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「ワクワクする平和学習がしたい!」重たくない沖縄戦、高校生が企画
「重たくない暗くない」イベントで沖縄戦を考えたい。だから、戦争中の映像もない、戦争体験者も呼ばない。そんな企画が進んでいます。発案したのは、沖縄とは縁のなかった東京の男子高校生。「ワクワクするような平和学習って作れないの?」。彼のスイッチを入れたのは、ある女性の「リアルな体験」でした。(朝日新聞東京本社社会部記者・木村司)
イベントを開くのは、東大教育学部付属中等教育学校の中2~高校3年の有志12人。中心となっているのが石井純さん(18)です。
石井さんは、沖縄の文化をテーマにした高校1年の総合学習がきっかけで、初めて沖縄に渡りました。民泊先の女性は、母親が、1400人余りが犠牲になった疎開船対馬丸に乗る予定だったけれど、たまたま乗り遅れて助かったといい、「わたしが生きているのは奇跡なんだと思います」と口にしたそうです。
「70年近くも昔のことが突然、リアルなことに思えてきました」と石井さんは言います。
高校の卒論(卒業研究)のテーマを沖縄戦に決め、昨年末友人を誘って再び沖縄へ。ネットで調べて連絡をとった、ひめゆり学徒隊の生存者や、男子学徒隊だった大田昌秀元知事、沖縄戦研究者らに取材して回りました。
見えてきたのは、沖縄戦の体験が地元では伝えられている一方、沖縄を離れたとたん、見学して学べる場所も、手軽な本も、話を聞ける人もなく、触れることさえ難しい現実でした。それならば、自分で機会を作ろうと友人を誘って今回のイベントを企画。
タイトルは「小さき平和へのFLAG!沖縄戦の証言者に変わる学生イベント」。都内の中高生110人を参加者として募集し、沖縄戦と縁がなくても身近に考えられるようなきっかけづくりを目指します。
イベントでは、重く暗いイメージから離れるため戦争中の映像は使いません。戦争体験者も呼びません。一方的にメッセージを伝えるアプローチではなく、対話を重視したディスカッションをイベントのメインに位置づけています。
ディスカッションの相手は、修学旅行生の平和学習を手伝った経験のある沖縄の大学生です。年の離れたお年寄りではなく、年の近い若者と交流することで、戦争が過去のものではないことを、リアルに体験してもらいます。
戦争の映像は流しませんが、オリジナルの短編映画を放映します。映画の主人公は東京の高校生。ある日、自宅に見知らぬ同世代の少女が現れ、物語が動き出します。沖縄戦を身近に感じてもらうため、自分たちの延長にある存在を、あえて選びました。
この映画は、基地問題に揺れる沖縄の若者たちを描いた自主制作映画「人魚に会える日。」の監督で、慶応大2年、沖縄出身の仲村颯悟(りゅうご)さんが制作しています。
イベントの準備中、沖縄で20歳の女性が遺体で発見され、元米兵が逮捕される事件が起きました。一報を聞き、石井さんは、目にしたばかりの沖縄国際大の米軍ヘリの墜落現場を思い出したそうです。
基地が沖縄に極端に集中していて、事件や事故が数日に1回起きている。地元で聞いた話が、より切実なことに思えたそうです。
沖縄戦を考えるだけでも、とてもハードルが高い。米軍基地問題ならなおさら。ただ、沖縄戦があって、米軍がいて、今の基地問題が残された、と考えるようになった今は、こう思うそうです。「沖縄で何が起きているのか。事件を沖縄の大学生はどう受け止めているのか。もっと知って、考えたい」
最大の難関はイベントの資金調達。朝日新聞が運営するネットで寄付を募るクラウドファンディング「A-port」を活用し、14日まで広く協力を呼びかけています。参加者も募集中で、中高生限定の110人。詳しくはホームページ(http://016okinawa.jimdo.com/)へ。
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