方ない」と話が止まりません。
米版シャトルと同じように底部に黒い耐熱タイルがびっしりと貼られています。バイコヌール市歴史博物館のガイドは「赤くなっても熱くならない。暖炉に入れても素手で触れる」と話します。
ブランなどを撮影した写真集『バイコヌール宇宙基地の廃墟』(ラルフ・ミレーブス著、三才ブックス刊)によると、ブランの組み立てには、元々ソ連が開発してきた月探査用の「N1ロケット」用の施設が流用されたとのことで、建物の前に置いてあるのは、N1ロケット用の運搬装置だそうです。
ブランは1988年に無人で地球を2周して着陸に成功したのが唯一の打ち上げで、いよいよ有人飛行という矢先に、ソ連が崩壊し、費用がかかる計画は凍結されました。
そして、悲劇的な最後を迎えます。2002年5月、組み立て施設の天井が崩壊し、中で保管されてたブラン1号機は、めちゃめちゃに壊れました。直接の原因は例年にない降雨でたまった水の重みに耐えられなかったからですが、ロスコスモス関係者からは、元々突貫工事で作られた建物だった上、夏は50度、冬は零下30度に迫る厳しい寒暖差で傷みが激しく、計画凍結でメンテナンスの予算も下りなかったという背景も聞かれました。
ブランは、あの壊れた屋根の下で、今もがれきの下に埋まっているということです。
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