話題
新聞記事からナリチュー激減 お次は○○チュー? 紋切り型を考察
新聞記事でよく見かける「成り行きが注目される」という文章。「ナリチュー記事」と批判され、一時に比べ激減しました。その一方、根強く使われ続けている紋切り型の表現とは…。
話題
新聞記事でよく見かける「成り行きが注目される」という文章。「ナリチュー記事」と批判され、一時に比べ激減しました。その一方、根強く使われ続けている紋切り型の表現とは…。
新聞記事の締めの文句としてしばしば使われる「成り行きが注目される」という表現。何か言っているようで、実は何も中身がないことから「ナリチュー記事」と批判され、往時に比べ紙面で見かける機会も減りました。その一方、依然として高頻度で使われているのが「行方が注目される」という言葉です。ナリチューとユクチューを入り口に、新聞表現の紋切り型について考察してみました。
実際のところ、ナリチューはどの程度使われているのでしょうか。記事検索サービス「日経テレコン」で、読売・朝日・毎日・日経・産経の全国紙5紙を調べたところ、本文か見出しに「成り行き(成りゆき、なり行き、なりゆき)が注目される」が含まれる記事として、昨年末までに計572件がヒットしました。
読売(1986年~)、朝日(1985年~)、毎日(1987年~)、日経(1975年~)、産経(1992年~)と各紙の収録期間に差があるため、全紙がそろった92年9月以降のデータを元に順位を算出してみました。期間内の合計は418件です。
1位:毎日…151件
2位:読売…127件
3位:産経…65件
4位:朝日…57件
5位:日経…18件
ただし、収録規模は各紙まちまちですべての紙面がデータベースに反映されているわけではないので、この順位はあくまで参考値としてご理解ください。5紙全体の経年変化をみると、年間38件を記録した94年を除いて、90年代はほぼ10~20件台で推移。ピークは2000年の42件でした。以降は減少傾向に転じ、2008年からは1桁台に。ここ数年は2013年…6件、2014年…3件、2015年…4件と、「絶滅」の危機に瀕しています。
最古のナリチュー記事がいつのものなのかは、ハッキリしません。日経テレコンで明治から戦前にかけての記事を「成り行き 注目」で検索すると、日経の前身にあたる中外商業新報の1929年8月25日付夕刊1面「自作農創定の成り行き注目さる、緊縮の犠牲となるか、閣議で除外例容認か」という記事がヒットしました。
また、朝日新聞の電子縮刷版でも、1929年9月5日付夕刊1面「市の新財政案、相当の難色 堀切市長の運命にも関し、成り行き注目さる」という記事が見つかりました。随分以前から、新聞は成り行きに注目していたのですね。
ナリチューの減少は、2000年代以降のネットの台頭や、それに伴うマスメディア批判の高まりと軌を一にしています。ナリチューがやり玉に挙げられる機会が増えたことで、各紙とも紙面で使いづらくなった可能性が考えられます。
ジャーナリストの池上彰さんは、著書『池上彰の新聞勉強術』(2006年、ダイヤモンド社)で、《あまりによく使われたことがあるので、記者仲間では「ナリチュー」と言って馬鹿にされる表現です。「成り行きが注目される出来事だから記事にしているんだろう」「記事にする以上、今後の見通しについてプロとしての見方を明らかにしてみろ」「それができないから、こんな表現で逃げているんだろう」という批判を受けても仕方がないのです》とつづっています。
かつては猛威を振るったものの、批判を受け衰退したナリチュー。しかし、ここでダークホース「ユクチュー」の登場です。似たような常套句である「行方(ゆくえ)が注目される」についても、同様に日経テレコンで検索したところ、5紙合わせて3944件もの記事がヒットしました。ナリチューの実に7倍弱です。全紙が出そろった92年9月以降でみると、下記のような結果となりました。期間内の合計は3505件です。
毎日…1091件
読売…1055件
産経…618件
朝日…549件
日経…192件
例によってデータにムラがあるので単純比較はできませんが、順位はナリチューと一致しました。5紙全体で経年比較をしてみると、90年代中頃から3桁台に突入し、ピークは2003年の288件。その後やや減少したものの、直近3年も2013年…103件、2014年…127件、2015年…130件と、まだまだ現役バリバリです。
キャッチーな響きも相まって(?)非難の対象となり、紙面から追放されたナリチュー。その陰で、今なお一定の勢いを保っているユクチュー。これらの調査結果を踏まえ、政治ジャーナリストで元朝日新聞特別編集委員の星浩さん(60)に見解を聞きました。
――朝日のデスク時代にはナリチューに代表される「決まり文句追放運動」を実施したそうですね。
ええ。2000年代の初めぐらいですかね。そういう原稿が出てきた時は削っていました。年々、活字が大きくなって情報量が減っているなかで、ナリチューのような意味のないフレーズを使うのはもったいないですし、メディアとして不真面目だと思います。ワンパターンな決まり文句を使うと、思考法までワンパターンになってくる。ワンパターンを避けることで、発想にもオリジナリティーが出てくるのではないでしょうか。
――ほかに気になっている紋切り型表現は。
「先行きは不透明」という表現も多いですね。本当は「わかりません」というのが正確なんだけど、それをごまかすために「不透明」と言っている。その記者の目には不透明でも、ある人にとっては透明かもしれない。そもそも「わからないことは書かない」っていうのが、ジャーナリズムの原点ですから。
――わちゃー。「不透明」は便利な言葉なので、私も使ってしまったことがあるかもしれません。
とはいえ「言葉狩り」も良くありません。コラムや見通し原稿などでは避けた方がいいですが、締め切り時間ギリギリに突っ込まれてきた特ダネに「ナリチュー」や「不透明」が入っていたとしても、多少はやむを得ない部分もある。やわらかく改善していこう、ということです。
――「言葉狩り」という言葉がありましたが、ナリチューだけを無くしたところで、ナリチュー的な思考停止のマインドが変わっていなければあまり意味がないですよね。現にユクチューは相変わらず使い続けられているわけで。
そうそう。第2、第3のナリチューが出てくるだけですからね。私はジャーナリズムの反対語はマンネリズムだと考えています。ジャーナリズムは日々起きることに対して、感覚を研ぎ澄ましていかなければいけない。ところが、「これでいいや」と手を緩めるとマンネリズムに陥ってしまう。思考停止してしまったら終わりです。
――星さんは3月28日からTBS系「NEWS23」のキャスターを務めます。放送法の縛りがある分、テレビは新聞以上にナリチュー報道になりがちなのでは。
確かにテレビでも「成り行きが注目されます」「先行きは不透明です」「予断を許さない展開です」といった表現は散見されます。しかし、ナリチューのような意味のないフレーズを並び立てることが「公平」「中立」というわけではない。「自分がこう思う」ということはハッキリ言えばいいんですよ。そのうえで、「反対の意見もあります」と両方紹介すればいい。
――では、NEWS23ではナリチュー的なコメントはしない?
絶対使いません(笑)。海外の特派員やデスク、現場の記者とも使わないようにしようね、と話しています。
インタビューは以上です。星さんが新生NEWS23をどうかじ取りしていくのか、成り行きが注目されます。
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