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「神に祈れ。日に5回は祈れ」生存者が聞いたダッカ襲撃犯の「肉声」

ダッカの襲撃現場を警備する警察官=ロイター
ダッカの襲撃現場を警備する警察官=ロイター

目次

 日本人7人を含む20人が犠牲になったバングラデシュ・ダッカで起きたレストラン襲撃事件。あの日、店内では何が起きていたのでしょうか。脱出した人々の地元メディアへの証言などから、犯行の状況が徐々に明らかになってきました。地元紙などの報道からわかった、当時の生々しい状況をまとめました。(朝日新聞国際報道部記者・今村優莉)

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「アッラーフ・アクバル」

 インディペンデント(電子版)によると、Hasnat Karimさんは事件のあった1日の夜、家族を連れて娘の誕生日を祝うためにレストランにいました。

 強い精神的ショックを受けた彼は「自分たちは乱暴に扱われなかった」とだけ答えたものの、父親には詳細を話していました。

 父親によると武装集団は自動小銃に爆弾、手製のなたをもって侵入。店内の人を二つのグループに分け、外国人を上の階に連れて行き、バングラデシュ人をテーブルにとどまらせました。店は湖に面しており、高い壁に囲まれていますが、犯人の侵入による大混乱の中で、多くの客は逃げました。

 脱出に成功したある客がインドのABP Newsに語ったところによると、武装集団は入り口にいた、たった1人の警備員の前を通りながら、こう叫んでいたそうです。

「アッラーフ・アクバル!!」(神は偉大なり)

 この客は「私はすぐに他の人たちに警告した。何人かが裏口から逃げられたが、残りは捕まってしまった」と話しました。また「武装集団は残った人々を一列に並ばせた。従業員が20~25人、客が20~25人くらいいた。その後やつらは照明と防犯カメラのスイッチを切った」と話しました。

ダッカで起きた襲撃事件の現場となったレストラン=ロイター
ダッカで起きた襲撃事件の現場となったレストラン=ロイター

「お前はイスラム教徒か」「ならば、行け」

 武装集団は襲撃の際、外国人ら異教徒を標的にしていたとみられます。ダッカ・トリビューン電子版は男性従業員のAshrafさんが、武装集団に銃を胸に突きつけられた時のやりとりを載せています。

「私は従業員で貧しい者です、助けて下さい」
「お前はイスラム教徒か」
「そうです」
「ならば、行け」

 彼は全力で走り、店の外の芝生を駆け抜け、フェンスをよじ登って隣の駐車場に逃げました。その後、彼は、武装集団が銃や、刀や大なたを使って行った更なる悲劇を目撃します。

 テロリストたちは客に向かって爆弾を爆発させ、無差別に銃を発砲していきました。すぐに床に4、5人が倒れました。

ダッカの襲撃現場でバリケードをはる警察官=ロイター
ダッカの襲撃現場でバリケードをはる警察官=ロイター

「怖がらなくて良い」

 また同紙は、生存者のAlam(仮名)さんの生々しい話を伝えています。事件が起きた時、Alamさんは2人の同僚と、日本人客1人とともに店の事務所に逃げ込みましたが、武装集団に見つかってしまいました。

「怖がらなくて良い。我々はイスラム教徒は殺さない。我々はイスラム教徒ではない者と、イスラム世界を破壊している人間を殺すためにきた」

 殺されると覚悟していたAlamさんは、他のバングラデシュ人と事務所から出ました。しかし一緒に隠れていた日本人1人は残され、その直後に銃声が響きました。彼は凍り付きました。

 その後メーンダイニングに連れて行かれ、バングラデシュ人の店員と客と同様にテーブルの下に座らされました。

 そして、武装集団はそこで、悲鳴をあげて命乞いするほかの人々を、一人ずつ殺していきました。

 彼は、自分の服が、床にたまっていく血に濡れるのを感じることしか出来なかった、と振り返っています。その間どのくらい時間が経ったのか。彼は突撃ライフル、手投げ弾、なたやピストルなどの武器で全身を覆った武装集団の男の1人に携帯電話を取り上げられました。

ダッカの襲撃現場周辺を警備する警察官=ロイター
ダッカの襲撃現場周辺を警備する警察官=ロイター

「イスラム教徒ではない人間を殺す」

 彼らはAlamさんらに言いました。

「心配するな。我々がここに来たのは外国人とイスラム教徒じゃない人間を殺すためだ。神に祈れ。日に5回は祈れ」

 Alamさんら多くのバングラデシュ人は助かりましたが、武装集団は非イスラム教徒に容赦しませんでした。男たちは人質1人1人に対し、イスラム教の聖典コーランを暗唱するよう求め、1節か2節言えた人を解放し、出来なかった人を拷問したといいます。拷問には鋭い刃物が使われたとみられます。

 逆に、バングラデシュ人に対しては手荒な扱いをせず、食事も与えていたという目撃証言があります。イスラム教徒の女性に対しては特に丁寧に接していた、という報道もありました。

ダッカで起きた襲撃事件の犠牲者を悼むロウソクや花束=ロイター
ダッカで起きた襲撃事件の犠牲者を悼むロウソクや花束=ロイター

「どこから来たのか」

 20人の犠牲者のうち、日本人は7人、イタリア人が9人でした。テロリストたちは明らかに外国人を標的にしていたとみられますが、犠牲者のなかには3人のバングラデシュ人も含まれていました。その中に、自身は逃げて良いと言われたにも関わらず、一緒にいた友人2人を見捨てずに残り、犠牲になった青年がいました。

 彼の名前はFaraz Hossainさん(20)。米エモリー大のイスラム教徒の学生でした。当日は休暇で国内に戻っており、同じ大学の友人2人と食事をしていました。

 甥が、生き残った人に聞いた話(米ニューヨーク・タイムズ)によると、Hossainさんはヒジャブ(髪を覆うスカーフ)をまとった別の女性客とともに、武装集団から店を離れても良いと言われました。

 しかし、彼と同席していた女性友人2人は店を出ることを禁じられます。洋服を着ていたうえ、「どこから来たのか」との武装集団の問いにそれぞれ「インドと米国」と答えたためでした。

 そして彼は、それならばと自分も2人のそばにいることを選び、3人とも殺されました。

ダッカで起きた襲撃事件の現場周辺を警戒する兵士=ロイター
ダッカで起きた襲撃事件の現場周辺を警戒する兵士=ロイター

悲劇の中で生まれた「誇り」

 地元紙ダッカ・トリビューンは彼について「これ以上の悲劇はない」と報じました。

 そして「一夜の残虐行為が国中を悲しみに陥れている時、我々は彼のような青年がいたことを誇りにしなければならない。恥と衝撃に包まれている間も、本当のムスリムとは何なのか、示せたのだ」と書いています。

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