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「家、ついて行ってイイですか?」について行ってみた ガチだった
テレビ東京のドキュメンタリー番組「家、ついて行ってイイですか?」。終電を逃した人に声をかけて、タクシー代を支払う代わりに家までついて行って、生活や人間模様、人生観を描く番組です。しかし、いきなり夜中にカメラを持って家の中に入れてくれる人って本当にいるんすか? ロケについて行って検証しました。
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テレビ東京のドキュメンタリー番組「家、ついて行ってイイですか?」。終電を逃した人に声をかけて、タクシー代を支払う代わりに家までついて行って、生活や人間模様、人生観を描く番組です。しかし、いきなり夜中にカメラを持って家の中に入れてくれる人って本当にいるんすか? ロケについて行って検証しました。
終電を逃したとき、知らない人に「タクシー代を払うから家までついて行っていいですか?」と言われたら、普通は断りますよね。
それが、家までついて行って〝素〟の生活を見せてもらうドキュメンタリーがあります。
テレビ東京の新番組「家、ついて行ってイイですか?」です。
いったい、どんな人がOKしてくれるのか。
ディレクターはどんな言葉で説得させるのか。
「家、ついて行ってイイですか?」について行ってみました。
「お疲れ様です。よろしくお願いします」
上野健ディレクター(30)と井水奈奈アシスタントディレクター(23)と合流。
ちょっとこわもての上野Dは、番組が始まった2年前から担当しているベテランDです。
一方、井水ADは黒髪で夜の街にはいなさそうな清楚(せいそ)な感じ。AD始めてまだ7カ月だそうです。
「ロケは2人一組で、男女ペアが多いです。女性の自宅にうかがうこともあるので」と上野D。
なるほど、確かに。
しかし、なんでまた蒲田駅なのでしょうか? 新宿や渋谷といったターミナル駅の方が終電を逃した人がつかまえやすいのでは? いまちょうど新歓コンパや歓迎会のシーズンだし。
「どこの駅を選ぶかはディレクターに任されています。僕は都心よりも郊外が好きですね。松戸とか柏とか、寝過ごした人が降りる駅。都心のターミナル駅だと『居たくて居る』という人が多いので。蒲田って、一癖ある、何か気になる特徴のある方がいそうだと思いません? じゃ始めますか」(上野D)
さっそく若い女性2人連れに上野Dが声かけ。
「あー、知ってるー。家に行く番組でしょ。うけるー」
飲み会帰りと言うことでテンション高めです。自宅のある駅を聞いたり、間取りを聞いたり、最近気になったことを聞いたり。
会話がそこそこ温まったところで「タクシー代を出しますので、家ついて行っていいですか?」と決まり文句を発射。
まあ、そうですよね。
その後、断られた人の映像として使う可能性があることを説明し、氏名と連絡先を書いてもらい放送可か不可かを記入してもらいました。
その後も、歩いているおばあちゃん、酔って騒いでいる若者、独りたたずんでいる女性と次々と声かけ。
全員、番組は知っているらしく珍しがって会話はしてくれます。中には「写メ撮っていいですか?」という若者も。
「番組が有名になって会話しやすくなったのはいいのですが、本当は番組を知らないっていう人がいいんです。その方がより素が出る」と上野D。
10人くらいに声をかけたら断られるポイントがわかりました。
家族がいる、会社に怒られる、部屋が汚い、部屋になにもない――。
それでも粘ると「映してもおもしろくないよ」。だいたい、こういう理由です。
難しい。
「この時間に駅を出てすぐにスマホをいじっていたり、きょろきょろしている人はだいたい寝過ごしたり、この先の電車がなくなったりした人です」と上野D。
案の定、駅前でずっとスマホをいじっていた女性(20)は、どうしてもトイレに行きたくて蒲田駅で降りてしまい、東神奈川駅までの電車がなくなってしまったとのこと。
聞くと、この春に地元福岡で就職し、現在は研修のため2週間上京しているのだとか。
なんだか新社会人っぽい物語がありそうな予感。
タクシーで帰るか、始発までどこかで時間をつぶすかで迷っていたそうで……
午前1時20分。
ようやく見つかりました。
タクシーに乗ってさっそく移動。乗車中も上野Dはずっと取材。約30分で東神奈川の小ぎれいなマンションに到着。料金は6400円でした。
「うーん。ウィークリーマンションだったのが難しかったですね。そもそも部屋にモノが少なくて。いろいろ聞きましたが、上京物語や新社会人になるにあたってのご両親への思いなど、その人の生き様を表すモノを見つけられませんでした」
せっかく家に入れても、そこはタレントとは違う市井の人々。
みながみな、しゃべり上手なわけではありません。
いきなりカメラの前で自分のことを赤裸々に語ってもらう。
そりゃ、なかなかハードルが高い。
これまで上野Dは2年間で2千人以上には声をかけたそうで、うち家まで入れたのは30人ほど。さらにオンエアされたのは15人くらいだとか。
それでも約40人いるディレクター陣の中では好成績だそうです。
その40人のディレクターが、各々でロケに出かけ、月に200班ほど出動しているんだとか。
7割は空振りで、断られ続けて朝を迎えそうです。
家までついて行ける打率は3割ほど。
足使ってるなあーと実感しました。
夜も深まったせいか、街には泥酔している若者、ナンパ待ちしている女子2人連れ、アフターと思われるカップル、夜のお仕事帰りのオネエサン、客引きのお兄さんなどなど。横浜は蒲田とは街の顔つきが違います。
酔っぱらった若者に「うち来ていいよ」「いっしょに飲もうよ」と絡まれたり、客引きのお兄さんは「あっちの方が人がいるよ」と親切に教えてもらったり。横浜は声かけるよりも、かけられることが多いような感じです。
「僕はありませんね。こんな顔なんで。ただ『取材してください』とか、『紹介してあげる』などといった申し出は基本的に断っています。やっぱり自分で見つけた方がおもしろいので」
ふむふむ。上野Dのテレビマンとしての矜持(きょうじ)が垣間見られます。
午前4時30分を回ると、だいぶ人も引けてきました。
「5時すぎると始発に乗ろうとカラオケから出てくる人もけっこういますが、今日はこの辺で終わりましょう」と上野D。
休憩なしで6時間近く歩き回って足はパンパン。
正直「やっと終わった」というのが実感です。
一晩で30人くらいと会話をして、家について行けたのは結局1人だけでした。
「人出次第ですね。今日は反応がよかったので、たくさん声をかけた方です。以前、金沢文庫駅に行ったときは全然人がいなくて、やっと見つけた1人に粘って粘って家に入れてもらったこともありました」
このロケを週3、4回はやっているそうです。
仕込みゼロ。100%ガチ。本当に地べたはいずり回ってネタを探している取材だと実感しました。
じゃあ解散ということになり、電車で帰るという上野Dに聞いてみました。
「いやー、嫌です嫌です。それに、これから局に戻って仕事しますから」
そう言い残して上野Dと井水ADは帰って行きました。
最後に「家、ついて行ってイイですか?」の演出を担当するテレビ東京・高橋弘樹プロデューサー(34)に聞きました。
◇
人が見たことがないものを見せるのがテレビの基本だと思っています。NHKスペシャルのようにアマゾンの秘境とかに行けたらいいんですけど、テレビ東京にはちょっと無理…。そこで、身の回りで秘境のように見た事ないものがないかなーと考えていたらあったのです。いきなり訪れる、赤裸々な他人の家の中です。
たまたま人妻のすっぴんを見たときです。
僕は独身アラサー男子なので、普段、すっぴんの女性を目にすることはありません。だから、見たこともないようなものを見たような新鮮さでした。
それで、最初は「人の家に行って人妻(すっぴん)を見る」という企画だったのですが、それだと興味の対象が興味本位でしかない。せっかく他人の家に入るのだから、家の中にあるモノから、その人の人生を探れるんじゃないかと。家にあるモノって生き様が凝縮されているじゃないですか。
某お台場のテレビ局で若い男女がオシャレな家で共同生活をしながら恋愛する番組がありますよね。複数のイケメンと美人がキラキラした生活する番組。あれって日常を最大限にショーアップした番組ですよね。「家、ついて行って」はその対極にある番組です。平凡で地味なフツーの人の生活を見る。その100%リアリティにこだわろうと。
「家、ついて行って」は、ほかのテレビ番組と真逆のつくり方を目指しました。
台本なし、アポなし、ナレーションなし、効果音なし、音楽もほとんどなし。だから、感情の誘導もできないし、ストーリーの補強もできない。例えば、悲しそうな場面は、「○○さんは悲しそうだ」とナレーションを入れられないので、泣いている様子や「悲しい」と言う様子を撮ってくるしかない。画面にリアリティしかない。
これまで約150人ほどの人生譚(たん)を放送してきました。
僕は「家、ついて行って」を100年後の人たちが見たとき「ああ、平成ってこんな時代だったのか」と感じられる作品として残したいです。柳田国男の「遠野物語」のように。座敷わらしが出てくることで有名な「遠野物語」は、岩手の遠野地方の民話を、脚色なく丁寧に聞き書きしました。あの本のおかげで僕たちは100年前の農村のフツーの人たちの生活や風習、考えていたことを知ることができます。
100年後の研究者が平成という時代を知ろうとしたとき、公の部分は新聞を読めばいいんだろうけど、市井の人がどんな家に住んで、何を持っていて、何を食べていて――といった生活スタイルや生き様、人生観は記録には残らない。だからこそ、「家、ついて行って」で記録していきたいですね。
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