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サカナクション山口一郎、カラオケ館ジャック 音楽業界の未来を語る

快進撃を続けるサカナクション。フロントマンの山口一郎が、カラオケ館に出現した理由とは? 音楽業界への未来について語った。

「未来の音楽に嫉妬していたい」と語る、サカナクションの山口一郎=10月22日、カラオケ館上野本店
「未来の音楽に嫉妬していたい」と語る、サカナクションの山口一郎=10月22日、カラオケ館上野本店
レッドブル・ミュージック・アカデミー「LOST IN KARAOKE」での山口一郎(左)らのパフォーマンス=(C) Suguru Saito / Red Bull Content Pool
レッドブル・ミュージック・アカデミー「LOST IN KARAOKE」での山口一郎(左)らのパフォーマンス=(C) Suguru Saito / Red Bull Content Pool
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「僕らただの音楽好きな兄ちゃん、姉ちゃん」

 ――NFには「CDで稼げない時代なので、イベントの方に軸足を移していこう」というビジネス的な含みも多少あると思っていたのですが、お話をお伺いしていると、もっと純粋なプロジェクトなのですね。啓蒙というか……。

 啓蒙っていうとおこがましいですけど、音楽好きな人たちが増えていけば、自分が好きだと思う音楽も広がっていくんじゃないか、という純粋な気持ちしかないです。僕らただの音楽好きな兄ちゃん、姉ちゃんなんで。

 自分たちがカッコイイと思うスタイリストや映像ディレクター、ヘアメイクの方を、企業の人たちも「やっぱりカッコイイよね」と言うようになれば、CMとかを通じて美しいものが広がっていくわけじゃないですか。そうやって文化の価値を上げることって、自分たちの仕事に直結していくと思うんですよ。

 芸術の一部としての音楽を楽しむ価値観を持ち、エンターテインメントとしての音楽も受容できる。縦ノリもできるし横ノリもできるっていう、両方備わったハイブリッドなリスナーを増やしていくことって、全部のシーンにとってすごくいいこと。それが実現できた瞬間に、きっと未来は変わっていくんじゃないかな。

「LOST IN KARAOKE」での山口一郎(左)らのパフォーマンス=(C) Yukitaka Amemiya/Red Bull Content Pool
「LOST IN KARAOKE」での山口一郎(左)らのパフォーマンス=(C) Yukitaka Amemiya/Red Bull Content Pool

「原盤権をクリエーターに」

 ――今年は定額制の音楽配信サービスが相次いでスタートし、ストリーミング元年とも言われています。パッケージのCDが売れない時代、ビジネス面ではどのような展望を抱いていますか。

 原盤ビジネスっていうものが終焉を迎えつつある。そこでメーカーがどう生き残っていくか、というのも考えていかなくちゃいけないんですけど。ただ一つ言えるのは、音楽好きな人たちがいなくなることはないですよ。

 CDで大きな収益を得られなくなった時に、大きな収入源としては、やはりライブになっていくでしょう。ただ一方で、CDってモノの価値をどれだけ高めることができるかについては、チャレンジしてこなかったように思うんですね。

 実現するかまだわからないですけど、僕が今考えているシステムは、CDの原盤権みたいなものをクリエーターに分配するというものです。映像ディレクターやヘアメイク、カメラマン、プロモーター……。そういったところに原盤権を分配すると、結果、いいものをつくろうとする気持ちが動く。それが自分の収益になるわけですから。

 《※原盤権は著作隣接権の一つ。レコーディング費用を負担したレコード会社や音楽出版社などに与えられる。作詞作曲などの著作権とは異なる》

「LOST IN KARAOKE」NF ROOMでの和太鼓のパフォーマンス=(C) Yukitaka Amemiya/Red Bull Content Pool
「LOST IN KARAOKE」NF ROOMでの和太鼓のパフォーマンス=(C) Yukitaka Amemiya/Red Bull Content Pool

 そういった形をとると、CDをつくるときの新しいアイデアがいっぱい出てくると思うんですね。たとえばCDを書籍化するって話も昔ありましたし。それが、モノとしてのCDの価値や、「欲しくなる」っていうところにつながるような気がしていて。
 
 マネジメントに関しても、ミュージシャンやアーティストだけでなく、クリエーターも所属できるような総合マネジメントみたいなものが多分、これからできてくるんじゃないかな。カメラマンやスタイリスト、ヘアメイクも所属して、マネジメントのイベントとして面白いことをやったり。そこがCDに代わる何かを発信するとか、原盤権を所持するとか。

 来年・再来年になれば、また状況は変わっているかもしれない。既存のシステムが崩壊していくなか、そこにどう新しい風を吹き込むかっていうのはチャレンジしかないですよ。自分の立場をそういうところで利用してもらって、シーンにとっての潤滑剤・奮起剤になっていくことができたら、曲のつくりがいもありますね。

「何より先にやるべきことは音楽の復興」

 ――プロテストソングについてお伺いします。ここ最近、若者たちが声をあげ始め、ミュージシャンが意見を言うことも珍しくなくなってきました。この間の社会の変化を受けて、思うところはありますか。
 
 今のリスナーが音楽に注いでいる視線って、ブログ的なものだったり、名言的なものだったりする。何かを隠喩してプロテストソングをつくったとしても、気づいてもらえないと思うんですよ。だけど、それってある意味、僕にとってはチャンスで。自分の思いや政治的思想みたいなものを音楽に込めたとしても、気づかれない。気づく人だけが気づくっていう。

 若者たちが声をあげるのは、実はとても自然なことです。ただ、若者が声をあげた時に、団塊の世代の学生運動を経験してきた人たちが、しっかりとその道筋、やり方みたいなものつくってあげないと、サイレント・マジョリティーの気持ちを動かすことはできない気がするんですね。僕はそのやり方がやっぱりすごく重要だと思うし、そういった部分でのニューヒーローが出てくると、きっと音楽も変わると思う。

安保法制に反対し声をあげる若者たち=2015年9月15日
安保法制に反対し声をあげる若者たち=2015年9月15日 出典: 朝日新聞

 でも、それがミュージシャンから生まれるとは、僕は考えていないですね。ミュージシャンや音楽にかかわる人間が、何より先にやるべきことは音楽の復興です。このままだと、僕らの世代が素晴らしいと感じてきた、様々なものを内包した音楽が、「表現」とは言えないようなものになっていく。声をあげて「好き」と言えない状況になってしまうんじゃないか。

 そうじゃなくて、音楽の楽しみ方を一つしか知らないような真面目で健全な若者たちに、アナーキーな楽しみ方やアンダーグラウンドな面白さを堅実に伝えていくことが、ミュージシャンの使命のような気がします。それが表現の一部として、自分のつくるものの理由としてあるべきだと思うんです。

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