感動
水野美紀さんが髪を切ったワケ 「日常の中でできる寄付、すてき」
切った髪を寄付する「ヘアドネーション」を知っていますか?
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切った髪を寄付する「ヘアドネーション」を知っていますか?
「『女の子みたい』といじめられても、8歳の少年が髪を切らなかった理由」。2015年6月ごろ、インターネット上で気になる記事を見つけました。読んでみると、その理由とは、切った髪を寄付する「ヘアドネーション」のためでした。私にもできるかも――。調べてみると、女優の水野美紀さんも寄付したことがわかり、お話を聞いてみることにしました。そして記者も挑戦してみました。
ヘアドネーションは、小児がんなどの病気やけがで、髪が少なくなったり生えなくなったりした子どものために、寄付された人毛でウィッグ(かつら)をつくり、無償で提供する活動です。1990年代にアメリカで普及し、日本ではNPO法人Japan Hair Donation&Charity(JHDAC=ジャーダック)が2009年9月に始めました。
実際に切った髪を寄付した女優の水野美紀さんに話を聞きました。
――水野さんが活動を知ったきっかけは?
いつも行っている代官山の美容室で寄付活動を始めたと聞いて、初めて知りました。お客さんの髪を切って寄付する様子を写真に撮って、フェイスブックなんかにアップしているのを見て、こんなふうに今日も寄付された方がいるんだなって思っていました。
――なぜ自分も寄付しようと思いましたか?
ちょうど長く伸ばしていた時期で、ドラマ「アイムホーム」(テレビ朝日系)の撮影前に、役柄に合わせて短くしてほしいと監督から言われて。せっかくだから寄付したいなと思って、美容室で測ってもらったら、寄付できるぎりぎりの長さだったので、お願いしました。髪なんてどうせ捨てちゃうものだから。役に立って再利用してもらえる、しかも、ウィッグが必要な子どもに無償で提供している団体に寄付すると聞いて、すてきな取り組みだし、髪の毛が足りていないと聞いていたので、少しでも役に立てたらと思いました。
――これまでに寄付活動をしたことはありますか?
ほんとにちょっとですけど。保健所から動物を保護して里親を捜している団体を見かけると、寄付したり、ペットシートを贈ったりしたことはあります。
――ヘアドネーションをして、周囲から反応はありましたか?
それまで周りにヘアドネーションをした人はいなかったけど、よく聞くようになりました。ネットとかでもよく見かけるようになったし、増えているんじゃないかなと思います。髪なんてほっといたら誰でも伸びるものだし、ただ伸びた髪を寄付するという、日常の中でできることなので。
――この活動に期待することは?
かつらって、うれしいじゃないですか。別に髪に困ってなくても、髪形を変えるのってわくわくするし。ウィッグって、仕事柄いろんなクオリティのものを手にするんですけど、人毛のウィッグって全然違うんですよ。扱いやすさとか、持ちが良かったり、抜けにくかったり、自然に見えたりとか。でもめちゃくちゃ高いんですね。だから、人毛の質のいいウィッグが、子どもたちにタダでたくさん届くようになったらいいなって。
特に女の子とか、やっぱり髪で遊んだり髪形を変えたりっていうので全然気分も違うと思うし。日々が華やかに楽しくなると思うし。どんどん、この活動が当たり前に広がっていって、人毛のウィッグが子どもたちにたくさん寄付されて、みんな1つのかつらだけじゃなくて、2~3種類の髪形のバリエーションとか、好きなヘアスタイルに切って使うとか、そんなふうに手渡っていったらいいなと思います。
――また髪を伸ばして切るときは寄付しますか?
しばらくは今のショートでいる予定だけど、また伸ばすなら、がんばってドネーションできるくらいまで伸ばして、寄付したいなと思います。
ヘアドネーションのことを知った時、私の髪は胸あたりまで伸びていました。そろそろ切ろうか悩んでいたので、「どうせ切るなら寄付してみようかな」と、挑戦してみることにしました。
寄付する髪は、31センチ以上の長さがあれば、くせ毛や白髪交じりでも可。パーマやカラーをしていても、極端なダメージがなければ寄付できます。全国に800店以上の賛同美容室があり、特典が受けられる店もありますが、切り方など条件を守れば、行きつけの美容室や自宅で切って郵送することもできます。
2016年3月。さらに腰近くまで伸びた長い髪。ばっさりと切るのには少し勇気がいります。子どものころから短い髪には慣れていますが、初めての美容室で切って、もし変になったり、気に入らなかったりしたらどうしよう――。
これまでの10年間、私は地元の福岡で、ずっと同じ美容師さんに切ってもらっていました。福岡市中央区今泉にある美容室「Lilu+(リルプラス)」のオーナースタイリスト吉山一誠さん(33)。いつも髪の質や癖、骨格、好みまでぴったり合う髪形にしてくれます。賛同美容室ではないけれど、事情を説明すると快く協力してくれることになりました。
吉山さんは、ヘアドネーションのことは知っていましたが、寄付用にカットするのは初めて。JHDACのHPには、美容師に見せる用に髪の切り方をまとめたページがあります。リンクを事前にメールで送り、確認してもらいました。私にとっては2年半ぶりの「ばっさり」。少し緊張。
まずは髪をブロッキングして束に分け、切り口になる所から1~2センチの部分をゴムでしっかり縛ります。毛先から31センチ。メジャーで測ってみると、かなり短くなることが分かりました。ショートよりもボブっぽい形にしたかったので、サイドの髪は長めに残してもらうことにしました。束ねた部分を切り落とし、残った髪は普段通りカット。久しぶりのボブヘアー。頭が軽く感じました。
JHDACのホームページで「ドネーションシート」をダウンロードし、住所などを記入。切った髪と同封して送ります。JHDACによると、長さが31センチに満たない場合はウィッグに使うことができません。でも、ヘアピースや毛髪見本用などとして売却し、その収益をウィッグの製作費用に充てることができるそうです。私の切ったサイドの髪も、少し短いですが一緒に送りました。
JHDACが提供するウィッグは、頭の採寸をし、ボランティアの美容師がひとりひとりに合った髪形にカットしてくれるのが魅力。世界に一つだけの、フルオーダーメイドの医療用ウィッグです。これまで94人の子どもに提供されました。
ウィッグ1体に必要な髪の毛は20~30人分。JHDACには毎日50~100人分の髪の毛が届きます。長さ別に仕分け、髪質や髪色を均一にする科学処理のため工場に送られます。この処理だけで半年~1年。頭の採寸をしてウィッグを製作するまでさらに50日ほどかかります。すべての事務や作業を、JHDAC事務局長の渡辺貴一さん(45)ら数人でやっており、人手が足りていません。ウィッグを申し込んでから提供まで2~3年かかる状態で、現在約90人の子どもたちが提供を待っています。
渡辺さんは「今は個人に依存した活動で、製作に時間と手間がかかります。髪の問題は非常に繊細で、なにかトラブルがあれば、待ち望んだウィッグなのに喜んでもらえません。ウィッグのカット経験が豊富な美容師は少なく、技術的に信頼できる美容師にしか頼めません。スムーズな提供のために組織化することが課題で、いまは企業や団体などの助けを借りられないか模索しています」と話します。
水野美紀さんの他にも、柴咲コウさんなど芸能人が寄付したことで話題になり、テレビ番組で取り上げられるなど、特に女性を中心に活動が知られるようになりました。渡辺さんは「ネットや口コミでどんどん広まっているけど、まだまだ。ちょっとしたはやりのような感じで、40代、50代の男性にはほとんど知られていません。例えば、会社で女性が長い髪を短く切ったら、50代の男性部長からは『失恋したのか』と聞かれるくらいでしょ。それが『あ、ドネーションしてきたの?』と気軽に聞けるくらい、当たり前のように広まっていったら、安定した活動ができるようになると思います」と期待しています。
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【水野美紀さんのプロフィール】
1974年6月28日生まれ。三重県四日市市出身。『踊る大捜査線』シリーズを始め多くのドラマや映画、CM、舞台に出演。他にも、演劇ユニット「プロペラ犬」の主宰を始め、バックブランド「THIRD FACTORY」プロデュースや執筆活動など多方面で活躍。1月からNHKの土曜ドラマ「逃げる女」に主演。4月からはフジテレビの月9ドラマ「ラヴソング」で、主演の福山雅治さん演じる神代広平を陰から支え、ひそかに思いを寄せる昔のバンド仲間、宍戸夏希(ししど・なつき)役を務める。
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