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アダルトビデオ業界、違法コピー動画対策に本腰 海賊版削除の現場

アダルトビデオ(AV)業界が違法コピーの動画対策に本格的に乗り出しています。

ネット上の海賊版動画の削除に取り組むAV業界の団体・知的財産振興協会。「自分たちでルールを決めることで、作品の表現がいきすぎないようにしています」。
ネット上の海賊版動画の削除に取り組むAV業界の団体・知的財産振興協会。「自分たちでルールを決めることで、作品の表現がいきすぎないようにしています」。

FC2の儲けのカラクリ

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--FC2によってAV業界の売り上げがどれくらい減ったか、試算したのですか?

 裁判で出したのは、例えばAという動画がDMMの動画サイトで500円で視聴できるとして、それがFC2で1万回見られていたら、500×1万で500万円の損害、というような計算方法で裁判に臨みました。

--FC2の儲けのカラクリを教えてください。

 いろいろあるようですが、例えばAV作品の海賊版動画だと、ネット上で動画をみせて、3分くらい経ったら、「ここから先をみたかったら有料会員になって」っていう表示がでてくるんです。その設定は動画をアップする人ができるんですけど、有料会員が増えると、例えば会費が年間6千円だったりするとその50%を動画をアップした人に戻すんです。みんなそのキックバックが欲しくて、動画をどんどんアップするんですね。

--なぜ裁判は長引いているのですか?

 相手の弁護士は米国の話だから米国で裁判して米国の法律を使うべきだと主張してまして。そうした「入り口」のやりとりが続いています。

--AVメーカーのコンテンツがFC2上に許可なく掲載されているのは明らかなのに、FC2側は裁判でどういう主張をするのでしょうか。

 相手側とすると「場所貸しです」ということでしょう。アップしているのはFC2のユーザーなので、「場所を貸しているだけ」という感覚ですよね。

--悪いのはアップロードした人だと。

 ですね。でも、我々としては「そうじゃないだろ」と。

サイト「無料エロ動画 - FC2動画 アダルト」には違法コピーしたとみられる動画が大量にアップロードされている。(トップ画面をキャプチャー)
サイト「無料エロ動画 - FC2動画 アダルト」には違法コピーしたとみられる動画が大量にアップロードされている。(トップ画面をキャプチャー)

--新聞業界でも似たようなことがあります。「まとめサイト」を名乗り、新聞社がサイトに載せたニュースや写真を無断転載して広告を載せ、儲けている業者がたくさんいます。こうした業者はプロバイダー責任制限法などを盾にして、「指摘されれば削除します」「著作権のない写真などを勝手にアップされ、むしろ我々も被害者です」と平気で言います。しかし、実際はそうした業者は「場所貸し」にとどまらず、むしろユーザーに奨励金をだしたりして、違法な転載をあおっています。

 FC2もそうです。AV作品のコピーをユーザーにアップさせて、有料会員が増えたら収入のいくらかを戻しますよ、と誘導している。そういう風にあおってるんだから、あなたたちは著作権侵害の主体でしょと、ずっと闘っているんです。こちらの指摘を受けるたびに消して入ればOK、という問題じゃない。

--民事訴訟に至るまで、削除申請を重ねてきたんですよね。

 IPPAとして、FC2対策を始めたのは2010年くらいですね。ネット対策に本腰を入れ始めた頃です。見つけては消してください、見つけては消してください・・・って、ずーっとやってます。

--いたちごっこですね。

 そうですね。変な言い方ですが、我々が取り組んだ結果、FC2では無修正動画をよく見かけるように感じます。我々は無修正モノは扱っていないので、別のところから素材を持ってきているようです。

 それから、FC2はIPPAの担当者がずっと監視しているんですが、違法コンテンツは探しづらくなっています。例えば、動画のタイトルを女優名ではなく「japan girl 0001」とか、分からないようにしている。120分あったものを60分で切って、分割してしまう。検索できないようにして、手口が巧妙化しています。

 3年ほど前、動画のデータマッチングっていうのを利用したことがありまして。動画の指紋みたいなものがあって、それを使って違法コピーをプログラムに探させる、というのを試したんですけど、精度がいまひとつで。結局、いまは専門の担当者を数人雇って、人力で探しています。

違法コンテンツを探す専門部隊
違法コンテンツを探す専門部隊

台湾「わいせつ物に著作権なし」

--IPPAの取り組みでは、台湾の海賊版AV工場の摘発事例もありますね。

 それは現地の警察とIPPAで連携して取り組みました。ただ、海外での取り組みってなかなか難しくて。台湾だと、「アダルト動画=違法なわいせつ物」になり、そもそも著作権がなかったり。実際にAVに著作権を認めない、台湾の最高裁の判例も出てます。なので、そうした状況をくつがえすため、現地の警察に協力して、摘発までもっていってます。

 協力というのは、まずは著作権者の確定ですね。こっちから持ち込むこともあれば、警察から相談を受けることもあります。現地の警察はやるとなると早いんですね。向こうの気質かもしれません。

--AV作品にどうやって著作権を認めさせたんですか。
 
 現地では「ソフトコア」と言うのですが、ソフトなAVはわいせつ物じゃなく、著作権侵害が成立する、という判例が昨年、台湾の知財高裁でやっと出たんです。それから台湾の検察さんが一気に動き始めました。去年だけで台湾の摘発案件が4件ほど。店舗も6店、コピー工場も摘発され、DVDも23万枚以上が押収されました。IPPAは台湾にも支部を置いています。

--日本のAV作品は海外でも人気あるんですね。

 大人気です。蒼井そらさんが中国で大人気なのは有名ですよね。日本のAV女優は台湾にいったら大歓迎されます。

--IPPAの活動はなぜ台湾に重点を置いているのでしょうか。人口が多い中国大陸での被害を防ぐなら、北京や上海ではないのでしょうか?

 DVDが台湾でコピーされて大陸に出回る、台湾が「蛇口」だというのがずっと言われているんですね。大阪の電気街・日本橋に無修正の作品からコピー品までずらっと並べている店があって、そこでDVDが買われて台湾などの海外に流れていったり。難波のお店を摘発しても、しばらくするとまた別の場所にできている。日本橋だけでも生き残っている店舗が9店舗くらいあります。

違法コンテンツが集まるサイトを手分けしてチェックしていく
違法コンテンツが集まるサイトを手分けしてチェックしていく

動画26万件を削除

--海賊版のDVDを売る店の摘発に、IPPAは力を入れていますよね。実績を教えてください。

 2014年度は12店が摘発され、逮捕者が19人。警察に押収されたDVDは18万枚です。

--被害額は?

 1枚3千円で換算すると、5億4千万円ほどになります。著作権違反全体からすれば、ごく氷山の一角ですが・・・。国内のインターネット絡みの案件だと、逮捕者5人、押収DVD1万1千枚の捜査に協力しました。

--ネット上には毎日、数多くの海賊版AVがアップされています。削除申請してもきりがないような気もしますが・・・。

 たしかにネットなんで、放っておくと増殖しちゃいます。なので、より多くの人たちが見ているようなサイト、拡散力のあるサイトを優先的に調査して、削除申請しています。被害を最小限に食い止めるのがネット対策の基本です。去年は26万件のネット動画を削除させました。

AV女優の名前や顔、作品の特徴などから著作権を侵害している違法コンテンツを割り出す
AV女優の名前や顔、作品の特徴などから著作権を侵害している違法コンテンツを割り出す

「女優さんにギャラ払えない」

--さきほど、IPPAの調査チームが違法動画を見つける作業現場を見学させてもらいましたが、ある有名女優さんのAV作品の違法コピーが80万人に見られていました。なのに、女優さんには1円も入ってこない。

 そうなんですよ。だから海賊版って本当に許せないんですよ。みんな、ただで見られる海賊版でもいいって思ってるかもしれないですけど、それ続けていくと業界が衰退していきます。メーカーさんにお金が入ってこなければ、良い女優さんにギャラも払えない。良い作品、面白い作品がなくなっちゃうのに、みんなネットで海賊版見ちゃうんですよね。

--新聞業界でも、コストを払って取材しても記事や写真を盗む人たちがいて。「まとめサイトでいいや」ってみんなが思ってると、結局、良質な記事が減っていきます。AV業界では実際、先細ってる感はあるんですか?

 そうですね、DVDが売れなくなってきています。DVD買う前にまず「インターネットに落ちてないかな」って検索するのが若い人たちに多いようです。その層をなんとか育てていかないと、DVDを置くショップさんがどんどんなくなってしまいます。

 アダルトだけじゃなく漫画や小説や映画もそうでしょうけど、コンテンツにお金を払おうっていう意識が若い人にはなかなかない。

--海賊版AV、1日にどのくらいの削除要請をしているんですか?

 FC2のようなものや、「ストレージ」ものも合わせて、1日2千件、月に4万件くらいですかね。ストレージものというのはですね、サーバーに海賊版AVをたくさん置いといて、ダウンロードの速度を早くしたかったら、有料会員になってください、という形で儲けているところです。

IPPAの申し立てによって配信が停止された動画
IPPAの申し立てによって配信が停止された動画

「海賊版、少しでも食い止める」

--それぞれの団体が別々にやるよりは、IPPAでまとめて取り組んだほうが、コスト安ですよね。それに、「この海賊版はうちの作品じゃないから放置」とならずに効率的な面もありそう。

 そうです。見つけたものから削除要請できます。以前は、各メーカーも著作権侵害はわかっていても、コストをかけて独自に人を雇って削除に取り組む、とはなかなかしにくかったんです。業績が冷え込んでますから。そこをIPPAができる限りケアしてます。

--いま、そうした海賊版をチェックしている担当者さんは6人ですよね。これを倍の12人にすれば削除件数も倍になりますが、きりがない面もあります。

 海賊版対策って、直接の効果が見えにくいんですよ。目に見える利益を生むものではないので。けれど、それを放置しておいたら、もっとひどくなる。少しでも食い止めたいと思って取り組んでます。

 アメリカ系のサイトは削除申請するとすぐ消してくれるのですが、ヨーロッパ系だとなかなか消してくれなかったり。著作権意識の違いでしょうか、いろいろ苦労はあります。
--海賊版の業者を壊滅に追い込む手立ては?

 短期的には、とにかくみつけたものを削除させていく。中期的ですと、刑事告訴や民事訴訟、法を使った取り組みです。さらに長期で言えば、一般のユーザーさんへのアピールですね。「お金出して買ってくれないと業界が衰退します」「海賊版DVDの売買やダウンロードは違法ですよ」といった啓蒙活動。時間をかけて、コンテンツにお金を払う人を増やしていきたいです。

--昨年秋にAV業界が開いたイベント「ジャパンアダルトエキスポ」でもそういった訴えかけをしてるんですか?

 そうです。ユーザーさんをいっぱいお呼びして、女優さんに「海賊版はダメよ」ってやってもらったり。業界を元気にさせていこうと。2日間で7千人の来場者があり、今年もやります。

(聞き手・朝日新聞デジタル編集部 福山崇、古田大輔)

ジャパンアダルトエキスポのポスター。海賊版を禁止するためのユーザーへの啓発活動でもあるという
ジャパンアダルトエキスポのポスター。海賊版を禁止するためのユーザーへの啓発活動でもあるという

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