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中国の道士、ブログでアメリカ皮肉り大人気 萌えキャラで教え広める
中国版ツイッターの「微博」では、数百万、数千万のフォロワーを持つ巨大アカウントが生まれるなど、中国社会に大きな影響をおよぼしています。そんな「微博」に異色の宗教アカウントがあります。道教の「道士」である梁興揚さんは「メロメロキャンディ」と名付けたアメや、クマのぬいぐるみを抱いた写真を投稿。アメリカ政府に対しても「風水」の知識を使って「反論」し知名度を上げています。硬いイメージの宗教界で、なぜそんな活動しているのか、梁興揚さんに聞きました。
道教には出家する「全真」と、家で修行する在家の「正一」の二種類の道士がいます。梁興揚さんは出家の道士「全真道士」です。中国の名門校、雲南大学を卒業した梁さん。多くの卒業生が大企業などに就職する中、なぜ出家の道士になったのか。実は、「たまたま」でした。
2009年、梁さんは、在家の修行をするため、友人と一緒に陝西省の金仙観という有名な道観(道教の寺院)に遊びにいきます。ところが、道教の師匠に「出家」の予約をした別の青年と間違われ、よく分からないまま、出家の身になってしまいました。
「おかげで、敬虔(けいけん)な信者よりも客観的に宗教を見ることができました」と語る梁さん。このことが、後の「微博」道士の活動につながります。
梁さんは、ソーシャル上での拡散を狙い、「メロメロキャンディ」と呼ぶアメと、ぬいぐるみなどの小道具をよく使います。道士らしからぬ活動は、ネット上で「萌萌達」(萌えだ)と好意的に受け入れられています。フォローワー35万はけっして多くありませんが、現役道士のアカウントとして、独特の存在感を発揮しています。
萌えキャラについて、梁さんはこう語ります。
「萌えはあくまでもより親しみやすいための『入り口』。『萌え』だけでは長続きがしませんよ」
言葉の通り、梁さんは、ネタっぽい投稿だけでなく、普段から道教や伝統文化のことをコツコツ発信しています。
宗教に対してバランスの取れた発言を心がけてきた梁さん。自分のようなキャラがネット上で受け入れられているのは、それらの蓄積の結果だと考えています。
「微博」道士として梁さんの知名度を上げたのが「南海風水事件」でした。
2015年5月、アメリカのダニエル・ラッセル国務長官次官補が次のようなコメントを出しました。
「中国が南海での埋め立て行為は国際法の違反ではないが、東南アジア地域の風水を破壊することになります…」
アメリカ政府が「風水」を持ち出したことに対し、梁さんは「微博」でジョークをまじえて反論しました。
梁さんは「道教が専門としている『風水』については、道士として何か行動を起こさなければならないと思いました」と語ります。
もちろん、伝統的な宗教の社会では大変なこともいっぱいあります。
梁さんは道士になって、「迷信せず、明智明心(迷信は信じないで、知恵と心を磨く)」をモットーにしています。中国では、「迷信」とは占い、風水、手相、神や幽霊などを信じることを意味し、道教において道士が「迷信」をしないことを公言することは、職務放棄に近いインパクトがあります。
「同業の道士から批判も受けました。いっそ還俗したほうがいいと何度も考えました。でも弟子たちのことを考えて踏みとどまりました」。
梁さんは、支持者、特にフォロワーとの交流のおかげで、現在まで来られたと言います。
梁さんは道士でありながら、微博(中国版ツイッター)と微信(中国版ライン)を駆使しています。SNSを道教と伝統文化を伝えて、発展させるための重要な場と考えています。
一方、中国のインターネットには問題点もあると指摘します。
「中国のネットユーザーには今も自分の国に対して劣等感を持っている人が少なくない。外国が優れていて自国が間違っていると思い込み、自分たちの欠点をむやみに拡大し、他人の長所をむやみに称賛してしまう傾向があります」
「もちろん、中国にも欠点はあります。でも、理性的に、今の時代を認識しなければいけないのです」
梁さん自身、言論活動で地元の公安当局に「喝茶」(談話・教育)されたことがありますが、変わらず自分が正しいと思うことを発信しているそうです。
出家した梁さんですが、今も、日常生活の感覚を大事にしています。
「道教には国境がないが、道士には国籍があります。現実社会を一歩踏み出して、俯瞰することが大事ですが、最終的に現実生活に戻らなければいけません」
中国のSNS界で独自の地位を築いた梁さん。今日も、「メロメロキャンディ」を片手に、宗教とインターネットを結びつける活動をしています。
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