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お金と仕事

就活繰り下げとは何だった?「時期論争やめよう」常見陽平さんに聞く

就活時期の繰り下げとは何だったのか。就活事情に詳しい常見陽平さんは「もう時期の論争はやめよう」と訴えます。繰り下げで得をしたのは誰?

就活時期繰り下げについて「時期論争はもうやめよう」と訴える常見陽平さん
就活時期繰り下げについて「時期論争はもうやめよう」と訴える常見陽平さん

目次

 就活時期繰り下げとは何だったのか。リクルート出身で、『「就活」と日本社会』、『「就社志向」の研究』など、就活関係の著書の多い常見陽平さんは「もう時期だけの論争はやめよう」と訴えます。就活時期繰り下げで得をしたのは誰か? まだ内定を取れていない学生はどうすれば? 大学教員でもある常見さんに就活時期繰り下げについて聞きました。

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「保険」「キープ」「就活休み」長期化した就活

 今年、就職活動の選考開始が4月から8月に後ろ倒しになりました。学生の学業を大事にするという狙いがありましたが、経済団体の指針を守らない企業が出たり、例年と違うスケジュールに戸惑う企業が出たりするなど、新ルールに対する疑問の声が続出する事態になりました。9月8日には、経団連の榊原定征会長が会見で指針の見直しを検討する考えを表明しています。

 「今年、学生の間ではやった言葉は『保険キープ』と『就活休み』です」。常見さんは、就活後ろ倒しに対して学生は「しなやかにしたたかに対応している」と見ています。「5、6月のうちに本命ではない会社の内定を取って『保険キープ』する。大手企業が解禁になる8月までは『就活休み』をする。それが、後ろ倒しの実態です」

 後ろ倒しの是非論について常見さんは「どうせフライングする会社は出る。時期の議論をするのは、もう、やめよう」と訴えます。「早めに内定を出した企業も、8月以降、ひっくり返される可能性はある。学生はちゃんと企業の事情を見ている。『オワハラ』という言葉は、学生をつなぎとめる自信のない企業側の焦りの現れ」

記事データベースを使って就職活動用の企業研究をする学生たち
記事データベースを使って就職活動用の企業研究をする学生たち 出典: 朝日新聞

効果発揮した「リアルな人間関係」

 常見さんが重視するのは、リクルーターの存在です。「今後、カウンターで相談に乗るような、リアルの場が必要になる」と見ています。

 「就活時期繰り下げなど、前例のない採用スケジュールの中、効果を発揮したのはリクルーター、面談などを通じた人間関係だった。ネットだけではない、リアルな接点の大切さが浮き彫りになった」

 常見さんは、最近、注目されているインターンシップについて「早めに社会人に触れる機会として重要」と言います。「企業は、ありのままの姿をさらけ出して、学生と信頼関係を築くべき。そうすれば、時期論に巻き込まれず、『オワハラ』なんていう言葉とは関係のない土俵で、落ち着いた採用活動ができる」

 就職情報サイトについて「基本的な仕組み約20年間、ほぼ変わっていなかった」と指摘する常見さん。

 「今の膨大な企業の掲載数の中から、学生は本当に最適な就職先に出会えているのか。例えば、リクナビを運営するリクルートグループの不動産情報サイト『SUUMO』は10年くらい前から、注文住宅に関してリアルなカウンタービジネスの拠点を全国に展開している。就活も、ネットとリアルのハイブリッドな、次のプラットフォームが求められている。就職ナビ=ネットというわけではないはず」

合同会社説明会に集まった学生=福岡市博多区の福岡国際会議場
合同会社説明会に集まった学生=福岡市博多区の福岡国際会議場 出典: 朝日新聞

「早めに動いた学生に内定集中」

 大学教員でもある常見さんですが、就活時期繰り下げでは「大学側の姿勢が問われた」と言います。

 「時期を変更して、どれだけ留学する学生が増えたか。ちゃんと学生を勉強させようとした大学が、どれだけあったか。就活時期変更によって一番影響を受けるのは、実は卒論。大学側が卒論を軽視していたのがバレてないか?学業を阻害するから早期化、長期化はけしからんという論理だったが、早期化と長期化は違う。早めに内定を得て、ゆっくり勉強するという世界観だってあるはず。なんでも就活のせいにして、勉強をさせる努力を大学は行ったのだろうか?」と疑問を投げかけます。

 まだ内定を取れていない学生へは「やれることは、たくさんある」と断言。「大学のキャリアセンター、就職課を使おう。学生の適性と、それに合う企業を引き合わせる場として、就職課はもっと活用されるべきだ」

 常見さんは「早めに動いた学生と、そうではない学生の差が出た」と見ています。

 「就活の開始が早かった学生は、相場観がわかる。優秀な学生は、そこで学んで成長する。面接の受けもよくなる。8月より前に採用活動を始めた企業は、優秀な学生を早く囲っておきたい。結果的に、一部の学生に内定が集中する事態になった」

企業の合同説明会に参加する学生たち=東京都江東区
企業の合同説明会に参加する学生たち=東京都江東区 出典: 朝日新聞

「採用は狩り、釣り、戦闘」

 「就活時期繰り下げは、結果としては就活の自由化だったのではないか?」。そう総括する常見さん。「就活の時期論争は1920年代からあって、結局、守られない状況がずっと続いてきた。もう、時期にこだわらず、自由な考え方で、学生と企業の出会い方を作り上げなければならない。もっとも、なんらかの目安がないと動けないのも現実だが」と言います。

 「100社も応募せず、5社くらいの中から選べないのか。リクルーターが早めに学生を囲い込む会社がある一方で、ゆっくりいつでも来ていいという所があってもいい。みんな総合職を受ける必要もない」

 「採用って狩り、釣り、戦闘。今の学生は忙しい。課題が多いしバイトもある。リアルな大学の姿を分かったうえで、何のために人を採るのか。企業には、そこを、真剣に考えてほしい」
    ◇
つねみようへい 1974年生まれ。リクルートなどを経て独立。千葉商科大学専任講師。『僕たちはガンダムのジムである』『「意識高い系」という病』など著書多数。

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