2015年11月27日

パリのテロ ヘミングウェイ「移動祝祭日」がベストセラーに

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フランス国旗の色にライトアップされたエッフェル塔=16日午後、パリ、金川雄策撮影

フランス国旗の色にライトアップされたエッフェル塔=16日午後、パリ、金川雄策撮影

出典: 朝日新聞


 11月13日にフランス・パリで起きた、同時多発テロ。多くの人の命を奪ったこの事件のあと、ノーベル賞作家アーネスト・ヘミングウェイがパリで過ごした青春時代を綴った本「移動祝祭日」がベストセラーになっています。フランス語版タイトルの“Paris est une fête”は、ツイッターのハッシュタグとして使われ、テロ現場にこの本と花を供えた写真をアップする人もいます。きっかけは、ある「おばあちゃん」のインタビューでした。

11月24日時点のアマゾンのベストセラー。26日時点では、全ジャンルでは4位、伝記のジャンルでは1位となっている

11月24日時点のアマゾンのベストセラー。26日時点では、全ジャンルでは4位、伝記のジャンルでは1位となっている

出典:Amazon

フランスのアマゾンで1位に

 1920年代、最初の妻ハドリーと共にパリで暮らし、文学修業をしていた若きヘミングウェイ。「移動祝祭日」では、ガードルード・スタインやスコット・フィッツジェラルドなど、多くの芸術家たちと交流しながらパリで過ごした日々が、郷愁に満ちた筆致で描かれています。この本が書かれたのはヘミングウェイの晩年で、出版されたのはヘミングウェイが亡くなったあと、1964年のことでした。

 フランスのアマゾンでは、ガリマール社のペーパーバック版の“Paris est une fête”は、11月24日の時点で全ジャンル中ベストセラー1位。大手書店Fnacのネットショップでも、1位に入っています。アマゾンに最近投稿されたレビューでは「11月13日のテロのあと、抵抗のシンボルとなった本」と書かれています。テロの現場で、花やロウソクと一緒にこの本を供える人もいます。


出典:@chlubacのツイート

「ダニエルおばあちゃん」は何者?

 テロの後、この本が注目を集めたきっかけは、ある高齢の女性への街頭インタビュー。穏やかでありつつも力強い口調で、以下のように語った動画は、インターネットで多くの人にシェアされ、共感を呼びました。

 亡くなった人々に花を捧げること、そしてヘミングウェイの本「移動祝祭日」を何度も読むことは、とても大切です。なぜなら、私たちはとても古い文明を持っているからです。私たちは、私たちの価値を高めます。(中略)自由に、そして穏やかに彼らの宗教を実践する、500万人のムスリムとは友愛を深めます。そして「アラーの名のもとに」いう名目で人を殺す、1万人の野蛮人たちとは戦います。

出典:BFMTVのインタビュー動画

 彼女の言葉に感銘を受けた一人による、「この人が誰なのかを探しています、彼女に花を送るためです」というツイートは、1300回以上リツイートされました。その後ツイッターなどを通じ、彼女がダニエル・メリアンという名の引退した元弁護士であることがわかり、ネット上では「ダニエルおばあちゃん」という愛称で呼ばれるように。テレビ番組で新たなインタビューが放送されたほか、ツイッターでは「ダニエルに花を」という意味の「#DesFleursPourDanielle」というハッシュタグが使われ、インターネット上で募金まで行われています。


出典:@Karim_Boukerchaのツイート

「移動祝祭日」とパリの日常

 「移動祝祭日」の中には、ヘミングウェイがハドリーと一緒に、セーヌ川にかかる橋の上からパリを眺める場面が出てきます。

私たちは顔をあげた。すると、愛するすべてがそこにあった。私たちのセーヌと、私たちの街と、私たちの街の中の島とが。

出典:新潮文庫「移動祝祭日」(アーネスト・ヘミングウェイ著、高見浩訳)81ページ

 お気に入りのカフェでカフェ・クレームを飲みながら短編を書き、セーヌ河岸の古本屋で本を探す。またある日はハドリーと競馬場に出かけた帰り、街を散歩をしてレストランで食事をする。ヘミングウェイが「移動祝祭日」で描いたのは、彼がこよなく愛したパリの日常風景です。

 テロのあと、ツイッターでは「みんなビストロへ」という意味の「#tousaubistrot」や「私はテラスにいます」という意味の「#jesuisenterasse」など、あえてテロ以前とは変わらない日常生活を楽しもうという、ハッシュタグが使われています。


出典:@Omiste34350のツイート。「もちろん、僕たちはテラスでビールを飲むために出かけるよ。君たちのために僕らの生活を手放しはしない!」

 およそ90年前のパリでの日常風景を綴ったヘミングウェイの本には、テロの後でもカフェやビストロで過ごす時間を大切にしようとする、フランスの人々の心に触れるものがあるのではないでしょうか。

襲撃のあったカフェでは、店のガラスが入れ替えられ、開店準備が進んでいた=21日、パリ、金川雄策撮影

襲撃のあったカフェでは、店のガラスが入れ替えられ、開店準備が進んでいた=21日、パリ、金川雄策撮影

出典: 朝日新聞

日本での売れ行きは?

 日本語版の「移動祝祭日」は、福田陸太郎訳で三笠書房や岩波書店から出版された後、2009年に新潮文庫から、高見浩による新訳が出ています。

 版元の新潮社広報部によると、11月24日時点で新潮文庫版は4刷3万1千部。フランスでベストセラーとなっている事実は知らなかったそうです。

 この「移動祝祭日」がフランスでベストセラーになっているというニュースが英語メディアなどで報道され始めた21日頃からは、少し動きが出ているそうです。ただし、今回の出来事との関連はわからない、とのことでした。


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