感動
夫なじる妻、心閉ざす娘 ギャンブル依存症映画が生まれた悲しい理由
ギャンブル依存症の人とその家族を描いた映画が、リアルすぎると話題になっています。観客からは、自分の記憶が呼び起こされ涙をおさえられない人も。
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ギャンブル依存症の人とその家族を描いた映画が、リアルすぎると話題になっています。観客からは、自分の記憶が呼び起こされ涙をおさえられない人も。
ギャンブル依存症の人とその家族を描いた映画が、リアルすぎると話題になっています。依存症を経験した人からは「まるで過去の自分を見ているようだ」と驚きの声があがるほどで、劇場では、自分の記憶が呼び起こされ、涙をおさえられない人も。なぜ、そんなに生々しい描写になったのか。そこには監督が体験した悲しい記憶がありました。
映画のタイトルは「微熱」(小澤雅人監督)。現在、東京・渋谷の映画館ユーロスペースで開催中の短編映画祭「新春全力映画祭」で上映されています。
将来を有望視されていたマラソン選手が練習中の事故で引退を余儀なくされ、喪失感からパチンコに通うようになります。
妻と幼い娘を養うためにまじめに働く一方、どうしてもパチンコをやめられない。借金を重ねる夫をなじる妻、そして両親の言い争いを毎日見聞きし、自身も被害者になる幼い娘。壊れていく家族の姿が淡々と描かれていきます。
作品は2015年、スペインの短編映画祭で最優秀短編賞を受賞しました。
映画館では、かつてギャンブル依存症だった人やその家族の姿を見かけました。
依存症から回復した男性は「妻から文句を言われ、何も言い返さずに目をそらす夫が、まるで昔の自分を見るようだった」と話します。悪いことをやっているという自覚があるから、強く反抗したりはしないそうです。
また、別の女性は夫のギャンブルに苦しんでいた過去を思い出して涙を流していました。
それにしても夫婦の会話がとてもリアルで、まるでドキュメンタリーを見ているかのようです。
その理由を、脚本も務めた小澤雅人監督(38)は「私の父親もギャンブル依存症だったので、依存症者と振り回される家族の雰囲気はわかるんです」と教えてくれました。
子どもの頃、父親を近くのパチンコ屋に迎えにいったり、母親が父を強く非難するのを聞いたりして育ったそうです。大きくなるにつれ、自分の家族が周囲と違うことに気づいた小澤さんは、「現実から逃れるために、映画にのめり込んでいった」と言います。
結局、ギャンブルが理由で、小澤さんが二十歳のときに両親は離婚、それ以来父親とは会っていません。小澤さんは「機能不全に陥った家族の姿を描きたかった。ギャンブル依存はその端緒なだけで、依存症に対する反響の大きさに驚いた」と話します。
映画祭のために作った短編作品なので、今後の上映予定はないはずでした。しかし、映画を見たギャンブル依存症の支援団体や福祉関係者などから自主上映の申し込みが寄せられています。
全国での上映会を提案しているギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表は「映画を見れば、ギャンブル依存症の家庭で起きている問題を知るきっかけになる。いままでになかったリアルな映画を1人でも多くの方に届けたい」と話します。
短編映画なので、余計な説明はなく、ラストもはっきりと結論を描いていません。それだけに見終わった観客が、感想を語り合う姿が見られました。
これまでも児童虐待や機能不全家族などの映画を撮ってきた小澤さんは、「映画に登場する家族は、決して他人事ではなく、私たちの身近にいる。その人たちに支援の手を差し伸べるにはどうすれば一緒に考えてほしい」と話しています。
「微熱」の上映は22日午後9時から、渋谷ユーロスペースで。
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小澤雅人(おざわ・まさと) 1977年生まれ。2004年映像テクノアカデミア映画学科映画映像編集クラス卒業。児童虐待や機能不全家族といった社会問題をテーマに映画を撮る。2013年に長編映画「風切羽?かざきりば?」を発表。今年6月に公開予定の長編映画「月光」には、6年後の微熱の家族が登場する。
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